優しき灯 9





 お義姉さんの出産があり、夏凛さんが続く。

初産のお義姉さんが相当大変だった。

だから、今更..という言い方は彼女に失礼だとは思うけど、緊張してきたらしい。

さん、大丈夫ですよ」

いつも励ましてもらっていたのでそのお返しができるのが嬉しい。

リラックスできるように毎日彼女のためにピアノを弾く。

聴いている間は、凄く安心したような表情をしてくれるのだが、やはりそれは一時的なもので、僕はだんだん不安になる。

さんがこんなに不安がっていて、お腹の子供達にいい筈がない。

けれども、それを引き合いに出してしまえば、彼女はもう弱音を吐かないという選択をする。

それは益々良くない。

ふと、思い出す。

さん」

リビングのソファに座って呼ぶ。

「なに?」

やってきた彼女に僕の膝をポンポンと叩く。

「ん?」

首を傾げる彼女がもどかしくて、僕は一度立ち上がり、彼女を引き寄せて僕の膝の上に座らせた。

「重いでしょう」

「いいえ、これは家族の重みです」

そう言って彼女を抱きしめた。

「あ、」と彼女は呟きそのまま瞳を閉じる。

僕の心臓の鼓動。

彼女は心臓の鼓動を聞くと落ち着くと良く言っていた。

「どうですか?」

「落ち着くよ。ありがとう」



その日の夜中に目を覚ますと彼女の姿が見えない。

さん?」

体を起こして部屋の中を見る。

6畳間の和室に彼女の姿がない。

慌てて布団を出て部屋を出た。

さん!」

どうしよう。夜中に起きて倒れていたりしたら...

リビングを覗いても彼女の姿はなく、まさか、と思って2階に上がった。

さん!」

ドアが開いている部屋は寝室。

「何をしているんですか」

責めるような口調で言うと彼女は「ごめんなさい」と謝る。

「何をしているんですか?」

「荷造り」

「...荷造り?」

「うん、入院の」

そこまで言われて僕は首を傾げる。

「出産予定日は、まだひと月先ですよね?」

「うん。だけど、何か近いかも」

そんなことを言いながら入院の準備をしている。

「陣痛があるんですか?」

「ううん。ただ、声が聞こえた気がしたから」

「声、ですか?」

彼女をベッドに座らせて僕が準備をする。

「誰の声ですか?」

聞くと彼女は自分のお腹を撫でる。

「たぶん、この子たち」

まさか、と思った。

けれども、今、彼女は子供達と繋がっているのだから、おかしくないのかも知れない...

僕も少し気にしておいたほうがいいかもしれないと、このときは思った。



その2日後、僕はまだ心構えが出来ていないというのに、せっかちな双子は外に出たがるのだった。


仕事中に琥雪さんから電話があった。

さんの出産が始まったと言うのだ。

僕はまだ仕事が残っていて、でも、この状態では何も出来なくて。

事情を話すと行ってくるように言ってもらえた。



病院に着くと、夏凛さんと晴秋さんが居た。

琥雪さんは今食堂にいるのだとか。

「食堂、ですか?」

「お腹すいたんですって」

何か、凄く余裕があるな...

「そりゃ、自分で2人も産んでるじゃない」

なるほど、と思い夏凛さんを見ると彼女も落ち着いている。少し意外だった。

「なに?」

「あ、いえ。夏凛さんも落ち着いていらっしゃるので」

夏凛さんは、椅子に座って足を組んで、浮いている方の足を少しだけブラブラさせている。

「目の前であんな筋肉だるまがクマよろしくウロウロしてるのよ。落ち着きもするわよ。アキ、他所でウロウロしな。目障り」

「だって、姉ちゃん。、双子だぞ?」

「そうねー。あ、さっき帝王切開にするってドクターが言ってたから」

「帝王切開?!」

麻酔なしでお腹を切るのだ。

麻酔は胎児に良くないとはいえ、さんは大丈夫なのだろうか...

「こういうときのために、女は男よりも痛みに強く出来てるんじゃないの?あんたたち、毎月の生理痛を味わえ。人によっては、死んだ方がマシっていう痛みらしいからね。生理痛は陣痛と同じらしいよ、仕組みは」

夏凛さんの言葉に背筋が震えた。

たまに、さんが辛そうにしているから腰を擦ったりマッサージをしていたけど、それでは足りなかったのだろうか。

「ひと月早いから保育器かもね」

不意に夏凛さんが言う。

「元気だったら、何でもいいです」

思わず零れた言葉。

夏凛さんがあまり見せることのない優しい笑みを浮かべた。

「そこのクマよりちゃんと父親じゃない。時間があったら父親教室にも通ってるんでしょう?」

そんなことを言われて僕はうろたえる。

「ええ、良くご存知ですね」

から旦那自慢されていますから?」

苦笑して夏凛さんが言う。


「あら、颯斗君」

振り返ると琥雪さんが居た。

「先ほどは、ありがとうございました」

「いいえー。お仕事はいいの?」

そう聞かれて「そういや、そうね」と夏凛さんが言う。

先ほどのやり取りを話すと「ふーん」と夏凛さんはあまり興味なさそうに相槌を打った。

「そうそう、颯斗君」

「はい」

ちゃんからの伝言ね」

思わず背筋を伸ばす。

「はい」

「『いってきまーす』」

琥雪さんが手を振りながらそう言う。

「...はい?」

「手を振りながらそう言ったのよ。とりあえず、私が代わりに『いってらっしゃーい』って言っておいたから」

僕と琥雪さんのやり取りを見ていた夏凛さんが声を上げて笑う。

そして、それと同時に分娩室から泣き声が聞こえてきた。

「颯斗?!」

晴秋さんが僕を振り返る。

「ちゃんと、2つあります」

凄く似ている音。

けれど、同じではない。

ちゃんと2つある。

、よくやった!ついでに颯斗、おめでとう」

ガッツポーズをして夏凛さんがさんを褒め、僕は適当に祝われた。

それでいい。

分娩室のドアが開くのを僕は静かに待った。









桜風
15.1.23


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