| お姉ちゃんと一緒に颯斗くんのお師匠さんのコンサートに向かった。 颯斗くんも楽しみだったようで、ここ最近少し嬉しそうだった。 「お兄ちゃんは?」 「あっちは自力で来るから大丈夫よ。嫁が会場をよく知ってるから」 そう言う。 お兄ちゃんのところは、結婚式は挙げなかった。お義姉さんは凄くきれいな人で、ウェディングドレスを着たらもっと華やかになるだろうなって思った。 お兄ちゃん達の結婚に大反対していたお義姉さんのお父さんは最終的には許してくれたそうだ。 だから、無理を押して何かしたわけじゃないけど。 結婚式は準備が大変で、身重なお義姉さんが大変だからということでやめたとお兄ちゃんから聞いた。 「ふふふ」と思わず笑いが漏れる。 「なに、?」 「なに、お姉ちゃん」 お姉ちゃんの子供、姪っ子はわたしのことを『お姉ちゃん』と呼ぶ。 「ううん、ちょっと想像したら可笑しくなって」 「なに?颯斗の失敗?」 「颯斗くんは失敗しません!」 お姉ちゃんって何でわたしが怒るの分かって言うんだろう... 「わたしと、お姉ちゃんと、お義姉さんが並んだらまん丸なお腹をした3人が並ぶことになるでしょう?絵面が何か可笑しかったから」 「なるほど!」 お姉ちゃんも笑う。 会場前でお兄ちゃん達と合流してホールに入る。 凄く大きなホールで驚いた。 「ね、このチケットって」 「一等いい席よ」 間髪入れずにお姉ちゃんが言う。 「いいのかなぁ...」 「あの人が聞いてほしいってお願いして寄越したチケットなんだから、いいのよ」 またそういう言い方をする。 あのあと、お姉ちゃんが丁重な御礼をしたのは知っている。 お師匠さんからその話を聞いた颯斗くんが「素直じゃないですよね」と笑っていたから。 生のオーケストラは初めてじゃない。 だけど、全然違うと思った。 もちろん、師匠さんのピアノの音も。 隣に座っているお姉ちゃんが、挑むような目で唸っていた。 お姉ちゃんは音楽を聴くと時々そんな表情をする。 それを目にすると、少しだけ、胸が痛くなる。 休憩が挟まれた。その間にステージの上に変化がある。 ピアノだけになった。それも2台。 <さて、少しプログラムを変更させてください> マイクを持ってお師匠さんが言う。 何だろう...もしかして。 <最初、私と弟子で演奏、と思ったけど。もっと面白いことになったからそっちにしました> 「お姉ちゃんみたい」 「あら、光栄」 思わず呟くとお姉ちゃんが軽く返す。 <じゃ、よろしく> クラシックってそんなに軽い感じでいいのかな?? 首をかしげていると演奏者が出てきた。 ひとりは颯斗くん。 やっぱりカッコイイなー... そして、もうひとりにわたしは固まった。 「やばい、確かにこっちんが面白い...」 お姉ちゃんが小声で呟いている。 「お姉ちゃん!」 2人の演奏が始まった。凄くきれいな音色。 「颯斗が隼風に引き摺られ始めた。このままされるがままか?」 お姉ちゃんが呟く。 少し颯斗くんの音がバラバラになってきたように感じる。 頑張って... 神様にお願いするように手を組んで見守る。 ふと、颯斗くんと目があった。 彼は目を細める。 「お、踏ん張ったじゃん」 お姉ちゃんが呟き、わたしの耳にも颯斗くんの音が落ち着いてきたように思えてきた。 良かった... 演奏が終わると「ブラボー!」と誰かが叫んで立ち上がる。 みんなが立ち上がって拍手する。スタンディングオベーション。 隼風さんは颯斗くんをたたえるように彼に向かって手を叩き、颯斗くんもそれと同じようにした。 隼風さんがさがり、お師匠さんが出てくる。 <では、次は私が...> そう言ってピアノ二台での演奏が再開される。 「あー、颯斗。力尽きちゃってまぁ...」 呆れたようにお姉ちゃんが呟く。 颯斗くん、凄く緊張しただろうね... お腹をそっと撫でた。さっきからこの子達が元気なのだ。この子達は颯斗くんの音が大好きだから。 |
桜風
15.1.9
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