月光 13





車で夏凛が戻ってくるのを待っていると携帯が鳴った。

が出ると琥太郎からだ。

『母さんがこっちに来ないんじゃないかって心配してるんだが』と言う。

「行くよ。大丈夫」

が返すと『ちゃんと来るって』と琥太郎が背後の母親に声をかけている。

彼女が喜ぶ声が聞こえ、中々帰ろうとしない自分が不義理で申し訳ないとも思う。

「あ、お姉ちゃんが戻ってきた」

『じゃあ、切るな?』

そう言って琥太郎が通話を終わらせた。

「誰?」と夏凛に聞かれ「琥太にぃから。おばちゃんが、来ないんじゃないかって心配してるんだって」と返す。

「琥雪さんのご飯を楽しみに帰ってくるのに」

そう言ってごくりとつばを飲む。

「んじゃ、行くぞ」

そう言って晴秋が発車させた。


「随分距離があるんですね」

「ん?まあ、あっちは都会でこっちは田舎だからな」

晴秋が応じる。

来るとき以上に時間が掛かっている。

街並みの雰囲気が変わってきてマンションが建ち並ぶ住宅街へ入った。そろそろ日が沈む。

大きなマンションの前で停車させた晴秋が、「車、停めてくる」と言う。

「姉ちゃん、荷物持って上がって」

「めんどくさい。アンタが持って上がりなさい」

ふんぞり返って夏凛が言う。

「あの、僕が持ちましょうか?」

「わたしも持つよ」

「...アキ、何本?」

「小さめのにしたけど5本」

「颯斗、晴秋の持ちな」

そう言って夏凛は大きな自分の鞄と、そして楽器ケースを持って先にマンションのエントランスに向かった。

夏凛に言われたとおり、晴秋の荷物を肩に掛ける。重い。

「酒が5本入ってるからな。頑張れよー」

笑っていう晴秋の言葉に頷いて颯斗はと共にエントランスに向かった。

エレベータに乗り、チンと音がして扉が開いた。

端っこの部屋まで行き、インターホンを押すと琥太郎が顔を出した。

「ああ、遅かったな」

「アキの運転、下手だから」

そんなことを言いながら家の中に入っていく。

「わたしたちの荷物は?」

「持って上がってる。郁がうるさいと思うぞ?」

こっそり言われては苦笑した。

「青空、重いだろう」

「ええ、まあ。お酒が5本だそうです」

颯斗の言葉に琥太郎は呆れ、「まあ、入れ」と促した。


と共にリビングに着くと「ちゃん!」と彼女が大歓迎を受けた。

「お正月、帰ってこないんですもの...」

しょんぼりして言う琥太郎の母、琥雪に「ごめんなさい」と謝る。

「で、この子がちゃんのステキな人ね?」

見上げられ「青空颯斗です。お世話になります」と挨拶をした。

ちゃん、おばさんも青空君好きよ!」

「具体的に、何処が?」

呆れ口調で琥太郎が言うと「顔!」と真顔で返された。

溜息をついているとインターホンが鳴り、琥太郎が再び玄関に向かった。

「郁ちゃん、荷物を持って上がってくれてありがとう」

「いいよ、これで貸し借りなしだからね」

面倒くさそうに言う郁がどこか照れくさそうに見えた。

全員が揃い、食卓を囲む。

颯斗はこういう席に慣れていない。少し居心地が悪いと思った。何より、自分は仲間はずれだ。

だが、そんな雰囲気がちっともない。

不思議な空間だと思った。

ちゃんがハンバーグが好きでしょう?だから、おばさん頑張ったのよ」

「琥雪さん、肉じゃない!」

夏凛が文句を言う。

琥雪が作ったのは、所謂豆腐ハンバーグだ。レンコンのすり身と小さく切ったレンコンが混ざっていてその歯ごたえが良い。

「何言ってるのよ。太るわよ?」

真顔で返された。

「太るのは運動をしないから。あたしはいつも動いてる!これから腹筋と腕立てもする」

そう宣言をして、ついでにご飯のお代わりをする。

「郁ってそんなに食が細いのか?」

晴秋が言うと「目の前でこれだけガツガツ食べられたら食欲がなくなるよ」と呆れて返した。

「そうか?」と晴秋は返してご飯のお代わりをするために立ち上がる。

「凄い、食欲ですね」

「体力勝負のお仕事だからね」

こっそりと言ってきた颯斗の言葉にもこっそり返した。

皆で囲む食卓の暖かさが心地よかった。









桜風
12.10.5


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