| 日が沈み、星星が瞬いている。 「うわー、久しぶりだ...」 が呟いた。 両手を空に向かって伸ばす。 「ふふっ、お疲れ様です」 そう言って颯斗は持参した水筒から紅茶を、コップに注ぐ。 「寒いですから、温まってください」 「ありがとう」 受け取ったはコップを数回吹いてコクリと飲む。 じわりと温かさが体に広がっていく。 「颯斗くんの紅茶、わたし好きよ」 「ええ、ありがとうございます」 2人でベンチに腰掛けて空を見上げる。 星を指差して星の名前を口にして、神話を諳んじる。 3年間、共に歩んできた道を確認するように2人は長い時間そうしていた。 「ねえ、颯斗くん」 「はい」 「あのね、困らないでね」 前置きで『困らないでね』ということは、困ることなのだろう。 「何ですか?」 せめて彼女の前では困らないようにしようと思って颯斗が話を促す。 「少しね、寂しいの」 「...はい」 嬉しいと思った。同時に、辛くなる。 「ウィーンと日本の時差ってどれくらいだっけ?」 「今の時期なら、日本時間からマイナス8時間です。サマータイムの間はマイナス7時間になります」 「ということは、今、ウィーンは...」 時計を見た。19時半。 「11時半?」 「そうですね」 「こっちの夜が向こうのお昼か...ちょっと遠いね」 が言う。 「さん」 空を見上げて話をしていたは颯斗に視線を向ける。 彼の顔が近付いて唇が触れる寸前で止まる。 「受験が終わったので、良いですよね」 そう言って啄ばむようなキスを何度か繰り返し、やがて深いものに変わる。 久しぶりの甘いキスには頭の芯がじんと痺れてくる。 「ん...っ...は、...ゃ」 息を継ぐたびに吐息が漏れる。 漸く颯斗の唇から解放されたは息が上がっており、肩が上下している。 そんなに颯斗は再び啄ばむようなキスを繰り返した。 「はやと、くん?」 が名を呼ぶ。 颯斗は彼女をギュッと抱きしめた。 「ごめんなさい、さん」 「...困らないでって言ったのに。あと、謝らないで。だって、わたしは颯斗くんを応援してるの。頑張って。けど、颯斗くんも寂しいって思ったらそう言ってね。2人で『寂しいねー』って言おうよ」 が言う。 「...はい」 卒業式を迎えた。 翼は相変わらずのサプライズを用意してくれており、卒業生達の最後の素晴らしい思い出になった。 颯斗と共に生徒会室に行くと一樹がいた。 「一樹会長!」 颯斗の声が嬉しそうに弾む。 「おう、久しぶりだな。..お疲れさん、颯斗」 一樹が不意にそう言い、颯斗は言葉に詰まる。 「も、お疲れ」 「ありがとうございます」 はその言葉に対する礼を口にした。 「卒業式、ご覧になったんですか?」 「そりゃ、愛息子と愛娘たちの卒業式を見届けたいと思うのが親心ってヤツだ」 一樹が言い、「ぬいぬい、オヤジ臭いのだー」と翼に茶々を入れられた。 「五月蝿い!」と一樹がムキになり、翼が「ぬはははー」と笑いながら生徒会室の中を逃げ回る。 「やれやれ。本当の最後まで、ですか...皆さん、耳を塞いでくださいね」 そう言って颯斗は懐からミニ黒板を取り出した。 「ぬわわわ〜〜〜!!」 「待て、颯斗。俺達は仲良しだ」 翼と一樹があわてる。 「まあ、最後の記念です」 そう言って微笑みミニ黒板に爪を立てて鳴らす。 「ぬわー!」「ぎゃーーー!!」 2人は撃沈した。 「颯斗会長、やっぱ怖ぇ...」 融が呟く。 「姉!」 気を取り直した融がに声をかけた。 「なに?」 「卒業、おめでとう。オレ、まだ諦めてないから」 「お前、しつこいなー」 譲が呆れる。 「いいじゃないか!颯斗会長は留学らしいし。だったら」 「だったら、何ですかー?」 黒い笑みを湛えて颯斗が問う。 「え、いや。あの..頑張ってください」 「お前、ヘタレだなー...」 颯斗の圧力に屈した融に譲がまたしても茶々を入れる。 そんな様子を見ては笑う。 月子が遅れてやってきて、随分遅くまで生徒会室で談笑をした。 颯斗が日本を発つ日。 一樹、翼、月子、融に譲。宮地と犬飼も見送りに来た。勿論、もいる。 「こんなにたくさん...」 颯斗の声が震えていた。 「みーんな、お前の留学を応援しているんだ。頑張って来いよ!」 一樹が言い、集まった皆が颯斗に声をかける。 そして少し早いが展望デッキへと移動した。 残されたのはだけ。 「颯斗くん」 「さん...」 「無理しちゃダメよ」 「はい」 「ちゃんとご飯食べてね」 「はい」 「電話もメールもするけど、たまには手紙書くね」 「待ってます。僕も、毎日あなたの声が聞きたいので電話をしても良いですか?」 「無理しない程度に」 「ええ、あなたも。さんは頑張り屋さんなので、心配です」 「お互い様だね」 が笑った。 「ねえ、颯斗くん」 「はい」 「...ぎゅってして?」 そう言っては両腕を開く。 颯斗は本人曰く、ちょっと小柄な体をぎゅっと抱きしめた。 「応援してるから。けど、一番は颯斗くんが元気でいること。元気が出ないときは頑張らなくて良いからね」 「はい」 搭乗アナウンスが流れる。 「いってらっしゃい!」 「いってきます」 手を振りあって、2人は同時に背を向けた。 ゲートを潜るとき、颯斗は一度だけ振り返った。 の小さな背中が目に入る。 「いってきます」 もう一度呟いて搭乗飛行機へと向かった。 |
桜風
13.3.8
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