| パチンと携帯を閉じて夏凛は溜息を吐いた。 「ま、この展開はあるだろうと思ってたけど?」 少し大きめの独り言を口にしてダイヤルする。先日、妹を泊まらせてもらえないかとお願いした相手だ。 《もしもし?》 <久しぶり。この間お願いした、妹の件だけど...> 《私は振られたのねぇ...》 電話の向こうで愉快そうに言われた。 <申し訳ない。本当は、妹に彼氏に連絡してから行くようにって言ったんだけど...> 《あっはっはー。いいじゃない。サプライズ?可愛いわー。けど、困ったわ。たくさんディナーを作ってしまったの。泊まらなくても良いから、彼氏を連れてウチに来るようにいってくれない?勿体無いわ。久しぶりに賑やかにディナーを口にできると思っていたの》 そういわれて夏凛は彼女に謝罪し、をそちらに向かわせる約束をした。 携帯に着信があり、は通話ボタンを押す。 「もしもし」 『宿泊の件は了承してもらえたけど、夕飯を用意してくれてたみたい。たくさん作ったら、颯斗も一緒にあの家に行って。賑やかなディナーを楽しみにしてたみたいだし。それくらい、付き合う義務はあるでしょう、たちは』 少し強い口調で言われた。 「ごめんなさい」 『ま、面目を潰された今回は、1回目だし、目を瞑る。次はないわよ?』 そう言って夏凛が電話を切った。 確かにそうだ。 姉は無理を言って、こちらの知り合いに自分を宿泊させてくれるように頼んだのに、勝手に反故にした。 とても失礼なことをしてしまったのだ。 颯斗に話をすると、彼も確かに仁義に反している行為だと納得し、共に宿泊予定だった音楽家の家に向かうことにした。 姉に持たされたお土産を持って彼女の家に向かう。 地下鉄を乗り換えて、着いたごろには、星が瞬いていた。 「大きな家だねー...」 見上げてが呟く。 「そうですね」と応じる颯斗はその家の大きさにも納得していた。 チャイムを押すと人が出てきた。颯斗に緊張が走る。 <いらっしゃい> <今日は、とても失礼なことをして申し訳ありませんでした。です> たどたどしくが挨拶をする。 <青空颯斗です。本日はお招きに預かり、ありがとうございます> 颯斗が挨拶をすると彼女の表情が少し変わった。 しかし、それは一瞬のことで、<いいわよ。若いうちに素敵な恋をすることは、感性を磨くのに必須よ>と笑ってくれた。 「うわぁ...」 食卓を目にしたは思わず声を漏らす。 <さ、たくさん作ったの。たくさん食べてね> 彼女が言うとは颯斗を見た。 「たくさん食べてください、だそうです」 「颯斗くん、頑張ろう」 は笑った。 少し取り残される形となった家主の彼女は颯斗を見た。 <彼女、どうしたの?> <おそらく、聞き取れなかったんだと思います。挨拶とお礼は、夏凛さんに教わって大丈夫だけど、あとは、聞き取りに自信がない、と先ほど言っていましたから> <ねえ、ゆっくりなら聞き取れるかしら?> 声をかけられては頷いた。それくらいの速さなら、聞き取れる。 <じゃあ、今日はのんびり会話を楽しみましょう> 微笑んでそういわれては嬉しそうに頷いた。 食卓テーブルを囲んで話が弾む。 驚いたことに、この料理すべて、彼女が作ったと言う。 <夏凛が、自分の宝物を預けるって言うから> そう言って笑う。 <重ね重ね、申し訳ありません...> しょんぼりとしてが謝る。 そんなの姿を彼女は声を上げて笑った。 <いいのよ。こうして美味しそうに食べてくれているじゃない> <凄くおいしいです!> 会話の弾む食卓。 やはり苦手だ... 颯斗は2人に気付かれないようにそっと溜息を吐いた。 が少し席を外しているとき、彼女がじっと颯斗を見た。 <『青空』なのね> それが何を指す言葉か、颯斗は気付いて俯く。 <ねえ、何か弾いてみない?> 少し挑発するように彼女が言う。 <いえ。僕の音は、あなたの足元にも及びません。お耳汚しになります> <それを判断するのは私よ> 少し強い口調で言われて颯斗は飲まれる。 が戻ってきた。 何だか空気が重いような気がする。 <ねえ、。あなたの彼氏にピアノを弾いてもらいたいって思っているの> 彼女が言う。 はパッと表情を輝かせた。 「颯斗くん、弾いてくれるの?」 にそういわれて断ることは出来ない。 「わかりました」と頷き、<僕の好きな曲で良いですか?>という。 <いいわよ、勿論。楽譜も大抵のものがあるし、何にするの?> <...ベートーベンのピアノソナタ14番を> <一応、楽譜出すわね> いそいそと彼女がいなくなった。 「何を弾いてくれるの?」 が弾んだ声で問う。 「...月光です」 「えーと、ベートーベン」 「はい」と颯斗が頷くと「楽しみ!」とが笑う。 この笑顔には勝てないな... 颯斗は困ったように笑った。 |
桜風
13.3.15
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