月光 55





夕飯は寄せ鍋にした。

ザクザク野菜を切ってドンドン鍋に突っ込めば良いから、と夏凛が言い出したのだ。

そのほうが準備も楽だし、片付けも同じくだ。

賑やかな夕飯に気圧される颯斗をが気遣う。

「お肉、大丈夫?取ろうか?」

「いいえ、あの。賑やかですね」

「お肉が絡んでるから。鍋だと、ほら。陣地無いし」

が苦笑する。

戦場と化した食卓に颯斗は目を丸くして全く箸が進んでいない。

「肉、これあたしの!」

「はあ?それさっきオレが入れたヤツじゃん。姉ちゃん、そりゃ譲れねぇ!!」

そんな迫力満点の2人の間の鍋の中につくねを入れたり、野菜を入れたりとは鍋の世話に勤しんでいる。

この様子だけ見たら、が一番大人だ。

クスクスと笑う颯斗に気が付いた夏凛が「なによ」と言い、晴秋が「なんだよ」と言う。

「いいえ、賑やかな食卓だな、と思いまして」

「2人とも、もういい大人なんだから喧嘩せずにご飯食べてよ」

にそんなことを言われて2人は暫く大人しくなるが、ずぐに第二次肉争奪戦が始まる。

そんな様子を見ては盛大な溜息を吐いた。


風呂を済ませてデザートを食べる。

颯斗が持ってきたフィナンシェだ。

年末年始の休みに入る前に店で購入していたのだという。

「あら、意外と上品な...」

夏凛が呟く。

「あんま甘くないし。美味いなぁ」

晴秋もそう言って颯斗は胸を撫で下ろした。

にはあげたことがあるので、彼女がコレを好きなのは知っているが、2人の好みはさっぱり見当付かない。

「さて、と」

夏凛は飲み干した紅茶のカップを少し横に置く。

「今日、全員に揃ってもらった本題よ」

そう言って夏凛が切り出した。

駅前の開発でここら辺がベッドタウンと考えられていること。

そして、この周辺の土地を一括買収してマンションを建てようと言う不動産の動きがあると言うこと。

「どう?」

ざっくりとした聞き方だ。

「姉ちゃんは?」

「売るほうに一票。ただ、あたしもアキもこっちに張り付くことが出来ないから申し訳ないけど、売却に関する手続き関係は再び星月頼り」

「ま、オレもそっちかな。来年再来年の話になりそうにないからもしかしたら、ってのはあるけど...今の状況が変わんなきゃ、姉ちゃんに一票」

そうしてを見る。

「お姉ちゃんとお兄ちゃんの意見に異論はありません。元々、この家の維持にはお金が掛かってただろうし」

が少しだけ寂しそうに言った。

「あの、いいですか?」

颯斗が話しに入る。

「どうしても、残すことは難しいのですか?」

「颯斗くん?!」

が声を上げる。

「すみません、僕が部外者だと言うことは重々知っています。それでも...さんは、ご両親との思い出の品は殆ど、その..ご親戚の方に捨てられたと聞いています。おそらく、唯一残っている思い出の品は、この家になるのではないでしょうか」

「颯斗くん、いいよ!」

が慌てる。

「うん、そう思ってたからあたしたちはこの家を維持してきた。お金がどうこうってのをは気にしてるんだろうけど、そっちは別に」

夏凛が言うと「だなー」と晴秋が頷く。

「けどね、この家って人が住んでいないの。人が住まない家ってすぐにダメになるのよ。琥雪さんが面倒を見てくれていたけど、琥雪さんも此処最近忙しくなってこれからも忙しくなるって言ってたの」

「じゃあ、不動産会社に委託して...」

「それは、や。あの親戚連中がどう動くかわかんない」

「不動産会社に明るいわけじゃないから、どの会社が安全かが分からないんだ。今までは琥雪さんが見てくれているということで残そうと思えた。この先難しいんじゃ、ちょっとな」

晴秋は残念そうに言う。

「勿論、あたし達の信頼できる誰かが購入してその人が信頼できる人に管理を委託するのは全然構わない。けど、いないでしょう?星月はもうダメ。頼りすぎてる。これ以上おんぶに抱っこは、出来ない」

「そう..ですか」

颯斗が俯く。

どうにか、彼女の思い出を守りたかったが、子供の自分では叶わない。

「颯斗くん、ありがとう」

が颯斗の手にそっと自分の手を重ねる。

「ま、と言っても。さっき言ったとおり来年再来年って話にはならないだろうし、あと数年はここで新年を迎えることが出来ると思う」

夏凛がそう言って話は終わりといわんばかりに「今度はしっぶーいお茶にしようか」と立ち上がった。



雨戸を開けて縁側に腰掛けた。空を見上げると星が瞬いている。

「颯斗くん」

名を呼ばれて振り返る。

夏凛と晴秋はもう寝たのだろう。

「ありがとう」

彼はおそらく先ほどのアレを言いに来てくれたのだ。

「ありがとう」ともう一度重ねて言うと颯斗の手がの手に重ねられる。

「すみません、お役に立てずに」

「ううん、気持ちが嬉しかった。あのね、物の思い出は確かにこの家くらいだけど。記憶なら、まだちゃんと持ってるから」

そうか、彼女は愛されていたからちゃんとそういった思い出もあるのだ。

颯斗は自分がただ空回っていたような気がして、自嘲を零した。

「けど、お父さんもお母さんも。今日の颯斗くんにありがとうって言ってると思う」

「そうでしょうか。何の役にも立ちませんでした...」

少し冷たい口調になってしまった。

慌てていると「そんなことない」と強い口調で言われる。

「だって、わたしが嬉しかったもん。わたしが嬉しいって思うことをしてくれたんだもん。たぶん、お姉ちゃんも、お兄ちゃんも」

「僕は、本当に子供です」

「わたしもだよ。本当は、残したいって気持ちはわたしもある。けど、まだ子供だから、何も出来ないの。早く大人になりたいね」

が呟き、颯斗はコクリと頷いた。









桜風
13.3.1


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