月光 33





風船の片づけを済ませて颯斗の誕生日をお祝いする。

今年の颯斗はとても素直に笑顔で嬉しいと言葉に出した。

「ずいぶんと素直になったな、颯斗のヤツ」

一樹がこっそりと声をかける。

「そうですね」と頷くがとても嬉しそうなので一樹は安心した。


そして、現在生徒会室にはと颯斗の2人だけしか居ない。

皆が気を使ったようだ。

一樹は翼の部屋に泊まる約束をしていたらしく、あっという間にいなくなった。

ソファに並んで座っている2人の目の前のテーブルの上にはケーキが1ピース分まだ置いてある。

「颯斗くん、まだ食べられる?」

が聞くと「さんが食べさせてくれれば」と颯斗は笑顔で言う。

一瞬怯んだだったが「じゃあ...」と颯斗のフォークに手を伸ばす。

「はい、あーん」と言うと嬉しそうに目を細めた颯斗が口をあける。

口に入れやすいように少し小さめに切って口に運んだが、クリームが口の端についてしまった。

難しい、と思いつつも、「クリームついちゃった」と言うと颯斗はにこりと微笑んで目を瞑って顔を前に出す。

「颯斗くん?」

「取ってください」

仕方ないので、人差し指で掬った。

「あなたの唇で取ってくれると思ったのに」

拗ねたように言う颯斗に「恥ずかしいよ」とが返す。

そんなの手を取り、颯斗は彼女が掬ったクリームをぺろりと舐める。彼女の瞳を見ながら。

「は、颯斗くん?!」

「はい?」

クリームはもうない。それなのに、の指に執拗に舌を這わせる。

は居た堪れなくなり、俯いてギュッと目を瞑る。

しかし、目を瞑れば視覚がなくなる分、聴覚と触覚が強まってしまったのか、余計に颯斗を感じてしまう。

さん」

優しい颯斗の声音に誘われるように顔を上げたの心臓が跳ねた。

自分の目の前に迫っている颯斗は男の顔をしていた。

「はや..」

名前を口にすることなく、呼吸すら奪われるように口を塞がれる。

ギシッとソファのスプリングが軋んだ音を立て、はそのまま押し倒された。

颯斗にふさがれた唇は中々自由にならず、やっと新鮮な空気を取り込めるようになった頃には、の頭は少しぼうっとしていた。

その間にも颯斗の唇はの首筋に降り、そのまま下へと下がっていく。

シャツのボタンを外され、その頃にはの意識もはっきりしており、慌てて颯斗を止め始めた。

「颯斗くん、ここ生徒会室!そろそろ見回りの先生も来る!!」

ぽかぽかと颯斗の肩を軽く叩く。本気でやったら颯斗を病院送りにするのなんて朝飯前だ。

ちくりと首筋に痛みが走り、は一瞬顔を顰めた。そして、颯斗が離れる。

しばらくを押し倒した状態のまま彼女の顔を見下ろしていた颯斗は啄ばむように何度かキスをしてそして体を起こした。

ゆっくり息を吐きながら自分の中の熱を冷ます。

体を起こすを支えもう一度キスをした。

「颯斗くん」

が怒っている。

「すみません、つい」

本当に『つい』だった。ほんの悪戯心だったが、簡単に火が付いた。元々自分は性欲は強くない方だが、やはりは自分にとって特別だ。

顔を真っ赤にして俯き、声を漏らすのを堪えていたを見ているとあのときを思い出してしまった。

そうなると止まらず、今生徒会室にいるということも忘れてしまった。

まだ彼女の声で止まれる程度に理性が残っていたのは不幸中の幸いだったのだろう。

颯斗が乱した衣服を整えるを見ながら、思わず手を伸ばして先ほど自分がつけた所有の印に指を当てる。

「颯斗くん?」

「...明日は、体育でしたよね?」

颯斗の言葉に「まさか」とは呟き、鏡の前に向かった。

「颯斗くん!」

叱られた颯斗は肩を竦める。

体操着のTシャツではもしかしたら見えるかもしれない。というか、はクラスの誰よりも背が低いので見下ろされる形にある。そうなると、シャツにギリギリで隠れるところのものはともすれば見えてしまう。

クラスメイトは全員と颯斗が付き合っていることを知っているのだが、それとこれとは別問題だ。

「颯斗くんのばかー」

頭を抱えるに「すみません」と言いながら颯斗は歩み寄り、を抱きあげて自分の目線との目線が合うようにする。

「ばか」

「すみません」

「もう知らない」とがそっぽを向くと、颯斗は「さん」とこの世の終わりを思わせる弱々しい声音で彼女の名を呼ぶ。

じっと颯斗を見たが「ずるいよ」と呟く。

「すみません。でも、僕はさんに嫌われるのが一番怖いんです」

前も聞いた。

は心の中でそう返し、「ずるいよ」と言って颯斗にキスをする。

颯斗が固まった。

「誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがとう。颯斗くん、大好き」

にこりと微笑んでが言う。

「わあ!」とが声を上げた。スカートのポケットからハンカチを取り出して颯斗に向かって手を伸ばす。

「もう...」と愛しむような瞳を向けながら颯斗の頬を伝う涙を拭う。

突然ぎゅっと力強く抱きしめられた。

さん。あなたが僕にくれる言葉は、どんな素晴らしい音色よりも僕の心に響く」

「よかった。わたし、音楽苦手だから」

にこりと微笑むに颯斗は「愛しています」と呟き、キスをした。









桜風
12.12.14


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