| その日の夜にさんは、夏凛さんと晴秋さんと星月家に連絡を入れていた。 夏凛さんの家に電話をかけたときに声が弾んでいたのは、夏凛さんが同じく妊娠されているのでおそらく、悩み相談しやすいと思ったのだろう。 そして、晴秋さんに電話をしたときは「え?!」と声を出した後数秒沈黙していた。 その後、「凄いね」と笑った。同学年のことで笑ったのかもしれない。 星月家には丁度幸之助さんもいらっしゃったみたいで、お祭り騒ぎが始まったと電話を切った後彼女が苦笑した。 その日の晩は手を繋いで眠った。 凄く穏やかな眠りは深く、朝、目を覚ますと少し早い時間で。 彼女が隣で寝ていることを確認してほっと息を吐く。 穏やかな顔をして眠っている彼女は、母親となった。僕も父親らしいが、そこはまだ全然自覚できない。 「名前、颯斗くんにお願いしても良い?」 朝食の席で彼女が言う。 「僕で良いんですか?」 「うん」と彼女が頷いた。 「わかりました」 「あと、えっと。颯斗くんの実家にも報告しなきゃ、だよね」 「それは僕がしておきます」 そう返すと彼女は少し疑うように「いいの?」と言う。 僕が実家に言わないと思ったのだろう。 言うだけは言っておかないと、彼女が悪し様に言われる可能性がある。それは僕の本意ではないから、僕から伝える。 報告しても、やっぱり気持ちの良い言葉は返ってこないだろうから。彼女に態々気分の悪いことをしてもらう必要はない。 あ、師匠にも連絡しないといけないな... 意外と連絡をする相手がいることに僕は驚いた。 一樹会長や翼君。他にも共通の友人達にはいつ報告したらいいのだろうか... 仕事の合間に書店に行った。 マタニティ関係の本を探す。中々種類が多くて困る。どの本がいいのだろうか。 さんに聞けばいいのを探してくれるかもしれない。何と言っても、彼女は司書だ。 そういえば、学園で星月先生や水嶋先生にも報告するのだろう。 実家には先ほど電話をした。 誰に言おうか迷って、一応、両親に。 案の定、興味なさそうだった。 それはそれで僕も煩わしさがなくて良いと思った。 ポケットに入れている携帯が振動した。 ディスプレイを見ると隼風兄さんからだった。 「もしもし」 『颯斗。さっき、お父さんから聞いたんだが、子供が出来たのか?』 「...ええ」 『そうか、おめでとう。また今度顔を見せなさい』 そう言って通話が切れる。 まさか、あの家の人から『おめでとう』と単語が聞けるとは思っていなかった。 顔を見せなさいって、さんも一緒にだろうか... それはそれでやっぱり嫌だなと思ったから、僕だけ実家に顔を出そうと思った。 名付け辞典というベタなタイトルのぶ厚い本とマタニティ関係の本は、雑誌のようなものを購入してみた。 仕事の合間の待ち時間とか、そういう時間を利用して本を読んでみる。 意外と面白い。 本に書いてあったとおり、さんをケアすれば彼女は喜ぶし、名前もたくさんある。 ある日、不意に言われた。 「颯斗くんの名前って凄く綺麗だよね」 「え?」 視線を落としていた名付け辞典から顔を上げる。 「颯斗くんのご兄弟、みんな『風』なんだよね?」 「僕だけ、字が違いますよ?」 「でも、風だよ?」 そういわれた。 「さんのところは、夏凛さんと晴秋さんは季節ですよね」 「うん」と彼女が頷く。 「何て名前がいいかな?普通だったら初めてのプレゼントだけど、この子達は颯斗くんから音楽を貰ってるからね。よかったねー」 とさんがお腹に手を添えて笑った。 「え...『たち』?」 「あ、うん。双子だって」 さすがに初めてで二児の父になるとは思っていなかった。 「性別は分かったんですか?」 「まだだよ」 笑って彼女が言う。 「だから、男女2つずつ名前は考えてね」と付け足した。 驚いて声が出ない。 「颯斗くん?」 顔を覗きこんで彼女が僕の名を呼ぶ。 目の前にある顔に唇を寄せた。 「驚きました」 「ふふふ、そうだね」と彼女は笑い、「いきなり賑やかになるね」と嬉しそうに言う。 「家、広めに設計していて良かったですね」 今は使っていない部屋がある。子供部屋を、と彼女が希望したので設計には入っていた。 実際、その用途で使うかどうかは別として。 「さん」 彼女の名前を呼んで抱き寄で、僕の膝の上に座らせる。 「どうしたの?」と驚く彼女に「あなたを独占できる残り少ない時間かもしれないので」と返した。 「あら、颯斗くん。子供返り?」 「それでいいので、甘えさせてください」 そう言って唇を寄せると彼女は苦笑して「大きな子供だねぇ」と笑った。 |
桜風
14.12.19
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