| 昼食を終わらせて少し時間を置いてたちは帰ることとなった。 琥雪が空いた時間で作ってくれたクッキーを持たせてくれて最寄駅まで琥太郎が車を出してくれるという。 「」と玄関先で夏凛に声を掛けられたは「なに?」と振り返った。 「帰りの電車とかバスの中で開けること」 そう言って紙袋を渡してきた。 薄くて硬い。 何だろう、と首を傾げたが「わかった」と返事をしては琥雪と晴秋、そして郁に別れを告げて星月家を後にした。 「それ、何でしょうか」 電車を待っていると颯斗が問う。 「うーん、電車で座ってから開けよう」 そう言っていると待っていた電車がホームに滑り込んできた。 何とか席を確保した2人はワクワクしながら夏凛からもらった紙袋を開ける。 「あれ?」 出てきたのはCDだった。 「あ、これ...」 颯斗が呟く。 「知ってるの?」 「僕の実家にもあります」 だから、自分は夏凛を知っていたのだ。 「夏凛さんの、たぶん唯一の音源です」 「こんなの、あったんだ...」 知らなかったらしいは不思議そうに呟く。 調べたらすぐに分かる。これは凄く貴重で、演奏の評価が高いものだ。 だから夏凛は隠していたのだろう。に知られたくないと思ったのか、それとも、自分の音楽に向けた想いを振り返りたくないと思っていたからかはわからない。 きっと、彼女は時間が必要だった。 音楽から距離を置いても平気でいられる時間。 そして、今はもう大丈夫だと判断したのだろう。自分の過去をあまり知らないにこれを渡したということはたぶんそういうことだ。 「凄く良い音ですよ」 聞いた事のある颯斗が言う。 「ホント?」 「ええ、僕もこの音を初めて聞いたときにどんな人が演奏してるんだろうって思いましたし」 まさか、あんなぶっ飛んだ性格の人だとは思わなかったが... そして、やっと別の視点で音楽に向き合えるようになったのかもしれない。 本当に、かっこいい人だと思った。 ***** ふと、視界に入った携帯が光っている。 着信か、メールの受信か... いつもだったらバイブにしているのだが、今日は一樹が泊まりに来ているのでサイレントにしていた。 携帯に手を伸ばして確認した颯斗は慌てて廊下に出る。 一瞬躊躇ったが通話ボタンを押し「もしもし」と応じた。 『颯斗くん?ごめん、寝てた?』 「いいえ、大丈夫ですよ。さんこそ、今日はお休みされていましたけど、体の方は大丈夫ですか?」 颯斗の問いに少し間を置き『うん、元気』と返された。 さっきの間は何だろう... そう思っていると『明日は、行けるよ』と返された。 良かった、と思ったが自分はまだ彼女を迎えに行っても良いのだろうか。 そう思うと途端に怖くなる。聞いてそれを拒絶されたらどうしようか、など思っていると『だから、あのね。明日の朝。いつものように待ってて良い?』と言われた。 ギュッと胸が締め付けられる。途端に彼女に会いたくなった。 「今すぐ、会いたいです」 颯斗の言葉には驚いたようで『でも、門限はとっくに過ぎてるよ?』と返す。 「はい、分かっています。でも、今、さんに会いたいんです。出て来れますか?」 電話の向こうのの困った様子は感じ取れるが、引けなかった。 『わかった、頑張ってみる。見つかったら、怒られよう』 真剣に決心したが言う。 「はい。では、今からそちらの寮に向かいます。メールを入れますので、それを確認してから出てきてください。 間違っても先に出て待ってるとかしないでくださいね」 そう言って颯斗は通話を切り、そのまま寮を抜け出した。 |
桜風
12.10.19
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