| 夏凛さんに優しく..諭していただき、僕の心も随分と落ち着いた。 「ところで、晴秋さんはなんでそんなことをしているんですか?」 落ち着けば、変なことをしている義兄の姿が気になってくる。 「んー?」 「こいつ、ホント馬鹿だから」 吐き捨てるように夏凛さんが言う。 「んー、結婚を許してもらえなかったから。既成事実作っちゃった」 「...はい?」 僕がこうして『父親』というものに悩んでいる傍らで、父親になることをあっさり選んだ人がいた。 「え..と...」 「あんたね。何、子供を道具にしてんのよ!」 夏凛さんが叱る。 子供を、道具... 僕は両親にとって役に立たない道具だった。それなのに、晴秋さんの子供は、ちゃんと両親が結ばれるのに役にたっている。 ガン、と頭を叩かれた。 「あの、痛いです...」 「ロクでもないことを考えた!」 指摘されて、そうだと反省する。 「遅かれ早かれ作るんだからー」 「ビックリするぐらいにモラルのない弟だわ」 「えっと、お相手の方は...」 「まあ、あたしの知ってる子なんだけどね。父親が頑固なのはよーく知ってるんだけどね。ウチの親の躾がどうこうって話しになるでしょうが!!」 ゴツンと大きな音が鳴る。 「夏凛さんは、そこが気になるんですか?」 「は?」 「あ、いえ。所謂、出来ちゃった婚という形になりますよね?」 「んなもん、当事者同士がもう大人なんだから好きにしたらいいわ。それよりも、父親すら落とせないアキに腹が立ってんのよ!!向こうの了解を得た後だったら結婚前に作ろうが、結婚後に作ろうがまったく興味ないけどね」 そういうもんだろうか... 「てか、あれだな。うちのきょうだいの子、全員が同学年だな」 晴秋さんが愉快そうに笑った。 「え?」 夏凛さんが上げた拳を止めて呆然とした。 「そう..なりますか?」 「順当に考えて、姉ちゃん、オレ、の順番だけどな。学校が違うけど、絶対楽しいぞー。、何ヶ月だって?ギリ同学年になるんじゃね??」 「そうですね」と同意した僕に対して、夏凛さんの反応は冷ややかだった。 「誤魔化すな?」 「...はい」 晴秋さんが肩を落とす。 それから一頻り叱られている晴秋さんを見届け、夏凛さんにさんをケアするときの心構えを聞いて帰宅した。 家に帰るとさんの車が既に車庫にあった。 星月学園はやはり遠いので彼女は車で通勤している。 家に二台も車があるのは経済的ではないと彼女が言っていたけど、通勤ラッシュに巻き込まれるのも大変だろうし、僕がいないときには買い物に行くのに車があったほうが彼女が便利だと思った。 さんと僕の体の大きさの差から言って、同じのを運転するのは、ちょっと不都合だと思ったのだ。 「ただいま」 玄関を開けて声をかけると彼女が玄関に立っていた。 車のエンジンの音で僕の帰宅が分かったのだろう。 「颯斗くん!」 「おかえり」の言葉がない代わりに、彼女は思いつめた表情で僕の名を呼んだ。 「お願いがあるの。子供は産ませてください」 深々と頭を下げて彼女が言う。 「ちょっと待ってください、さん」 ビクリと彼女の肩がゆれる。 「まず、リビングに行きましょう」 そう言うと彼女は深く頭を下げたまま、頷いた。 彼女の背をそっと押してリビングのソファに座らせる。 躊躇いながら僕は彼女のお腹に触れてみた。ここに、命が宿っている。 「さん、僕の話を聞いてくれますか?」 「うん...」 「僕は、怖いんです」 「怖い?」 彼女が鸚鵡返しに僕の言葉を口にする。 「はい。僕は、両親に愛されていません。だから、子供への愛はどのように注げばいいかが分からないんです。だから、あなたからここに命が宿ったと聞いたときには、嬉しいよりも怖いが強くてあなたを悲しませてしまいました」 「ううん」と彼女が首を振る。 「あなたとは、明るい家庭を築きたいと思っています。そこに、僕たち以外の存在、子供も朧げながらあります。まだ、形にはなっていませんでしたが」 思わず苦笑した。 「うん」と彼女は頷く。 「だから、どうぞ..いえ、ぜひ僕たちの子供を生んでください。僕は、父親として至らないところがたくさん出てくると思います。だから、せめて。夫としてあなたを全力で支えていきたいと思います。それで、許してくれますか?」 顔を覗きこんで言うと彼女の瞳には涙が溢れていた。 「充分だよ」 「不安にさせて、すみません」 そう言ってキスをする。 「ううん、ありがとう」 「僕のほうこそ、ありがとうございます」 とりあえず、当分彼女と体を重ねることが出来なくなったと言うことで。 これだけが、残念だなぁ... 彼女が聞いたら怒りそうなことを何となく思った。 |
桜風
14.12.12
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