月光 15





翌朝早くに、颯斗は目が覚めた。

他人の家で寝るのは緊張する。浅い眠りを繰り返していたが、外が明るくなったので起きることにしたのだ。

身支度を済ませて部屋を出たところでとばったり会った。

「あれ、早起きだね颯斗くん。おはよう」

「おはようございます。さんも早いですね」

「ちょっとお散歩しようと思って」

「ご一緒しても良いですか?」

「もちろん」と頷いて2人は玄関を出た。


さんはこの街で育ったんですね」

「そうだね。小学校と中学校丸々。約10年だ」

朝の空気はひんやりとしているが気持ちが良い。手を繋いでプラプラと歩いているとが見上げてきた。

「ねえ、ちょっと行きたいところがあるんだけど。良いかな?」

「ええ」と頷いた颯斗に礼を言っては目的を持って歩き始める。

5分程度歩いたところに大きな家があった。

家というか、道場だ。

「おはようございます」

看板を見ると『月見里空手道場』と書いてあった。が通っていた道場なのかもしれないと思いながら颯斗はの後をついて敷地の中に入る。

道場では何か声が聞こえた。稽古でもしているのだろうか。

「おはようございます」と道場の中に声をかけているはいつもと少し雰囲気が違って見えた。

、帰ってきていたのか」

「今日戻りますけど。せっかくなのでご挨拶をしておこうと思いまして」

「学校は楽しいか。部活動は何をしていると言っていたか...」

「部活動はしていません。生徒会執行部に入っています」

厳つい人がニコニコと声をかけてくる。黒い帯だ。

そういえば、も同じ色の帯だと聞いたなと今更思い出す。

「おい、チビ!」

そう言って奥からズカズカとやってきた青年に颯斗は冷ややかな視線を向けた。

それなりに良い大人だろうに...

颯斗をチラと見た彼は「おいチビ。なんだこの優男は」とを見下ろした。

優男と評されても間違いではないが、侮蔑の感情が含まれているので颯斗も気持ちはよくない。

「やめろ、みっともない」

止められたが、「けど、親父」と言って睨まれて結局言葉に詰まる。

「道場では師範と呼べと何度言えば分かる」

鋭い、低い声で彼が言う。


暫く黙っていた青年がを見た。

「久しぶりに手合わせをしてやってもいいぞ」

「お前の方が弱いだろう」

師範が思わず突っ込んでいる。

は師範を見上げた。

「どうやって高くなったのか知らんが、あの鼻っ柱をまた折ってくれるか?」

言われたは「はい」と頷き、「もうちょっと待ててね」と颯斗に声をかけて道場に上がる。

「君も上がって見学したら良い。ああ、君。忘れないでくれ。はいい子だからな。強くても凄くいい子だからな」

この精一杯のフォローが、への報いのつもりなのだろう。

強盗を伸したことがある彼女だからそこまでビックリするとは思えないし、大男を伸したからと言ってもそれで彼女を嫌いになることは絶対にありえない。


『秒殺』という単語が浮かんだ。いや、殺してはいないが...

「はじめ!」の合図から「そこまで!」と言う声が上がるまでにどれくらいの時間が掛かっただろうか。

青年はそのまま伸びていた。

「ありがとう、

「いいえ、あの..やりすぎましたか?」

心配そうに伸びてる男を見ながらが師範を見上げると「いいや、丁度良い」と師範は笑った。

「そういえば、星月学園での生活と言うのはどういう...」

「勉強は専門的なものなので結構大変です。課題も多いですし。寮生活なので、団体行動は必至..だよね?」

自分は職員寮でしかも女子は自分を含めて2人なので団体行動もへったくれもない生活をしているため、颯斗に同意を求めた。

「そうですね。寮での生活が中心ですけど、みんな個室ですからプライバシーは守られていますし、どちらかといえば、寮生活の割に自由じゃないでしょうか」

「門限は早いんですけどね」

そう言ってが笑う。

「そうか。じゃあ、あと1年。頑張りなさい」

師範にそういわれたは「はい」と返事をして道場を後にした。









桜風
12.10.12


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