| 「さんの料理が上手なのは、きっと星月先生のお母さんが上手だからですね」 夕飯に手作りのコロッケなんて凄いことだ。 何せ、颯斗は実家にいたときは親が食事を作ることはしなかった。 そして、先ほどまで帰省していたがやはり親が何かを作ってくれることはなかった。 別に期待していなかったので全く気にならないが、春休みに琥太郎の家に行ったとき、彼の母親があれこれ作ってくれたのを見てちょっとだけ羨ましいとも思った。 そして、今回のの手料理だ。 オリエンテーションでクラスごとに食事を作っているのでが料理が出来ることは知っている。 だが、こうやって颯斗のために食事を作ってもらったのは初めてだ。 チョコレートはカウントしていない。あれは『食事』とは言えないだろう。 「おばさんを沢山手伝わせてもらったよ。その分、あの家のお皿沢山割ったけど。でも、おばさんはいつも『ありがとう』って言ってくれたなー」 そういえば、そうだった。 絶対に足手まといもいいところだったのに、根気強く付き合ってくれた。 「さんはいつ学園に戻られるつもりですか?」 「明後日の夕方のつもりだけど、颯斗くんは?」 「僕はさんと一緒に戻ろうと思っていましたので、ご一緒させてください」 颯斗の言葉に頷いて「あ、でも。門の修理明日だめだったらどうしよう...」とが呟く。 今日はもうどうしようもないが、明日には修理を依頼しないといけないだろう。しかし、すぐに修理に来てもらえるものだろうか。 明日、星月の家に電話をしてみて、誰もいなかったら琥太郎に相談しようと思った。 お互い課題は済んでいるが、答え合わせをする。 「さん、ここは違うんじゃないですか?」 指摘をされて慌てて考え直す。 暫く唸り「あ、」と声を漏らして計算をし直した。 レポートの提出もあるのでお互いのそれを読む。自分以外の人の考えが分かって楽しいとは思っていたが、颯斗は唸っている。 「何か矛盾とかある?」 「いいえ、さんの発想は凄いなと思って」 「そう?わたし、右脳は絶対に弱いってお姉ちゃんに言われてるけどなぁ」 颯斗のレポートの方がスッキリしていて読みやすいし、分かりやすい。 こういうのが書きたかったと今更思ったが、そもそも考え方違いがあるのだから到底無理なことだと気付き仕方ないと諦めた。 風呂を済ませ、布団を一組敷いての手が止まった。 「颯斗くん、一緒に寝る...?」 驚いた颯斗は何も返せずに暫く彼女の顔を見ていた。 赤く染まっていく彼女の顔を見ると、その発言が招く結果をきちんと理解しているようだ。 「さん」 「はい!」 「僕は男です」 「うん...」 「晴秋さんや、星月先生みたいにあなたを見守るだけでは満足出来ません」 「はい」 何だろう、このプレッシャー。ちょっと逃げ出したくなる。少なくとも、ブレイクタイムがほしい。 「今、さんと一緒に寝て、僕は何もなしに朝を迎えることは出来ません。意味は分かりますね?」 「う..うん」 「それでも、一緒に寝られますか?」 暫く黙っていたは意を決したように颯斗を見上げた。 「前に言ったよ。初めては、颯斗くんが良いって。今日、これがなかったらそのまま颯斗くん遠くに行っちゃうでしょう?」 の言葉に颯斗は虚をつかれた。 「遠くに行くって...僕はさんから離れることはできません。たとえ、あなたの赤い糸が他の人と繋がっていたとしても僕はその糸を切ってあなたの糸と僕の糸を結び付けます」 あなたを手放せない、と颯斗は訴えた。 「そう言う意味じゃなくて。物理的に」 の言葉にまたしても颯斗は言葉をなくす。 「ずっとね、いつ言ってくれるのかなって待ってたの。留学するんでしょう?」 「誰から...」 「勘。それに、たくさんの人が颯斗くんの音を聞いて癒されたら凄く素敵だと思ってるし。 音楽のこと、イマイチ分かっていないので申し訳ないけど、やっぱりそういうのって留学が必要なんじゃないのかなって思ってたんだ」 少しだけ寂しそうにが微笑んだ。 思わず颯斗は彼女を抱き寄せる。 「すみません、さん。僕は自分の都合で留学を決めたのに、あなたにそれを話してしまうと離れ離れになることを実感してしまいそうで。それが嫌であなたに話をするのを先延ばしにしていました」 何て弱いのだろう... また自分の弱さが嫌になる。 「さん、僕はあなたが欲しい」 は颯斗の背に手を回し、その震える手でギュッと彼を抱き締める。 「うん、颯斗くんにわたしの全部あげる。ただし、クーリングオフはなしよ?」 震える声でそう返され颯斗は泣きそうになった。 「僕があなたを手放せるものですか」 そう言って颯斗はの唇を塞ぐ。それは徐々に彼女の全てを奪うような激しいものへと変わっていった。 |
桜風
12.11.16
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