| 空が茜色に変わっていく。 颯斗は鍵盤の上を滑らせている手を止めた。 昨日はの声を聞いていない。 ピアノの蓋を閉めて携帯に手を伸ばした。 昨日は電話に出られないとは前もって言っていた。 理由を聞くと「大事な用事のためにちょっと、ね」と言葉を濁らせる。 大事な用事とは何だろう... 電話に出られないなら、とメールを送ってみたが返事がなかった。 はぁ、と溜息を吐くと手の中の携帯が着信を告げる。ディスプレイに表示された文字を見て颯斗は通話ボタンを押した。 「もしもし」 『颯斗くん?』 「はい、僕です。さん、大事な用事の準備は終わったのですか?」 そう問えば『一番大きいのが終わったよ。まだ準備が要るけど』と返された。 「そう..ですか」 沈んだ声音で応じる。 『ねえ、颯斗くん。ウィーンの夕焼けって日本で見るのとちょっと違うね』 そういわれて颯斗は目を丸くする。 「さん?今どちらに??」 『窓の外』 颯斗は慌てて窓際に駆け寄り窓を開け放った。 体を半分乗り出すようにして外を見ると大きなキャリーケースの隣にが立って手を振っている。 「なん、で...」 手の力が抜けて彼の手から携帯が滑り落ちる。 「あ、」と呟いた颯斗はそれを見送っていたが、慌てて地を蹴ったが何とか間に合った。 その様子をどこか遠くの景色のように見ていた颯斗ははっとなり、慌ててマンションを降りた。 「さん!」 「携帯は無事だよ」 そんな言葉を返す恋人をギュッと抱きしめる。 暫く、混乱した自分の思考が落ち着くまでを抱きしめていた颯斗はゆっくりと腕を緩めた。 「どうしてここに?」 「大事な用事があったから」 「僕にお手伝いできますか?」 そういった颯斗には首を横に振る。 辛そうに眉を寄せる颯斗に 「だって、颯斗くんの誕生日のお祝いに来たんだもん」 とが言う。 「へ?」 間抜けな声が漏れた。 「明日、颯斗くんの誕生日でしょう?絶対にお祝いするんだって思ってバイト代も溜めたの」 えへへ、と笑ってが言う。 「僕の、誕生日...」 星月学園に入学してから誰かから誕生日を祝われるようになった。 1年のときは自分の誕生う日を言わなくて怒られ、その翌年から生徒会の仲間や友人が祝ってくれるようになった。 自分すら忘れているその日をお祝いしてくれる誰かがいる。 凄く幸せなことだ。 外で立ち話をするには少し肌寒くなったし、と颯斗がを部屋に招きいれた。 「お邪魔します」 と若干緊張した声音でが呟く。 「紅茶を淹れますね」 「ありがとう。颯斗くんの紅茶、久しぶりだ」 嬉しそうに返すに颯斗はクスリと笑う。 暫くして白い湯気をゆらゆらと浮かんだ紅茶が運ばれてきた。 「どうぞ」との前にティーカップを置く。 「ありがとう」と言っては早速カップに手を伸ばして口をつけた。 「熱っ」と呟いてはカップをテーブルに戻す。 「大丈夫ですか」と颯斗が慌てての傍に腰を下ろす。 彼女のカップを吹いて紅茶を幾分か冷ましてやった。 「ところで、さん。今日は何処に泊まるのですか?」 「お姉ちゃんの知り合いの音楽家さんの家」 何ともざっくりした... 彼女は身に付けていたバッグからメモを取り出した。 「分かりにくいかもしれないから、颯斗くんに連れて行ってもらいなさいって」 と颯斗にメモを渡す。 地図を見て、そして書いてある名前に息を飲む。 「さん、夏凛さんは本当にこの方の家に泊まるように、と仰ったんですか?」 「うん。何?」 どういうネットワークの持ち主だ... 颯斗は内心溜息を吐いた。 「さん、このままこの部屋に泊まることはできませんか?」 願望を口にした。 出来れば少しの時間でもと一緒にいたい。 「んー...お姉ちゃんに聞いてみる」 そう言って携帯を取り出し、ダイヤルした。 |
桜風
13.3.15
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