優しき灯 10





 目を明けると天井が見えた。

周囲を見渡すと、分娩室は出たのだとわかる。

気が遠くなる寸前に聞こえた産声。

新しい命が凄く元気に声を上げていた。

早産だから、保育器になると思うといわれたから、もしかしたら、子供達の泣き声は弱々しいもので、わたしの耳には届かないかもと思っていたけど。

コンコンとノックが聞こえた。

「はい」

返事をするとそっと部屋に入ってきたのは颯斗くん。

「颯斗くん!」

嬉しくて弾む声。

颯斗くんは窓際に行って、カーテンを閉める。もう夜だった。

「ね、開けて」

お願いすると颯斗くんは「はい」と頷いて今閉めたばかりのカーテンを明けてくれた。

「お月様」

「そうですね」

颯斗くんはわたしの寝ているベッドのそばに椅子を引いて一緒に月を見上げる。

さん、ありがとうございました」

「ん?」

「僕の..僕たちの子供を産んでくれて」

「こっからが大変だよー。一緒に頑張ろうね。大変だと思ったらお姉ちゃんとか琥雪さんに相談しようね」

颯斗くんは「はい」と頷いた。

「本当は、さんと一緒にここにいたら良かったんですけど」

颯斗くんが少しだけ寂しそうに呟く。

ここにいたら、は子供達のことだろう。


颯斗くんに手伝ってもらって体を起こす。

「さ、颯斗くん。颯斗くんからあの子達にプレゼントして」

ここにはいないけど、あの子達への大きなプレゼント。

「はい」

わたしはまだ颯斗くんが何て名前を考えているのかを聞いていない。

ただ、颯斗くんに頼まれて子供達の性別は分かるようになったらドクターに教えてもらっていた。

本当は、産まれてからのお楽しみにしたかったけど。

「優と灯です」

「ゆうとあかり?」

「はい。優しさは、優れた長所です。そして、誰かの道を照らす存在になってくれたら良いと思って」

「ステキ」

素直に出た感想。

さんのことを思い浮かべたら、自然と浮かんだんです。あなたは、暗闇に閉ざされた僕の世界を優しい灯で照らしてくれたから。あの子達も、誰かのそんな存在になってくれたらと思ったんです」

「颯斗くんだって、優しくて、あなたの音楽は誰かの心に灯りを点していると思うよ」

そう言うと颯斗くんはうれしそうに睫を伏せた。

「そうでしょうか」

「そうだよ。どっちがどっちってのはもう決めたの?」

「はい。顔を見てすぐにパッと思い浮かびました」

「いいなー、わたしはまだ見てないのに」

わたしがそうぼやくと颯斗くんはふふふと笑う。

そして、颯斗くんはわたしの手を取って片膝をついた。

「颯斗くん?」

さん、僕に今一度誓わせてください。僕は、これから全てをかけてあなたと、そして優と灯を..家族を守ります」

そう言ってわたしの手の甲にキスをした。

「ありがとう。颯斗くん、これからもずっとそばにいてね」

「もちろんです。逃げたら追いかけてでもそばにいいます」

顔を見合わせて笑う。

「それでは、僕はこれで。さんも、ゆっくり休んでくださいね」

そう言って颯斗くんはわたしを寝かせてカーテンを閉めて部屋を出て行った。

少し寂しいと思っていると、すぐに彼は戻ってきた。

「忘れものです」

きょろきょろと部屋の中を見渡す。何も置いていない。

寝ているわたしの唇に颯斗くんの唇が重ねられる。

「おやすみのキスです。あなたに優しい眠りが訪れることを祈っています」

そう言って颯斗くんは出て行った。

何だか、凄くホッとした。



入院中、隼風さんがお見舞いに来てくださった。

「颯斗くんから聞いたんですか?」

「例によって、まだうちに連絡がない。夏凛さんから写真ファイル付きのメールを貰って慌てて帰国したんだよ。さっき見てきた。2人とも颯斗の赤ん坊の頃に似てるな」

「本当ですか?じゃあ、美人さんになりますね」

思わず声が弾む。

タイミングよく病室に入ってきた颯斗くんが、隼風さんの存在に固まる。

さんが連絡をされたのですか?」

「ううん、お姉ちゃんが姪っ子自慢メールしたみたい」

颯斗くんは盛大な溜息をつく。

「何で連絡してこなかったんだ」

「今、青空家は全員海外公演だからです。連絡しても意味がないでしょう?」

「連絡をもらえれば時間のあるときに帰ってくることができる。こうして」

不満そうに隼風さんがいう。

「それは、失礼しました」

颯斗くんは慇懃な態度で謝罪する。

そんな颯斗くんを、隼風さんはどこか嬉しそうに見つめていた。



漸く退院して帰宅する。子供達はもうちょっと保育器のお世話にならなくてはならないらしい。

少し寂しいけど、やっぱり家が一番落ち着く。家の中も颯斗くんがこまめに掃除をしてくれていたみたいで、凄く整っていた。

荷物を置いた颯斗くんが「さん」と両手を開けた。

嬉しくてその胸に飛び込む。

「何か、久しぶり」

密着するのは久しぶりだった。

凄く落ち着く。

さん」と名前を呼ばれて顔を上げるとキスされる。

こっちも久しぶりの長いキス。

久しぶりの颯斗くんとの甘いキスに力が抜ける。

「何だか、全部が久しぶりですね」

颯斗くんの言葉に頷いた。

さん。優と灯がこの家にやってきたら、聴いてほしい曲があるんです」

「うん、聴かせて」

「はい。とりあえず、今日は一緒にお風呂に入りましょうか」

「え?!」

「大丈夫です。何もしませんよ」

笑顔で颯斗くんが言う。そして、「たぶん」と付け加えた。

「颯斗くん!」

たしなめると彼は笑う。

「今日は、ずっとあなたと離れたくないんです」

「甘えん坊さんだね」

「はい。優と灯が来たら、ちゃんとパパになります。だから、それまでは...」

そう言って颯斗くんはキスをした。









桜風
15.1.30


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