月光 42





颯斗が生徒会室に入ると月子が駆け寄ってきた。

ちゃんは?」

「星月先生が手当てをされていますよ」

颯斗はそう返して融を見た。

叱られる、と彼は首を竦めた。

「融君。あなたが生徒会の仕事をサボっていた間、皆がフォローしています。進捗状況はみんなに聞いてくださいね」

そう言って机についた。

「良かったな、融。お咎めなしだったぞ!黒板キーキーの刑はなしだぞ!」

嬉しそうに翼が声をかけてきた。

「うす」と返事をして颯斗を覗うように見た融は気合を入れたように一度短く

息を吐いて「颯斗会長」と彼の机の前に立つ。

「はい?」

書類に視線を落としていた颯斗は不思議そうに顔を上げた。

「長い間サボってスミマセンでした!」

90度に腰を折って頭を下げる融に一瞬目を丸くしたが、おそらく、これが良くも悪くも体育系ってやつなのだろう。

「はい、次はお仕置きが待ってますからね」

苦笑して颯斗はその謝罪を受け入れた。

「けど、」と融が言う。

姉のことは、諦めてませんから」

とライバル宣言をする。

残念ながら対象に相手にされていないライバル宣言であるが...

さんは、誰にも譲れません」

キッパリと返したように見える颯斗だが、心の中では少しだけ揺れていた。

以前、に言われた。颯斗はの心を守っているのだ、と。

しかし、今日の空手部との試合、その後の彼女への自分の態度を考えると彼女を守れているとは思えない。

それなのに、何故彼女を手放せないのだろうか。

彼女の幸せを願うなら、手放した方が良いということがあっても、おそらく自分は未練たらしく彼女の手を離せない。

本当、何と弱いのだろう...


今日は色々とあったし、休日なので自分以外を帰した颯斗は暫く仕事をしていたが、結局集中できず、捗らないので帰ることにした。

保健室のドアに手をかけると中の会話が聞こえてきた。

「やっぱり病院に行くか?」

「大丈夫だよ。去年は関節だったからまずいかなって思ったし、確実に外れていたから病院に行ったけど。脛なら道場に通って鍛えてるし。様子見てからでも遅くないでしょう?」

「そうかもしれないが...今日、風呂に入ったら連絡しろよ。包帯、巻き直してやるからな」

「過保護!今回は両手が使えるから大丈夫」

「湿布は貼るなよ」

「はいはい。別の意味で腫れるかもしれないもんね」

気の置けない関係の会話。

自分と彼女とはそうはいかない、と思ってしまう。


「青空、遅いな」

「そうだね。随分前につっこちゃんたち帰ってたけど」

「電話してみたらどうだ?」

琥太郎に促されたが「そだね」と返した言葉を聞いた颯斗は慌ててドアをノックした。

「失礼します」と保健室に足を踏み入れた。

「あれ、颯斗くん」

嬉しそうに振り返ったにチクリと胸が痛む。

「やっと来たか。けが人を放ったらかして保健室を空けるわけにはいかなかったからな。早々に引き取ってくれ」

「何ですか、その言い方!」

拗ねたようにが言い、琥太郎は苦笑している。

「はい」と颯斗は返事をしてのバッグを肩に掛け、彼女に手を貸して立ち上がらせる。

「歩けますか?」

「うん、大丈夫」

にこりと微笑むに颯斗は深い息を吐いた。

膝をついて背を向けた。

「痛むのでしょう?」

「だ、大丈夫!!」

慌てるの背後で琥太郎が苦笑している。

、自業自得、という言葉を知っているか?」

「ちょ、琥太にぃ!」

「良いから、とっとと負ぶってもらえ。お前らカップルは校内でも有名だから今更感があるだろうしな。俺は早く保健室を閉めたい」

さん」と颯斗が促し、「ううう...」と抵抗見せるも、は観念した。

颯斗の背に体重を乗せると彼はすっくと立ち上がる。

「では、星月先生」

そう言って軽く頭を下げ、も「お世話になりました」と呟く。

「ああ、あまり彼氏に心配をかけるものじゃないぞ」

からかい口調で琥太郎が言い、「わかってるもん」とが返す。

「本当にわかってますか?」と颯斗が言うとは言葉に詰まった。


その後、颯斗はの部屋まで彼女を負ぶって運んだ。

さすがに、職員寮の入り口で止められるかと思ったが、琥太郎から連絡を受けていたらしい陽日が苦笑して通してくれた。

さん、今日は大人しくしてくださいね」

釘を刺す颯斗に「うん」とがしょんぼりと返す。

「どうかしましたか?」

「まだ、怒ってる?」

「...いいえ?」

否定したが、その前に間がある。

「颯斗くん」と悲しげに見上げるに良心が痛み、颯斗は腰を屈めてキスをした。

「怒ってませんよ」

「ごめんなさい」

怒っていないというのに謝罪を口にするに颯斗は困ったが、彼女の頬を撫ぜ、「では、またいつものように月曜日の朝に迎えに来ますね」と言って職員寮を後にした。









桜風
13.1.11


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