| 生徒会と空手部の試合があった次の月曜日の昼時間、食堂に向かっていると前方に月子に姿を認めた。 「つっこちゃん!」 が名を呼ぶと彼女が振り返る。 「ちゃん、颯斗君!」 彼女は足を止めてたちが追いつくのを待った。 駆け出そうとしたを颯斗が止めたため、少し待たせてしまった。 「ごめん」とが言うと「颯斗君がいてよかった」と月子に笑われた。 「どうして?」 「だって、ちゃん、走ろうとしたじゃない」 それをすぐに止められたのは、一緒にいる時間が長い颯斗だからだ。 「ホント、お転婆さんですからね」と颯斗も苦笑している。 「だって、待たせちゃ悪いって思うじゃない」 「いいのに」と月子が返して、共に食堂に向かう。 と月子が話をしているのを颯斗は静かに聴いていた。彼女たちは次の模試の話をしている。 「そういえば、ちゃん」と月子が話を変える。 「なに?」 「何で融君と譲君を苗字で呼んでたの?」 は何のことかわからず、首を傾げ、颯斗を見た。 「空手部との試合が終わるまでの数日間は、苗字で呼んでましたよ」 「ホント?」 「自覚がなかったの?」 月子が驚く。 「うん。たぶん、道場に通ってたときの感覚だったからだと思うなー。わたしが名前で呼び始めたのってあの子たちが生徒会に入ってからでしょ?」 「確かに、譲君もさんのことを苗字で呼んでましたね」 颯斗が頷く。 「同門の仲間って感覚が強かったからだと思う。月見山道場の名に賭けて、って感じで」 肩を竦めてが言う。 確かに、その名に賭けての圧勝だった。 放課後になり、生徒会室に向かうと、珍しく翼が仕事をしていた。 というか、融と二人で仕事をしているのだ。 と颯斗は顔を見合わせて笑った。 「あ、そらそら。この予算の件なんだけど」 颯斗の姿を認めた翼が声をかけてくる。 「どれですか?」 そう言いながら颯斗は翼たちの机へと足を向けた。 「先輩、脚は大丈夫ですか?」 別の机で仕事をしていた譲が声をかけてくる。 「うん、大丈夫。松葉杖ついてないでしょう?」 「どうせ、病院にも行かなかったんでしょう」 指摘されては笑った。「バレたか」と。 月子が遅れてやってきた。職員室に寄ったのだと言う。 「この間の模試の結果が届いたって。ちゃんのももらってきたよ」 「ありがとう」と言って封筒を受け取る。 部屋の隅でと月子は額を寄せて結果を見ている。 「颯斗会長は受けなかったんですか?」 融が問うと、 「ええ、僕はちょっと進路が違いますから」 と颯斗が頷いた。 「留学とか?」 驚いて顔を上げる。 「ええ、わかるんですか?」 「あ、いや。勘みたいなもんです」 慌てて融が否定した。 「そういや、姉」 話題を変える。 「なに?」 「この学校ってハロウィンなんてするんだな」 「うん。数代前の生徒会長様が採用した行事のひとつ」 『数代前の生徒会長様』に心当たりのある颯斗たちは苦笑した。 本当に、この学校にいろんな意味で影響を残した人だ。 「仮装すんの?」 「うん、基本的に。けど、生徒会主催行事って言っても強制参加じゃないからね。それぞれが好きにするって感覚かな?」 「姉は去年何やったの?」 「ネコミミメイド」 の言葉が中々理解できなかった融と譲は沈黙し、「くそっ!あと1年早く生まれてたら!!」と融が悔しがるまでに随分と時間が掛かった。 勿論、その後 「融君、何がそんなに悔しいんですか?」 という颯斗の黒い笑みの前に彼が冷や汗をかいたのは言うまでもない。 ハロウィン当日、今年のは魔女だった。 颯斗の勧めである。彼が、去年のように肌の露出が高い衣装を許せるはずがない。 そこにがっくり来ていた生徒達はいたが、そんなの知ったことではない。 「今年も晴れて良かったね」 が声をかけると「そうですね」と颯斗が頷く。 「颯斗くんは..ドラキュラ?」 が首を傾げながら問うと「そうですね」と頷く。 「颯斗くんはかっこいいから何でも似合うね」 「ありがとうございます」と礼を言った颯斗はふと何かを思いついたような表情を浮かべた。 「さん、僕はドラキュラです」 「ん?うん」 今その話をしたばかりだ。 「では」 脈絡のない「では」に首を傾げたのそれに颯斗が唇を寄せた。 ちくりと首筋に痛みが走る。 「颯斗くん?!」 「はい?」 「『はい?』じゃなくて...!」 そこまで言っては気がついた。何だか、ここは木の影になっている。 皆が空を見上げている場所からは死角なのではないだろうか。 「颯斗くん?」 「可愛いさんを他の人に僕が見せるわけないじゃないですか」 にこりと微笑んで再びの首筋に唇を寄せた。彼女の首筋には赤くなった箇所が2つ。 まるでドラキュラに血を吸われたかのような痕だが、そのドラキュラは魔女に叱られたのはそのすぐ後のこと。 ただし、彼には全く反省の気持ちはなく「怒った顔も可愛いですね」と心の中で微笑んだと言う。 |
桜風
13.1.25
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