月光 52





クリスマス、ベツレヘムの星祭の準備が始まった。

先日大掃除をしたばかりだと言うのに、もう次のイベントを進めなくてはならない。

「忙しいなー」

そう零したのは融だった。

「2学期が一番忙しいよ」

が笑う。

「3学期も生徒会長選挙とバレンタイン、そして卒業式がありますから、忙しくないですか?3学期の方が短いですし」

颯斗が言う。

「んー...けど、生徒会の準備的には、生徒会長選挙くらいじゃない?勿論、卒業式も学校側との調整が必要だけど、基本的に学校主体でしょう?バレンタインは、チョコの仕入れくらい?」

が颯斗を見る。

「そうみたいですね。あとは前日にこっそり隠すだけ」

颯斗が笑う。

「何でバレンタインなんて...先輩と月子先輩が入学するまでは男子校みたいなもんだったんですよね?」

譲が呆れて言うと

「一樹会長が言い出したことみたいだから」

と月子が笑う。

その一言で「仕方ないよね」となるのだ。


さん、大丈夫ですか?」

準備に多忙を極めている中、昼時間に生徒会室に向かいながら颯斗が問う。

午前の授業では舟を漕いでいた。

受験もあるのに、生徒会執行部として忙しく校内を走り回っているのだ。おそらく、寮に帰って遅くまで勉強をしているのだろう。

一応合格圏内の判定を貰っていると言っていたが、はそれで安心して手を抜く性格ではない。

その生真面目さは彼女の長所であるが、こんなときは短所とも言えなくもない。

手の抜き方は知っていると言っているが、言うほど抜いている様子もなく、颯斗は心配だ。

「大丈夫。ちょっと寝不足なだけ」

「充分大丈夫ではないですよ。今日のお昼は、僕だけが仕事をしますから、さんは保健室」

保健室に行くように言おうと思ったが、颯斗は思い直した。

「生徒会室のソファで寝てください」

「んー?大丈夫だよ」

「目が開いてませんよ?」

そう指摘されては言葉に詰まる。実際、瞼が凄く重い。

「午後の授業、寝るわけにはいかないでしょう?」

念を押されて「はーい」とは観念した。

「良い子ですね」

そう言って颯斗はの頭をいい子いい子と撫でる。

子ども扱いされているようで少し不満だが、優しい颯斗の手は心地良くて、また眠気が強くなった。


昼休憩の生徒会室は全員に声を掛けて仕事をすると言うわけではなく、気になる人だけがやってきて仕事をするという形なので、この後誰かが来るかもしれない。

昼食のサンドイッチを食べながらも舟を漕ぐは何とか完食して、食べ終わった途端に眠りの淵に落ちた。

「まったく...」

座ったまま舟を漕いでいるをそっとソファに寝かせて生徒会室に備え付けてある毛布を掛けた。

は体を丸くするとソファにすっぽり嵌ってしまう。

颯斗はの頬をそっと撫でた。

「温かいですね」

そう呟き、彼女の頬におやすみのキスをして、颯斗はデスクに向かう。

会長の仕事は殆ど『終わる』と言うことはない。次から次に仕事が上がってくるのだ。

昨年、一樹の仕事の管理をしていたのでそれは知っている。

颯斗の場合一樹のように仕事を溜めない代わりに他のメンバーの仕事も引き受けるので、結局彼は一番忙しいままなのだ。

それを心配しては頑張ってくれているのだが、そうなると颯斗は彼女が心配になる。

自分の書類を片付けて、昨年の仕事内容を思い出しながらの仕事も片付ける。

ベツレヘムの星祭のメインとなるもみの木やオーナメントの手配の確認を済ませた頃に、昼休憩が終わる時刻になる。

こんなに気持ち良さそうに寝ているのに...

そんなことを思いながら颯斗はの唇にそっと口づけを落とした。

ゆっくりとの瞳が開く。

「あれ、颯斗くん...」

多少、舌足らずに颯斗の名を呼んだはゆっくりと体を起こした。

「あ、あれ?今何時?!」

「あと5分で昼休憩が終わります。さ、教室に戻りましょう」

「わ、何も出来なかった...」

しょんぼりするに「僕が代わりにしておきましたから」と颯斗が言う。

「え?!ごめん、今度お礼しなきゃ」

が少し自分を責めるようにそう言い深い溜息を吐いた。

「いいえ。もうお礼は貰いました」

颯斗が言うとは頭の上に沢山の『?』を浮かべた。

「え、何??」

「寝込みを襲わせてもらいました」

にこりと微笑んで颯斗が言う。

数秒沈黙して颯斗の言葉を咀嚼していたが「え?!」と声を上げた。

「ね、寝こみって...」

そんなの反応に颯斗は「ふふふ」と笑う。

「さあ、早く教室に戻らないと遅刻してしまいますよ。それとも、授業をサボって僕とここで...」

少し低くした颯斗の声音には慌てて首を横に振った。

「教室に戻ろう!」

「何だ、残念...」

肩を竦めていう颯斗には苦笑して

「でも、颯斗くん。ありがとうね」

と礼を口にした。

「おや、寝込みを襲ったことにお礼を言われるとは思いませんでしたよ」

「もう!」

颯斗のからかいには膨れ、先に生徒会室を出て行った。

からかいすぎたと反省した颯斗が慌てて生徒会室を出ると、ドアの傍でが待っていた。

さんには敵いませんね」

そう零した颯斗には満足そうに微笑んだ。









桜風
13.2.15


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