| の大学の後期が始まった。 後期に取る授業を決めて届出をし、食堂に向かう。 「ちゃん!」 混んでいる食堂の中で、どこに座ろうかとキョロキョロしていると声をかけられた。 振り返ると手を振っている子、月子が目に入る。 「つっこちゃん」 トレイを持ってそちらに向かうと懐かしい面々の姿がある。 「わ、久しぶり」 思わず弾んだ声を出すに彼らは口々に同じ言葉を返した。 「一緒に食べようよ」と月子に言われて空いている席に腰を下ろす。 「せっかく後期が始まったのに明後日からまた連休だね。文化祭、行かない?」 月子に言われた。 10月の連休中に星月学園では文化祭がある。 「いいねー。予定無いし」 がそう応えると携帯が着信を告げる。 ディスプレイに表示されている文字を見て珍しいなと思った。 彼は、の就学時間中に電話をしてくることがない。どうしてもの用事があればメールをまずしてくるのだ。 とはいえ、電話が嬉しくないなどということはなく、周囲の友人達に断っては通話ボタンを押した。 彼女表情で誰から掛かってきたものかがわかり、周囲の友人達は笑顔でこっそり顔を見合わせた。 「え、ちょっと、待って?どうしたの...?」 しかし、電話をしているは困惑している。 追いすがるように声をかけるが、どうやら向こうは電話を切ったらしい。 「..ちゃん?」 月子が覗うように名を呼ぶ。 は俯いて震えている。 どうしたのだろうか。泣いているのだろうか... 「...あったまきた!」 突然が声を上げる。泣いているわけではなく、怒りで震えていたらしい。 ビクリと皆が固まった。 元々はそんなに感情を露にしない。 だから、こういう彼女の雰囲気に周囲は慣れていないのだ。 はそのまま携帯を操作してどこかに電話をし始めた。 「お姉ちゃん?今大丈夫?」 『ああ、。うん、今オフよ。どうしたの?』 「お金貸して」 『...何に使うものでいつ使うの?』 「颯斗くんと喧嘩をするためにウィーンに行きたいの。出来れば明日、夕方以降の飛行機の便を押さえて飛び乗りたい」 電話の向こうの夏凛は大爆笑した。 『今日中に振り込んでおく。詳しい話は、帰ってからの武勇伝で聞かせてね』 「ありがとう」 の様子に友人達は戦々恐々だ。 しかし、ふと月子は思い出した。 このの勢いは本当に怒っているときのものだ、と。 昨年、後輩の恋心をバカにされて彼女は自分より体の大きい男子に喧嘩を売った。 そのときに雰囲気が非常に良く似ている。 「あの、..ちゃん?」 通話が終わったらしく、携帯をパチンと閉じたに月子が声をかける。 「ごめん、つっこちゃん。文化祭行けなくなっちゃった」 目が怒ったままだ。 「う、うん。いいよ。翼君たちには私から言っておくし。えっと、何があったか聞いてもいい?」 「帰ってきてからで良いかな?今は凄く感情的になってて冷静に話が出来そうにないから」 それはそれで冷静な判断だと思う。 「ああ、大丈夫。喧嘩って言っても、手を出さないから」 笑顔で返したの目は全く笑っていない。 「う、うん。ちゃん強いからそれが良いかも...」 月子はそういい、「ありがとう」とは笑った。 翌日、授業が終わってすぐには空港に向かった。 その日の授業は本来は午後もあるのだが、休講になっているのだ。後期が始まって早々にそれはどうだろうと、休講のお知らせを見たときには思ったが、今思えば非常に助かった。 飛行機も話によると最後の席だったらしく、本当に幸運だった。 「泣かないで」 はポツリと呟いた。 きっと電話を切った後、彼は涙を流した。 彼は意外と不器用だから。それは、自分も同じで。 だから、何となく想像できた。何が辛くて、彼がそんな結論に至ったのか。 顔を合わせて、話をして結論が変わらなかったら、そこは、諦めざるを得ないのかもしれない。 だが、今はまだ諦めるべきときじゃない。 組んだ手に力が入る。 「颯斗くん...」 |
桜風
13.4.5
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