| 道場で見学をしていた人たちがはけていく。 「なあ、お前って強いんだな」と知らない先輩が声をかけてきた。 「あ、哉太!譲君、この人、3年天文科の七海哉太っていうの。私の幼馴染で格闘技が好きなの」 と月子に紹介してもらって納得した。 そういえば、試合前にに声をかけていた人だ。 「どうも」 と頭を下げる。 「が空手をしていたってのは聞いたことあったけど、お前もやってたんだよな?」 「齧ってただけです」 「ふーん、何で部活でやらなかったんだ?」 「アレに頭を下げるのは我慢なりませんから」 そう言って顎でしゃくる。 気が強いなぁと感心した。 「すみません、着替えたいのでお先に失礼します」 月子にも声をかけて道場を後にした。 「月見山と陽条を相手に勝てるはずないって言ったんだけどな」とクラスメイトが声をかけてきて七海は振り返る。 「有名なのか?」 「月見山は道場の息子だ。そもそもあの道場が有名なんだ。ただ、同学年に陽条がいるからいつも準優勝だけどな。陽条は出る大会総舐め。たしか、も似たようなもんだったと思うぞ。少なくとも、中学に上がってから無敗だろう」 「...なんでそんな奴らがウチの学校に来てんだ?」 七海が呟くと「俺も不思議」とクラスメイトが返す。 兎にも角にも。空手部は相手が悪かったということらしい... 保健室の鍵を開けて、部屋の中に入る。 本当は鍵を掛けたいが、それを防止するために琥太郎が「すぐに行く」と言ったのだろう。 ちょっと忌々しい。 をソファに座らせて颯斗は膝をつく。 右足の裾をそっとまくると脛から血が出ている。 「痛いですか?」 「まあ、それなりに」とが苦笑する。 颯斗はの傷口にキスをした。 「...っ!颯斗くん?!汚いから、やめて」 が訴えるが、「あなたが汚いはずがありません」と言って傷口をぺろりと舐めた。 「ぁ...」と思わず声が漏れ、は慌てて口に手を当てる。 颯斗はの様子を覗うように上目遣いで見つめながら執拗に傷口に舌を這わせる。 それに耐えるようには手を組み、力をこめる。 あまりにも力をこめすぎて手が真っ白になり、爪が食い込んでいた。 さすがにそれを目にした颯斗はの足から顔を離す。 「さん、爪が」と言ってそっとその手に触れる。 目に涙を溜めて堪えているを見てちくりと胸が痛む。 「すみません、ちょっとやりすぎましたね」と言って目じりの涙を唇で掬い、颯斗は流しに向かった。 「傷口を洗うのは、水で良いのでしょうか」 振り返ってに問う。 「ひとまずは、それで良いと思う。あの、颯斗くん」 「はい?」 保健室にあったガーゼを水で濡らしながら返事をした。 「怒ってる?」 「ええ」とさらりと返事した。 「ごめんなさい」 しょんぼりとが言う。 「さんに対して、確かに怒っていますよ。前にも言いましたが、翼君も融君も僕にとっても可愛い後輩です。でも、僕にとってはあなたの方が大切なんです。相手の卑劣さがわかった時点で棄権をしても誰も文句は言いません。少なくとも、次鋒は降りても良かったのではありませんか?」 次鋒も何か腹に仕込んでいたらしい。しかし、はそれを踏まえたうえでの蹴りを入れたようなので、相手はその一撃で沈んだ。 「しかし、何より腹立たしいのは、こうやって自分の憤りをあなたに見せている僕自身なんですけどね」 「そんな!」 思わず立ち上がったは足の痛みでよろめく。 「座ってください」 慌ててを支えた颯斗が優しく言う。 彼女の足元に膝をつき、今度は優しくガーゼで傷口に触れる。 「僕は、さんのように強くなりたいです」 揺るがないでいたい。 「...わたし、強くないよ」 「僕よりは強いですよ」 は反論しようとして口を開くが、保健室のドアが開いて琥太郎が入ってきた。 「傷口はどうだ?」 そう言いながらの足を見る。 「湿布は、やめた方が良いな。まずは、冷やさないと」 そう言って琥太郎が氷嚢を作る。 「僕は、生徒会室に行きます。帰りにまた寄りますので、それまで休んでください」 そう言って颯斗が立ち上がる。 「颯斗くん...!」 「はい」と振り返った颯斗は傷ついた表情をしていた。 「ごめんなさい」 「何がですか?気にしないでください」 そう言って颯斗は保健室を後にした。 「はばかだな」と琥太郎が言うと「うん」とが頷いた。 |
桜風
13.1.11
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