| 通話を切って琥太郎は溜息を吐いた。 そこそこ散らかっている部屋の中にあるデスクの引き出しを開けた。 封筒に仕舞っている一枚の写真を取り出す。 を真ん中に、水嶋姉弟が笑顔で笑っている。自分の宝物だ。 『もしもし、珍しいね琥太にぃ』 郁に電話をした。 「これから青空に有李の話をするから」 そういうと電話の向こうの郁の機嫌が物凄く悪くなった。 『何で?』 「夏姉が話せって」 『何で僕に何もないの?』 「がらみだ」 そう言うと郁が黙った。 「...答えがわかっているからだろうな」 『じゃあ、何で琥太にぃには?』 「俺は青空経由で夏姉の言葉を聞いたんだ」 『じゃあ、本当に夏凛さんが言ったかわかんないじゃない』 納得できない、と郁が返したが 「青空がどうやって有李の名前を知るんだ?」 『が..って、それはないか』 「そういうことだ。一応、事前に言っておいた方がいいと思って電話した」 『......わかった』 そう返して郁は挨拶もなしに電話を切った。 彼の心境はわからないでもない。 だが、自分達ではダメだったこともよく知っている。だから、納得できないが了承してくれたのだろう。 寮監室にいる陽日には連絡を入れていたので颯斗はすんなり来られるだろう。 暫くしてドアをノックする音がした。 「はい」と返事をしながらドアを開けると予想通り颯斗が居た。 「入りなさい」 琥太郎に促されて颯斗は「失礼します」と足を踏み入れた。 少し散らかっている部屋を見てちょっと驚いていたようだ。 「保健室はや夜久が片付けてくれているからな。と、言ってもすぐに散らかすから2人とも口うるさい」 苦笑しながら琥太郎が返す。 座るように促してコーヒーを淹れた。少しだけ時間を掛けて自分の気持ちを落ち着ける。 「さて、有李の話だったな」 「はい」 颯斗が頷く。 琥太郎は先ほどデスクの抽斗から取り出した写真を颯斗の前に置いた。 「これは?」 「俺の、宝物だ」 琥太郎がいう宝物。真ん中に。そして、片方はきっと郁だ。と、すると... 「この方が、有李さんですか?」 郁と有李に比べての笑顔が少しだけ緊張を孕んでいる。 「有李は、郁の双子の姉だ。春休みに墓参りに行ったのを覚えているだろう?」 はい、と頷いた颯斗はそこで気が付いた。 「まさか」と呟く颯斗に琥太郎は頷き、「有李は、生まれつき心臓が弱かったんだ。郁がこの学園に通っているときに星になった」と彼の考えを肯定した。 夏凛がもう彼女に会えないといった意味はそこにあるのだ。 「有李は、が無理に大人になろうとしたのを叱ったんだ。無理に背伸びをしていたを叱って、子供であるようにと甘え方を教えた。は頑なに拒んでいたから中々上達はしなかったけどな。 ウチの父親がを迎えに行くのに1日半掛かった。の両親の遺言を預かっていた弁護士が海外に出張に出ていたらしくて、戻ってきて遺言を持って乗り込んだ。けどその間に、は両親との思い出の品を捨てられたそうだ。子供ながらにそれを守ろうとして、殴られた。ウチに来たときには表情がなかった。その代わり、俺達の顔色を覗うようになった。あの親戚の元に戻るのだけは嫌だったんだろうな。 最初は俺達家族はもう二度とあそこに返すことはないと言っていたんだけど、に俺達の声は届かなかった。 だから、が納得するならそれで良いと思ってしまったんだ。 顔色を覗う、アキ曰く、可愛くないガキだった。 俺達は勝手にのことを解ったつもりでいた。けど、有李は違った。俺達が「かわいそうだから仕方ない」と思っていたことも怒ったんだ。 有李以外、俺達は子供のの見捨てた」 琥太郎の言葉に颯斗は言葉を失った。 「でも、それは...」 仕方ない、とは言えなかった。言ってはいけない気がした。 「さっき、青空は電話で言っていたな。夏姉がお前しか居ないって言ったって」 「はい」と頷く颯斗に琥太郎は手を伸ばして、頭を撫でた。 少し乱暴な琥太郎の手に驚く。 「ここで「仕方ない」って言わない。確かに、もう青空しか居ないだろうな」 自嘲気味に笑う。 「去年の秋にが襲われたことを覚えているな?」 颯斗は頷く。誰が忘れるか。 「あの時、に言われたんだ。俺に育ててもらって幸せだ、と。今回は失敗したけど、俺が傍に居るのは心強い、と」 何の自慢だろうか、と颯斗は相槌も打たずに静かに言葉を聞く。 「俺がそう言われたいと思っていたから言ったんだ。は自分で気付いていないが、大人を信じていない」 「まさか!」と颯斗が思わず声を上げるが、琥太郎は首を横に振る。 「必要な存在であるが、できれば頼りたくないんだろう。それはがそうやって考えているんじゃなくて、もしかしたら無意識のことかもしれないが。「仕方ない」と諦めてしまった俺達への信頼は、思った以上に低いさ。 俺達大人は、社会的に物理的にを守ることは出来るけど、一番大切なものは守ってやれない」 颯斗だけが守れるもの。 颯斗は琥太郎の顔をじっと見た。 「アキじゃないが、俺も少々面白くない。おそらく郁や姉さんも。夏姉なんて特に面白くないだろう」 苦笑して言う。 「それでも、青空しか居ないんだ」 皆が言う。誰もが守れない彼女を守れるのは自分だと。 「自信を持ってくれ。他の事は特に何も言うつもりはないが、のことだけは。今回のあのやり方は、まあ。彼氏としても生徒会長としても青空は面白くなかっただろう。けど、には年下の守り方を誰も教えていなかったからな。自分の知っている一番強い人の真似をしたんだろう」 琥太郎の言葉には呆れが含まれている。 「ええ、そっくりでした」 「だろうな」 喉の奥でクツクツと笑う。 「星月先生」 「青空」 颯斗の言葉を遮るように琥太郎が口を開く。 「俺はが幸せであればいいと思っているし願っている。けど、俺にも立場と言うものがある。知っていたら止めなくてはならないこととかな」 琥太郎が言わんとしたことを察した颯斗は続けようとした言葉を飲んだ。 「では、僕はこれで」 「ああ、気をつけて帰るんだぞ」 そう言って颯斗が部屋の外に出て行くのを見送る。 ドアが閉まったのを確認してテーブルの上においていた写真を手に取った。 「有李、お前と同じようにを守れる人が現れたんだ。少し面白くないけどな」 そっと写真の有李に触れて苦笑しながら呟いた。 |
桜風
13.1.18
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