| 寺に着き、約束どおり颯斗は入り口で待ちぼうけとなっていた。 遠くにと郁、そして琥太郎が手を合わせている姿が見える。 「あれ?」と背後で声がした。 振り返って颯斗は目を丸くした。 「何で颯斗はここに突っ立てるんだ?」 「晴秋さん、夏凛さん...」 「どうせ、郁の事だから『来るのは構わないけど、詮索するのはやめてくれる?』って言ったんでしょ」 肩を竦めて夏凛が言う。 「アイツも結局に甘いしな。ま、もうちょい待ってろ。たちが戻ってくるだろう」 そう言って晴秋たちはたちに向かって足を進める。 何だか突然の出来事で対応できなかったが、ふと颯斗は思った。 「名前で、呼ばれてました...?」 今まで「青空」って呼ばれていたと思うが、先ほど晴秋に「颯斗」と呼ばれた気がした。 少し離れた墓前ではどうやら郁が余計なことを行ったらしく、夏凛の拳骨を食らっていた。 あれを食らったことのある颯斗は思わずその痛みを思い出して頭を擦る。 タッタッとが駆けてきた。 「ごめんね、颯斗くん」 「いいえ」と首を横に振る颯斗に「ありがとう」とは微笑む。 颯斗を見上げては先ほど、手を合わせた相手に報告をしたことを想った。 自分もちゃんと幸せな恋が出来ていることを報告した。残念なのは、有李と恋の話が出来なかったことだ。 彼女がいたら悩みを相談したりできたかもしれない。 ぞろぞろと大人たちが遅れてやってきた。 「はこっちの車に乗るのよー」と夏凛がを後ろから抱きしめる。 「え?!」とが声を上げると「颯斗もね」とちょっとだけ機嫌が悪そうに夏凛が続ける。 「じゃあ、僕も」と郁が言ったが、「お前は琥太の車だ」と晴秋が言う。 「何で!琥太にぃと2人きりのドライブって華が無いじゃない」 「琥太に求めとけ、華なんてもんは」 「そんなもん、俺に求められても困るだけだ」と琥太郎が言う。 「とにかく、と颯斗はこっち!荷物はそのまま積んでて」 そう言って夏凛がを軽く持ちあげて晴秋の車に向かっていく。 どうしたもんかと動けずに居ると「颯斗、来い」と晴秋が声をかける。 「はい」と返事をして颯斗は駆けていった。 「どうやら、青空は身内と認めてもらえるみたいだな」 苦笑しながら琥太郎が言う。 夏凛も晴秋も結構人付き合いがフランクだが、それでも身内と定めているワケではない。 最も分かりやすいのは名前で相手を呼んでいるかどうかなのだ。 だから、先ほど夏凛は嫌々であったが颯斗のことを名で呼び、晴秋も抵抗無く彼のことを名で呼んでいたその様子を見て琥太郎たちは意外に思った。 「絶対にアキにぃは大反対すると思ったのに...」 少し不本意そうに郁が呟く。 「俺も、正直そう思ったが...よくよく考えれば、が青空がいいといっているのを態々邪魔まではしないだろう?間違いなく嫌われるぞ。それよりは監視を厳しくするだろうな、アキなら」 琥太郎の指摘に「なるほど」と郁が唸る。 おそらく、その通りだろう。 「で、あそこ。また何かもめてるみたいなんだけど」 離れた場所に駐車している晴秋の車の前で夏凛と晴秋は何やら揉めているようだ。 「を取り合ってるんだろう、きっと」 溜息交じりにそういって琥太郎は「先に行くからな!」と何やら揉めている晴秋たちに声をかけて車に乗る。 揉めながら晴秋は軽く手を上げて了解の意思を示した。 「だから、は、あたしと一緒に後ろ」 「琥太の家に一番詳しいのはだろう?ナビしてもらうために前、助手席だって」 「何言ってんのよ。そのカーナビって何のためについてるの!」 「たまにはが前でもいいだろう?!」 そんな喧嘩をしている夏凛と晴秋を見上げては自分の隣に立って困った表情を浮かべている颯斗を見た。 「ごめんね」 「いえ...あの、このやり取りはいつもですか?」 「だいたい...」 溜息混じりに頷いた。 「先に行くからな!」と琥太郎が声をかけてきた。 姉と喧嘩をしつつも晴秋が軽く手を上げてその声に応じる。 言った通り琥太郎は車を走らせ始めた。 「わたしもあっちに乗りたかった...」 ポツリとが言うと夏凛と晴秋が口を噤む。 「...颯斗、助手席」 「、さあ行こうね」 どうやらあっさり収まったらしい。 「さん、凄いですね」 感心して言う颯斗に「これって2人のコミュニケーションらしいの」と肩を竦めてが返す。 以前、琥太郎の母親にそれを聞いた。 いつまでも延々と続くようだったらが退屈していることをアピールしたらすぐに収まるから、と言われていたのだ。 大抵、そうやって収まる。 何と言うか、はどうやら物凄く優秀な猛獣使いらしい。 颯斗は心の中でそんなことを思い、思わず噴出しそうになった。 |
桜風
12.9.28
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