月光 62





 朝、目を覚ますと目の前にの寝顔がある。

何と幸せなことだろう...

ゆっくりとの瞼が上がる。

「おはよう、颯斗くん。...どうしたの?」

少し颯斗の様子が違ってみえては首を傾げた。

「いいえ。おはようございます」

そう言って颯斗はに口付ける。

「おはよう。あと、誕生日おめでとう」

にこりと微笑んだを思わず抱き寄せた。

「え?なに??」

「いいえ、いいえ...」

頭の上から聞こえる颯斗の声が震えているような気がした。

はぎゅっと颯斗を抱きしめる。

暫くそうしていたが、が身じろぎをした。

さん?」

「朝ごはん、作るから離して」

「...朝ごはんは良いので、このままあなたを抱きしめていたいです」

「ダメ。だって、颯斗くん。今日は学校があるでしょう?」

「あなたが家にいるのに空けるなんて出来ません。今日はサボります」

「ダメ。わたしは、颯斗くんの夢を応援しているの。その邪魔になると言うなら、帰ります」

きっぱりそういわれて颯斗は腕を緩めた。

「では、さん。僕のお願いをきいてくださいますか?」

「いいよ。今日は颯斗くんの誕生日だもん。誕生日は我侭を言っていい日なんだよ」

だが、学校には行くようにとそこは譲らないのだろうな、と思い、颯斗は少し可笑しくなった。

「キスしてください」

颯斗の言葉には少し怯んだが、颯斗の唇に自分のそれで触れてすぐに離れる。

颯斗の顔を見れば、凄く幸せそうに微笑んでいた。

「さ、颯斗くんはもうちょっと寝てていいよ。朝ごはんの支度するね」

「僕も起きます」

がベッドから降りて、颯斗もそれに続く。

「あ、そうだ。ベッドに運んでくれてありがとう」

「いいえ、どういたしまして」

にこりと微笑んだ颯斗は腰を屈めてにキスをする。

「...今日はキスしてばっかりだね」

「ええ。今日の僕は我侭を許していただけるそうなので。それに、久しぶりにあなたがこうして手の届くところにいるんです。僕がキスをしないわけがないじゃないですか」

何か、胸を張って言われた...

は苦笑して「なるほど」と良く分からないけど、分かったことにした。


2人で朝食を摂り、颯斗は学校に向かう。

当然、いってらっしゃいのキスをせがまれ、はそれに応じた。

掃除でもするかな、と思ったが家の中は掃除が行き届いており、さすが颯斗と言ったところだ。

今晩は、颯斗のためにご馳走を作る予定で、ケーキも手作りを考えている。

颯斗に教えてもらったマーケットで色々買い揃える予定だ。

颯斗は心配して自分が一緒に行く、若しくは帰りに買って帰ると主張したが、そうなるとケーキを焼くことが出来てもデコレーションが間に合わない。

何とか颯斗を説得してはマーケットに向かった。

一応、日本人観光客も足を運ぶマーケットらしく、日本語を話せる店員もいて、は助かった。

買い物途中、見たことのある人を見つけた。

挨拶をするべきだろうと思っていたら、向こうがに声をかけてきた。

夏凛の妹じゃない。何、まだ颯斗に付きまとってるの?」

敵意しか感じられない声音に少し怯む。

少しだけ、自分の従姉に似ていると思ってしまった。

「今、颯斗は凄く大事な時期なの。それを態々日本からやってきて邪魔をしに来たの?何を考えているのか...」

『邪魔』という単語に息を飲む。

昨日の颯斗の様子を思い出した。

「なに、それ。そんなに買い込んで何するのよ」

「今日は、颯斗くんの誕生日だから」

「誕生日?ああ、そうだったかしら。けど、だからなんだって言うの?誕生日だったらあの子の邪魔をして良いって言うの?」

その後の言葉は覚えていない。

颯斗のマンションに戻り、少しの間ぼうっとしていた。

買い物を済ませた後に会ってよかった、と思ったのは食材を袋から取り出し終わってからだ。

「颯斗くんの、『邪魔』か...」

せめて、少しでも芸術的才能があれば助けることが出来ただろうか...

せめて、邪魔にならない存在であることが出来ただろうか...

「ダメ!」

そう言っては両手で自分の両頬をパンと叩いた。









桜風
13.3.22


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