月光 25





の脚に湿布を貼り、颯斗は改めて家の中を見渡した。

「少し様子が変わりましたね」

「本気の大掃除をしちゃったからね」とが笑う。

そして、この家のことについて話をした。

だからか、と颯斗は納得する。が沈んでいたのはそれが理由だ。

「颯斗くん、泊まってくでしょう?布団も全部干してるからふかふかだよ」

そう言うに「ありがとうございます」と頷いた。

そして、「すみません、ちょっと電話を」と言って颯斗が部屋を出た。


『なによ』

「すみません、お仕事中に」

電話を掛けた相手は夏凛だ。


颯斗は先ほどのの従姉の話をした。

『ほんっと暇で仕方ないのね。わかった。は?』

「それが...」と自分が泊まる事になった話をした。

物凄い長い沈黙が降りる。居た堪れない。

『まあ、良いけど...』

彼女の中の諸々の葛藤が見て取れる。

しかし、そこは敢えて触れず、もうひとつ気になっていることを確認した。

それについて、肯定の返事があった。

『何かご意見でも?』

「お願いがあります」

『...正月、こっちというか、そこに来れるの?』

そんなことを聞かれた。

「お邪魔して良いんですか?」

『聞いてるのはこっち』

素っ気無く返されて「お邪魔します」と颯斗も返す。

『じゃ、意見はそのときに。それ以外では受け付けません』

そう言って夏凛は通話をきった。

颯斗も電源ボタンを押し、振り返るとが柱の影からそっと顔を覗かせていた。

「今のって、英語じゃないよね?」

「ええ、ドイツ語です」

3年になってから夏凛と電話をするときはドイツ語以外受け入れてもらえない。

それは彼女なりに颯斗の進路を応援してくれていることなのだが、最初は大変だった。

電話をする機会も殆どなかったが、それでも偶に向こうからの様子を聞く電話が掛かってきており、最初からドイツ語だ。

変な受け答えをしたらその場でプチッと電話を切られるので、非常に緊張感を持って臨む事が出来るドイツ語の練習である。


1人分の食材しかないと言ったと共に近くの商店に行った。

近くと言っても歩いて30分はある。

不便だが、のどかな場所だ。

夕方の涼しくなった時間を手を繋いで歩く。

そういえば、昨年ここに来たときに比べて随分ととの関係が変わったな、と颯斗は彼女を見下ろす。

「なに?」と見上げるに「好きですよ」と返して「何か誤魔化した!」と指差された。

そのの手を取り人差し指の指先にキスをする。

「うわぁ!颯斗くんが酔っ払ってる」

が困惑しながらそう言うものだから

「僕はいつでもさんに酔ってますよ」

と返すと急におとなしくなった。

本当に可愛い。

「ところで、今日の夕飯は何ですか?」

「コロッケです。颯斗くんも手伝ってね」

「わかりました」と頷いた颯斗がふと思いつく。

「今の会話、まるで新婚さんですね」

そう言うとは「予行演習だね」と笑顔で返してきた。

彼女には本当に敵わないと颯斗が心から思った瞬間だった。









桜風
12.11.16


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