Kaleidoscope 73





夜中、目が覚めた颯斗は背中にびっしょり汗をかいていた。

心臓の鼓動が早く、深呼吸をして落ち着ける。

「夢のままなら良いんですけど...」

呟き、ベッドから降りて空を見上げた。

重い雲が星空を隠している。

そのまま颯斗は再び眠ることは出来ず、朝を迎えた。


「颯斗くん、目の下にクマができてるよ」

「おはよう」の挨拶もなく、教室で顔を合わせたは心配そうに颯斗の顔を覗きこんだ。

「ちょっと夢見が悪くて...」

困ったように笑って颯斗が言う。

「大丈夫?保健室にいく?」

「大丈夫ですよ、ありがとうございます」

「どんな夢?話したら正夢にならないって言うけど」

「詳しくは覚えていないんです。何となく、嫌な夢だったっていう」

そう返した颯斗に「そうなんだ?」とはやはり心配そうな表情を浮かべている。

本当は覚えている。

彼女を泣かせる夢だった。それが妙にリアルで、口に出すことすら躊躇われた。

放課後、ピアノの練習をする。に付き合ってもらい、ピアノを弾いていると突然音楽室のドアが開いた。

驚いた颯斗は手を止め、そして音楽室にやってきた人物に更に驚く。

「意外ね。そんな風にも弾けるようになったのね」

おそらく身内だろうな、とは分かる。何となく似てるから。

「颯斗くん?」

「姉さん...」

「それ?って」

「あの、こんにちは」

がペコリと頭を下げた。

しかし、音楽室に入ってきた颯斗の姉はのことを汚いものを見るような目で見る。

さん、今日の練習はここまでにします。生徒会室に戻っていてください。あと、僕はちょっと今日は行けそうにありません、一樹会長に謝っておいてください」

颯斗の声音は反論を許さないものだった。

は「わかった」と頷き、「失礼します」と颯斗の姉にペコリと頭を下げて音楽室を後にした。


「...何の用ですか、姉さん」

「そこそこの演奏が出来るようになったのね」

自分の言葉はこの人に届かない。この人だけではなく、家族全員だ。

「あれが、夏凛の妹?どれほどの価値があるのかしら。栄誉を、名誉を捨ててまであれを選んだんでしょう?」

吐き捨てるような姉の言葉に思わず反論しそうになって、グッと言葉を飲んだ。

大人しくしておくのが一番なのだ。

「あなたの今のその演奏なら、お父様もお母様も認めるかもしれないわ。けど...」

そう言ってが出て行ったドアを睨みつける。

姉の考えていることを察した颯斗は俯いた。どうにかして彼女を守らなければ...



「おはよう、颯斗くん」

翌日、が颯斗を見つけて追いつき、挨拶をした。

「おはようございます」

冷たい声音にの表情が固まる。

そのまま足を止めたを置いて颯斗は教室へと向かった。

拒絶された。

はそれがすぐに分かる。

あの生徒会長への立候補について葛藤しているときでさえ、あそこまでの拒絶はされなかった。

何かしてしまったのだろうか。

したのだろう。

ちゃんと距離が測れなくなったのかもしれない。それなら、仕方ない。

諦め方は知っている。大丈夫、慣れている。



***



昨晩、琥太郎から連絡があり、すぐに広報に連絡をした。

広報は最初渋ったが上官からの命令という形で削除してくれた。

色々と柵のある身である。

既に問い合わせが来ているとも聞いた。

「軽く引き受けるんじゃなかったな...」

呟き、携帯を見た。

に連絡をしておいた方が良いだろうか。

休みが取れたときにちょっと足を伸ばそう。

その方がきっと良いと思う。

きちんと顔を見て話をして...

夏凛はダイヤルを選択してコールした。

『もしもし、珍しいじゃん』

掛けた相手は弟の晴秋。

『こっちでも姉ちゃんの噂で持ち切り。そんなに有名人だったんだ?』

「あんたでそれだったらは本当に知らないでしょうね」

『自分が星月のおじさんたちにお願いしたんだろう?』

には言わないでほしい、と。

「そうよ。ね、大丈夫かな?」

『琥太いるし、月子ちゃんが居るじゃん。青空とかなら結構力になってくれるんじゃないの?あいつんちも音楽家ばっかなんだろう?』

「...嫌な予感しかしない」

頭を抱えて唸る。

『あ、姉ちゃん。電話切るな?』

「ちょっと!あたしの苦悩に付き合いなさい!」

『明日な』

そう言って晴秋が電話を切った。

「あのガキ...」

耳に届く無機質な電子音に舌打ちをして立ち上がった。

とりあえず、近々休みは取れないだろうか...

嫌な予感しかしない乙女の勘に従い、妹の元に行こうと心に決めてスケジュールの確認を行うことにした。









桜風
12.4.6


ブラウザバックでお戻りください