月光 45





シャワーを浴びて髪を乾かし終わり、脚の手当てをしようとしていると部屋のドアがノックされた。

「はい?」

こんな時間に誰だろう...

たまに月子が遊びに来る。まさか、包帯を巻きに琥太郎がやってきたのか?!

眉間に皺を寄せてドアを開けた。

「いっ?!」

は驚き、ドアを閉めてチェーンロックを外して再びドアを開ける。

「ちょ、颯斗くん...!」

慌てて腕を引いて部屋の中に入れてしまった。

「どうしたの?」

「いつも、チェーンロックをしているのですか?」

の質問に答えずに颯斗が問う。

「あ、うん。琥太にぃが。職員寮は男の先生しかいないから寝る前には必ずって」

なるほど、と颯斗は頷く。

「えっと、どうぞ?」

事態が飲み込めないが、部屋の中に引き込んでしまったので、ついでに招いても良いだろうとが促す。

少し躊躇った颯斗は「お邪魔します」と夕方もやってきた部屋の中に足を踏み入れた。

「えっと、紅茶で良い?」

「はい。けど、その前に包帯を僕に巻かせてください」

そういわれては多少躊躇ったが「じゃあ、お願いします」と頷いた。

さんはベッドに座って」

そう促されては大人しくベッドに腰掛けた。

「少し腫れは引きましたね」

頭に血が上っていたため、が痛がるのもお構いなく傷を舐めていた自分に反省しつつも優しく触れる。

「う..ん」

を見上げると顔を赤くしている。

「どうかしましたか?」

「どうもしません」

変なの、と思いながら颯斗はの脚に包帯を巻く。

「上手だね」

「手先は器用な方ですから」

なるほど、とは納得した。


綺麗に巻いてもらった包帯に嬉しそうに触れる。

「あ、紅茶」

「僕に淹れさせてください。どこにありますか?」

そう言って颯斗がキッチンスペースに向かったのでは口頭で場所を教える。

「やっぱり職員寮の方がキッチンスペースも広いですね」

「そうなの?わたし、学生寮に入ったことがないからよくわかんないな」

「当たり前です。僕が部屋にお招きしていないのに、誰の部屋に行くんですか」

少し強い口調で叱られてしまった。

「ごめんなさい」と首を竦めたに颯斗がクスクスと笑う。

「颯斗くん、何か良いコトあった?」

機嫌が良いようだ。

「そうですね。何か変なことで悩んでたんですけど、吹っ切れたと言いますか」

いいことだ。

「そっか」とが嬉しそうに頷く。

紅茶を淹れての元へ戻ってきた颯斗が彼女にカップを渡す。

「熱いですから、気をつけてくださいね」

「うん、ありがとう」

そう言っては一口飲んだ。

「颯斗くんが淹れてくれる紅茶が一番美味しい」

「嬉しいです。けど、僕にとってはさんが淹れてくれる紅茶もコーヒーもお茶も全部一番美味しいですよ」

と返されては思わず咽た。

咳き込んでしまったため、カップの中の紅茶が零れる。

「あつっ」

「いけません」

そう言って颯斗はのカップを受け取って、「冷凍庫開けますね」と言ってキッチンスペースに向かった。

冷凍庫の中にあるだろうと思っていた保冷材を取り出して急いでに渡す。

紅茶を零した箇所にがそれを当てる。

「大丈夫ですか?痕が残ったらどうしましょう」

「大丈夫だよ。けど、本当にどうしたの?」

本当に、今の颯斗はかなりご機嫌だ。

「さっき、夏凛さんと話しをしました」

「お姉ちゃん?」

「星月先生とも」

ああ、だから職員寮に居るんだ。

...ん?

は首を傾げた。

「何の話をしたの?」

「秘密です。そうですね、有李さんの話を聞きました」

「有李ちゃん?琥太にぃから??」

「ええ、話し始めたのは夏凛さんだったのですが、お仕事のようで、話が途中になったので、星月先生に続きを聞けといわれてしまって」

「それで、琥太にぃは話してくれたの?」

の言葉に颯斗が頷く。

「そっか」とがどこか嬉しそうだった。

「有李ちゃんはね、わたしにステキな恋の話を聞かせてくれたの」

「恋ですか?」

「うん。その人を好きってだけで幸せになれる恋のお話。有李ちゃんは残念ながら応えてもらえなかったけど、それでも幸せだったって」

もしかしたら、琥太郎のことを好きだったのだろうか...

何となく颯斗はそう思った。

「春にお墓参りしたでしょう?そのとき、わたしは有李ちゃんに報告したの。有李ちゃんから聞いたようなステキな恋をしたよ、って」

そう言って颯斗を見た。

「紹介できなかったのが残念だった」

寂しげに笑う。

その笑顔を受けて颯斗は胸がキュッと苦しくなる。

さん」

「はい?」

「僕は、さんのように強くないので、貴女を全ての危険から守ることは出来ないかもしれません」

「ん?」

が首を傾げる。

「けれど、あなたの心は、僕か必ず守ります」

そう言っての前で膝をついて彼女の手を取って手の甲にキスをした。

は目を丸くして顔を真っ赤にしている。

「は..颯斗くん?!」

「貴女を守ることを許してください」

軽くパニックを起こしているに内心苦笑を漏らしながら颯斗はじっと彼女の眸を見つめて言葉を待つ。

「あの、えっと。よろしくお願いします。あと、わたしもに颯斗くんを守らせてください」

の言葉に颯斗は少し驚き、「心強いですね」と微笑んだ。









桜風
13.1.25


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