| さんのお腹も随分と目立つようになり、仕事も産休に入ったある日。 僕は師匠に呼び出されて海の向こうへと渡っていた。 師匠のそばにいると勉強になる。それは間違いない。 だけど、今じゃなくても... さんは凄く心配だから、夏凛さんにお願いして僕はこちらに来ている。意外とさんは落ち着きがないから... しかし、師匠に呼び出された用事に僕は驚いた。 <はっはっはー!不満たらたらの顔が全然違う顔になったじゃないか> 師匠が愉快そうに笑う。 <仕方ありませんよ。ですが、素晴らしいと思います> 少し拗ねて思い直す。 呼んでもらえてよかった。 <ま、が落ち着いたら、颯斗をまた連れまわす予定だけどね> そう宣言されてなんと反応していいのやら。 家を空けるときは毎日電話をする。 電話越しでは物足りないが、全くないよりはあるほうがいい。 「無理していませんね?」 電話の向こうで苦笑された。 『毎日そればっかり』 「ですが、あなたは時々ビックリするくらいの無茶をしますからね」 そう返すと彼女は『そうかな?』と呟いている。 仕方ないので、これまでの例を口にすると『ストップ!もういいよ!!』と止められた。 「思い出していただけましたか?」 『はい...』 「早くあなたに逢いたいです」 零した愚痴に彼女は『わたしも』と応じてくれた。 『お仕事は忙しいの?』 「まあ、夏凛さんと似たような性格の方なので」 と言うと彼女は苦笑した。 「それでは、もう切りますね」 『うん、おやすみなさい』 「おやすみなさい、愛しています」 『わたしも』 そんな言葉を交わして通話を切った。 帰国して空港に着くとタクシーを拾って小鳥遊家に向かう。 さんは夏凛さんのところに泊まっているから。 タクシーが家の前に止まると玄関が開いた。 「ホントだ、お姉ちゃん!颯斗くんだよ!!」 さんが家の中に向かってそう言っている。 「ただいま、さん」 「おかえり、颯斗くん」 「人んちの玄関先でチューしたら嫁はうちで預かり続ける」 冷え冷えとした声が届いた。 重ねるつもりだった唇をゆっくりと離す。 「も!ダメでしょう?ここは日本。in Japan!」 「ご、ごめんなさい」とさんが小さくなった。 「チューしないの?」 夏凛さんの足元で姪が首を傾げてそう言う。 「させない」と夏凛さんが言い、「入っといで」と言われた。 今日は、夕飯をご馳走していただいて帰宅することになっている。 「お土産です」と恒例のワインを渡す。そろそろ買っていない銘柄がなくなってきた気がする。 「ありがと」と夏凛さんが受け取った。亮さんに渡すと勝手に飲むかもしれないから自分が管理することにしていると以前聞いたことがある。 「あと、師匠から」 そう言って別のお土産。 「こちらは、夏凛さんに。こちらがさんです」 夏凛さんはやはり苦い顔をする。 苦手なのかな、と不思議に思う。 「わ、可愛い」 お土産を開けるように促したらさんがそれを丁寧に開けて歓声を上げた。 「ああ、本当ですね」 師匠が言うには、向こうの安産祈願のお守りみたいなものだとか。 「それと」 「まだあるの?!」 夏凛さんが声を上げる。 「ええ、今度はこれです」 そう言ってチケットを3枚渡した。 「なに?」 「師匠が日本でコンサートをするんです。モーツァルトを中心にプログラムを組んでいましたよ」 「ソロ?」 チケットを受け取りながら夏凛さんが言う。 「いいえ、オケです」 「うっわー、このホール凄く音がいいよ」 夏凛さんの声が弾む。 「貰って良いの?ノルマ??」 「師匠からの招待です」 「これは素直にありがとうだわ」 「3枚ってことは僕たち全員?」 亮さんが言う。 「ええ、皆さんでいらしてくださいとのことです。あと、晴秋さんのところのも頂いています」 「は?」 「さんも勿論。ですが、僕は師匠のお手伝いがあるので一緒に客席にいることは出来ないのですが...」 申し訳なくてさんを見るとお腹に手を当てて「楽しみだね」と笑っていた。 |
桜風
14.12.26
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