| 足音が聞こえては驚いて振り返り、そのまま臨戦態勢を取った。 同じ徹は踏まないと、秋の終わりの事件を思ってそう構えた。 しかし「さん」と名前を呼ばれての緊張は消えた。 「はや..とくん?」 此処最近ずっと避けられていたような気がする。『気がする』というよりも、確実なのだが... きっと自分が悪かったのだと思っていた。いい子でいることに慣れていた。 人が踏み込んでほしくないことを敏感に察してそれに触れずに付き合うことを得意としていた自分が、きっといい気になってミスをしたのだ。 そう思って、悲しいけど、諦めた。 諦めればきっと心が楽になると思った。 けれど、その逆で苦しくて苦しくて。どうしていいか分からなくて... 誰にも相談できなくて、毎日泣いた。 友達と、クラスメイトといるときはいつもどおり。 保健室で琥太郎と一緒にいるとき、彼が気遣わしげな表情で自分を見ているのは知っていたけど、どうして良いか分からなくて、でも、相談もせずにずっと抱え込んだ。 生徒会室にいるときも、一樹がよく頭をなでてくれた。「お前は良い子だぞ」と。 何処まで何が見えているのか分からない。けれど、その言葉はほんの少しだけを救った。 颯斗が目の前に立つ。 はいつものように見上げた。 「ごめんなさい、さん」と謝られた。 何故颯斗は謝るのだろうか...悪い子なのは自分なのに... 不思議そうに見上げるに向かって颯斗は手を伸ばして彼女の体を力強く抱きしめた。 「颯斗くん?」 「ごめんなさい、さん」と繰り返す。 「僕は、弱い人間です。僕のせいであなたが傷つくのが怖くて、僕は逃げました」 きょとんと見上げるは「どういうこと?」と返す。 颯斗は話をした。自分がを避けるようになったその原因、そして自分の気持ちを。 「さん、僕は強い人間ではありません。でも、僕は貴女が好きです。ずっと、傍にいさせてください」 颯斗の言葉には目を丸くして、そして颯斗の胸に顔を埋める。 こくこくと頷くを引き剥がして颯斗はの目じりに唇を落として涙を吸う。 「すみません、あなたに沢山悲しい思いをさせてしまいましたね」 は首を横に振る。 「ううん、いいの。今、凄く幸せだからいいの」 の言葉に颯斗は思わず彼女を抱き締める。 そして、の体が随分と冷えていることに気がついた。 「さん、どれだけここに居たんですか」 「んーと、わかんない。颯斗くんも薄着だよ。大丈夫?」 それは夏凛さんに引きずられたから、と心の中で思いながら「ええ、大丈夫です」と返す。 「とにかく、今日は寮に帰りましょう」 そう言って颯斗はに手を差し出した。 少し躊躇いがちに重ねたの手に指を絡ませてギュッと繋ぐ。 「この方が温かいですからね」 「そうだね」とが笑った。 以前、同じことを颯斗が言った。あのときと同じに戻ったようで嬉しかった。 「さん」と颯斗が声を掛ける。寮までの道はそんなに長くないのが寂しいところだ。 「なに?」と見上げると「僕のわがまま聞いてくれますか?」と颯斗が言う。 「わがまま...なに?」 「実は僕、結構やきもち焼きなんです」 と颯斗が言う。 首を傾げたに颯斗は目を細める。 「学校生活を送る上で、この学校なら特に仕方ないとは思うのですが、あなたが僕以外の男の人と話をしているのは面白くないんです」 「うん?」と首を傾げながらが頷く。 「晴秋さんはお兄さんなので仕方ないでしょうけど。星月先生とか」 「琥太にぃも『お兄ちゃん』だよ?」 「一樹会長とか」 「うーん...」 「水嶋先生とか」 「あ、それなら大丈夫!けど、春休みに会う約束してる...」 郁の扱いの酷さに多少の同情を感じつつも「約束、ですか?」と聞き返した。 「郁ちゃんの用事でね。内容は、ごめん。郁ちゃんの事情があるから此処で気軽に話せないんだけど...」 「僕も同行させてください、とお願いできますか?」 「郁ちゃんに聞いてみる。琥太にぃも一緒なんだけどね、その用事は」 やっぱり複雑そうな表情をしながら颯斗は「わかりました」と頷いた。 |
桜風
12.4.27
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