| どうしてこんなにも弱いのだろうか。 課題を済ませ、颯斗は窓の外を眺める。 どうして、こんなにも... 彼女のために強くなりたいと思った。彼女を守れるように... 気が付くと颯斗は携帯を手に、ある番号に電話をかけていた。 の姉の夏凛の番号だ。 今の自分の心境の吐露をすれば呆れられる。または、結構酷いことをいわれそうな気がするが、それでも何かしらの反応はもらえると思う。 『今日もは可愛かった?』 此処最近、彼女は電話の作法を無視している。 「こんばんは」と颯斗が言うと『、可愛かった?』と返される。 「ええ、さんはいつも可愛いですよ」 颯斗が返すと 『自分のほうがのことを知ってるとか思ってる?あー、腹立つ!』 と理不尽極まりない言葉が返ってきた。 「すみません」と謝罪する。 『で?に何があったの?』 そう返されてここ数日の出来事を話す。 暫く沈黙した後「ごめん」と日本語が返ってきた。 颯斗が留学を決めて以来、夏凛はドイツ語でしか話をしようとしない。 留学の際、試験にドイツ語は必要だからという理由であり、協力してくれているということなのだが、如何せん厳しい。 夏休みに入った頃にやっとまともに会話が出来るようになったのだが、それまでは会話が途切れると有無を言わさず通話をきっていたし、勿論、選んだ言葉が間違っていても切られていた。 そんな夏凛が日本語で言葉を返してきたのだ。 「夏凛さん?」 『あたしが、あの子をケアできてたらたぶんそうはならなかったんだけどね』 「...どういうことか、聞いても良いですか?」 遠慮がちに言う颯斗の耳に苦笑が届く。 『あの子、自分が我慢すれば万事うまく行くって思ってるのよ。両親が亡くなって、星月のおじさんがあの子を迎えに行くのに時間のロスがあった。1日半かな?その間であの子はトラウマを植えつけられた。ま、平たく言えば、折檻されまくってたみたいね』 「そんな!」 『性的な暴行に発展しなかっただけマシかなとは思うけど。でも、人の顔色を覗わなきゃいけないって思ったんだろうね。まあ、かっわいくないガキになってたわ。ひとりで結構色々なことが出来るようになってたわ。 あたしたちは、それをどうやってもケアできなかった。あたしたち大人が手を拱いている間に、子供らしさ、大人の顔色を覗う必要がないことを教えてくれた子が居るのよ。あの子のお陰でも随分子供になってくれたけどね』 「その話と、さんを僕が守れていない話の繋がりが見えないんですけど...」 『あの子が、あたしやアキ、琥太に甘えて見せるのはある意味、演技なの』 「演技、ですか?」 『あたしたちが頼ってほしいって思っているのを知ってるからね。あの子、ひとりで結構色々できるのよ?』 それは、知っている。 『本当の甘え方を知らないの』 「本当の、甘え方?」 『そう。有李がゆっくり教えてくれていたんだけどね、あの子とはもう会えなくなったの。だから、まだ途中。郁がそれを引き継いでくれたら楽だったんだけど、あの子の性格と状況でまず無理。琥太も、年が離れすぎてる』 「けれど、夏凛さんたちには甘えていますよ」 『だから、さっき言ったでしょう?演技だって。あたしたちは全力で甘えてもらいたいって思ってる。それを察しているは、必要のないことでも甘えている。 あたしと琥春、アキや琥太はもう手遅れ。郁もこれまでの関係上無理ね』 何の話だろう... 『さあ、残るは颯斗だけ。本当にが甘えられるようになるかどうか、颯斗の腕に掛かってる』 「ですが、僕はさんを守れるだけの力も自信もありません」 『守りたい気持ちは?』 「あります」 間髪入れずに返す颯斗に夏凛は苦笑した。 『若いって素晴らしい』 「からかうのはやめてください」 『ね、前にが言ったんでしょう?颯斗は自分の心を守ってくれているって。それって凄いことじゃない』 「凄いですか?守れているかどうか、わからないんですよ?」 『物理的に守ることは誰にだって..赤の他人だって、通りすがりの人だって出来るでしょう?けど、心は通りすがりの人が軽く守れるもんじゃない。違う?』 そうかもしれない。 そうかもしれないが... 「あの、今更ですが。夏凛さん、ですよね?」 『ふふふ...正月ゲンコだからね』 間違いなく、夏凛のようだ。のことで自分を励ますとは思えなかった颯斗は思わず確認してしまったのだ。 よって、夏凛の怒りを買ってしまったがお陰で彼女が彼女であることを確認できた。 ただちょっとだけ。正月が、怖い... 電話の向こうで夏凛を階級で呼ぶ声がした。 『ごめん、颯斗。有李のことは琥太から聞いて。渋るだろうけど、あたしが途中までしゃべって琥太に聞けって言ったって言えばたぶん話すと思う。ただ、事前に連絡を入れるように。突然訪問して「教えてください」って言われても話せないかもしれないから』 そういった夏凛はすぐに通話を切った。 耳元の電子音に暫く呆然とし、そして颯斗は一度電源ボタンを押す。 そして、少し躊躇した颯斗は携帯のディスプレイに琥太郎の番号を表示した。 |
桜風
13.1.18
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