月光 12





暫く走っていると「ちょいルート変更」と後部座席にいる夏凛から声がかかった。

「ん」と頷いて晴秋はウィンカーを出す。

何処に行くのだろう、と颯斗は不思議に思った。

何より、あの一言で意思疎通が出来ている夏凛と晴秋が凄い。

「何処行くの?」

はわからなかったらしい。

「せっかく、3人揃ったんだし。行かなきゃ」

そういわれても納得したようだ。

やはり、自分はどうしても他人だと思った颯斗だった。


ルート変更をした旨を琥太郎に電話した夏凛が後部座席に投げていた自分の鞄を漁る。

「どれにしようか」

「一等良いのにしないとうるさいぞ」

苦笑して晴秋が言う。

「だよねー。これかなぁ...」

そう言って取り出したのは大吟醸。

「お姉ちゃん...」

「良いじゃない!琥太の家において帰っても。料理酒にしても良いし」

「おじさんも春姉ちゃんも家に居ないんだからおばさんひとりだし、そんなに料理しないって言ってたよ」

「マジで?どーする、アキ」

「オレも大量に持ってきたしな...琥太に持たせて同僚に振舞えって言うしかないだろうな」

苦笑して晴秋が言う。

「持って帰らないんですか?」

颯斗が不思議に思って聞くと「重いだろう」「重いじゃない」と2人の声が重なった。

けれども、帰りは減っているのだから少しは軽くなるのではないだろうか。


少しして見た事のある風景が広がる。

「あ」と颯斗は思わず声を漏らした。

の実家の方に向かっていたのだ。

家の前を通過してそのまま車は走り続ける。

着いたのは、寺だった。

「じゃあ、僕は」と遠慮しようとした颯斗は首根っこをガシッと掴んまれて夏凛に「あんた、ウチの両親に自己紹介が出来ない何か後ろ暗いことがあるっての?!」と脅された。

そういう意味ではなくて邪魔をしてはいけないと思って...

そう思っているとコツンと頭を叩かれた。夏凛のゲンコツを食らったことのある身としては、多少のゲンコツも『コツン』になってしまったようだ。

「邪魔ならお前をとっとと琥太の車に投げ込んでた」と晴秋に言われて胸が熱くなる。

「颯斗くん、行こう」

準備を済ませたが声をかけてきた。颯斗は慌ててが持っている水の入っている桶とひしゃくを持って彼女の隣を歩く。

墓地の一角にそれはあった。どちらかといえば隅のほうだ。本人達が生前希望していたらしい。

「死んでからもまだまだいちゃこらしたいんだって。いい加減飽きるでしょうに」

夏凛が笑いながらそう言って、持ってきた大吟醸を開けて墓石にドバドバ掛けていく。

「お姉ちゃん!」

「母さんは飲兵衛だからね」

そう言って一升瓶の半分ほどかけて蓋をした。

は慌てて颯斗から水の入っている桶とひしゃくを受け取って墓石にかけるが、背が低くて難しそうだ。

手を貸すべきかと悩んでいると笑いながら晴秋がひしゃくを取り上げて桶をひっくり返した。ザバーッと墓石に水をかけた。

「父親は下戸だからな」

笑って言う。

「お母さん、お父さん大丈夫?」

墓石に向かってが心配そうに声をかけている。

「大丈夫よ、これくらいで潰れる母さんじゃないわ」

「父親は潰れたな、確実に」

「琥太並みに弱かったもんね」と笑って夏凛が言い、「だな」と晴秋も笑う。

颯斗がを見ると少し困ったように笑っている。目が合うと彼女が少し踵を上げたので耳を寄せる。

「わたしは、覚えてないの」

こっそり少しだけ寂しそうに言った。

「よっし、はい。手を合わせてー」

夏凛の号令で皆が手を合わせる。颯斗もの隣で手を合わせた。

夏凛に脅された..言われたとおり自己紹介をしてみた。何だか不思議と暖かい気持ちになる。

「おお、お前ら珍しいの」

そう言ってやってきたのはこの寺の住職だった。

「あ、じーさん。まだ生きてたの?」

「お姉ちゃん!」

住職になんてことを!

が叱り、「はいはい」と夏凛が軽く応えるが、態度を改める気がないのは見て分かる。

「おお、。今年もちゃんと来たな?と、これは...何と?!夏凛を差し置いて...!!」

颯斗を目にした住職が物凄く仰け反って驚いている。

「コレか?」

と親指を立てた住職の親指を夏凛が掴んで曲がってはいけない方向に曲げようとしている。

「夏凛、やめろ。こら!!」

夏凛は溜息と同時に手を離した。

「こんにちは、ご住職。いつもお世話になっています。住職、お姉ちゃんにも彼氏いるみたいですよ」

の言葉に更に住職が目を丸くした。

「世紀末...」

「あと何十年先よ」

平坦な声で夏凛が返し「、余計なことは言わない」と叱られた。

肩を竦めるはどこか嬉しそうだった。

「そうか、そんな勇者はいつ連れてくるんだ?」

「じーさんがぽっくり行くといけないから当分つれてこないよ」

夏凛が言うと住職は笑った。「孝行な子だな」と。

「姉ちゃん、先戻っておくから」

そう言って晴秋はと颯斗を促して墓地を後にしていく。

行きに颯斗が持っていた桶とひしゃくは晴秋が持っている。

晴秋の後を追うの後ろを歩いていた颯斗は何となく振り返る。

夏凛が深々と頭を下げていた。

先ほどの偉そうな態度は微塵もない。深く、感謝を現している。

見てはいけないものを見た気がして、颯斗は慌てて前を向いた。不意に振り返ってきた晴秋と目が合う。

「言うなよ」と目が言っている。

颯斗が頷くのを見て少し安心したような表情を見せた晴秋はまた前を向いた。









桜風
12.9.28


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