| 颯斗の部屋は想像どおりにきちんと片付けられていた。 自分が寮生だったころはこんなに片付けてはいかなった。片づけが苦手なのだ。 「さすが颯斗だな...」 「急でしたので、慌てて片付けました」 「わるかったな」と申し訳なさそうにいう一樹に慌てて「そういう意味で言ったわけではありません」と否定する。 「良いって。悪いと思うのが普通だろうが」 苦笑して返した一樹と颯斗は夜遅くまで話に花を咲かせていた。 颯斗は真面目だから今のうちに、と聞いておきたい生徒会の事とかも聞いてきたし、大学生活に興味があるのかそういったことも聞いてきた。 そして、ふと一樹が真面目な顔をして「と何があった?」と聞いてきた。 その間合いが絶妙で、思わず颯斗は「僕はさんが怖いんです」という。 言って、しまったと口をつぐんだ。 「が怖い?...怖いか?」 「言葉が足りませんでした。さんに嫌われてしまうのが、怖いんです」 そして、ここまで話してしまったのだからと自棄になって最近の自分の心境を吐露した。 聞いた一樹もどうしたものかと困った。 颯斗の気持ちが良く分かるのだ。 そして、の気持ちも想像できる。 2人とも、自分の気持ちがまだ上手に表現できないようだ。 「颯斗の気持ちは分かる。に向けている気持ちと、自分に感じているもの。 それは決して悪いものじゃない」 「そうかもしれません。でも、僕が一番、世界でいちばん恐れているのはさんに嫌われることです」 きっぱりと言った。 まあ、そうだろうな... 「嫌わないかもしれないだろう?」 「本当にそう思いますか?」 言いきれない。は両親を亡くしこそしたが、その後はどうやら随分と守られて育ったようだ。 以前、月子のことを『鉄壁のディフェンス』と言ったが、のはおそらくそれ以上のものだろう。 そもそも、颯斗のこの感情に気付いていない可能性が大いにある。 「僕は、どうしていいのかわかりません」 そう言って俯いた。 正座をして膝の上で作ったこぶしをぎゅっと握る。 暫く沈黙していたが、一樹が短く息を吐いて「なあ、颯斗」という。 「喧嘩してみろ」 「はい?」 思わず顔を上げた。 「喧嘩、だ。お前が自分のことを話さなきゃ、は永遠にわからないままだぞ?は、お前が自分を避けている理由を知りたかったんだろう?考えてもわかんなかったから、お前に直接聞いたんだ」 「けど、さんに嫌われてしまうのは...」 また俯く颯斗に一樹は苦笑した。 「嫌うかどうかわかんないだろう?未来は不確定なんだ。勝手に想像して怯えるのも構わないが、そうしたら先には進めない。お前、それ以外にもに話さなきゃいけないことがあるんだろう?」 颯斗は驚き、また顔を上げた。 「何で...」 「俺は、お前が何を愛しているかちゃんと知ってるつもりだよ。何と言っても、俺はお前のとーちゃんだからな」 笑いながら言う一樹に颯斗は呆然とした。 「...僕も、だったんですか?」 「何だぁ?お前は自分は違うと思ってたのか??とーちゃん、寂しいぞー」 そう言って一樹は颯斗の頭を乱暴に撫でる。 颯斗は、胸の支えが少し取れたような気がした。 もう遅いからと寝ることにしたが、ベッドを譲ろうとしても一樹が是としない。 「俺が勝手に押しかけたんだから」と一樹。 「会長は、お客様です」と颯斗。 だからと言って一緒にベッドは正直ごめんである。一樹は背は颯斗ほどはないが、体格がいい方だし、颯斗は背が高い。 寮のベッドはシングルで、男2人が寝られる設計にはなっていないのだ。 「よーし、じゃんけんだ!」 一樹の提案に「わかりました」と颯斗が頷く。 そして、じゃんけんの結果、颯斗が勝った。 「では、会長。ベッドでお休みください」 「お前、じゃんけんに勝ったんだぞ?」 「だから、僕の言い分を聞いてくださるのでしょう?」 そう言って颯斗は早々に床に布団を敷いて寝転ぶ。 「んじゃ、借りるぞ」 そう言って一樹も布団に入った。 「なあ、颯斗」 「何ですか?」 「今度はちゃんと連絡して来るからさ。あの曲を弾いてくれないか?」 「あの曲?」 どれだろう。音楽室のピアノでそれなりに曲を弾いている。 「えーと、あれだ。Tears of...なんだっけ」 「ああ、『Tears of the polestar』ですね。ええ、いいですよ」 「そうか。楽しみだ」 そう言って一樹は寝息を立て始める。 そういえば、寝つきが良い人だったと思い出し、颯斗は小さく笑った。 そしてふと思い出す。 春休み、と共に少し遠出をしたことを。 |
桜風
12.9.21
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