| 泊まるところの約束がないのなら、と颯斗はこの部屋に泊まることを勧めた。 はその言葉に甘えることになる。 颯斗に促されて先に風呂に入ったが出てみると、軽い食事が用意されていた。 「颯斗くん、お料理もできるんだよね」 「一応、ひとり暮らしです」 言われてみればそうだ。 「さあ、どうぞ。と、言いたいところですが...」 そう言って颯斗はの傍に立つ。 が不思議そうに首を傾げて見上げると「そこに座ってください」とリビングのソファを指差された。 「なに?」 「髪がまだ濡れていますよ。このままだと風邪を引いてしまいます」 は促されたとおりソファに座り、颯斗はその後ろからドライヤーを当てる。 優しく髪をすく颯斗の手が少しくすぐったい。 ふふふ、と思わず笑みが零れる。 「さん?」 「ねえ、颯斗くん。凄いね」 「何がですか?」 「わたし、颯斗くんと喧嘩しにここまで来ちゃった」 確かに、凄いことだ。 「颯斗くんと喧嘩をしたいって思ったんだよ」 の言いたいことが分からない。 颯斗はその言葉の続きを待ってみた。 「颯斗くんの話を聞きたいって。ちゃんと、手を伸ばすことができたよ。あのね、喧嘩って相手に自分のことが分かってもらいたいからするんじゃないかな?どうでもいい人には適当に合わせておけば良いもの。喧嘩ってエネルギーの要ることだから、理解して欲しい、理解したい人としかしないんじゃないかな?」 そうかもしれない、と颯斗は思った。 期待をするから喧嘩をする。 どちらかが向き合うことを諦めたら喧嘩は成立しない。 「さん」 「なあに?」 颯斗に背を向けたままが返事をする。 「これからも、喧嘩をしましょうね」 「出来れば避けたいけど。ちゃんと、たくさん話をしようね。答え合わせしようね」 が言う。 ふと、髪を梳く颯斗の手が止まった。 「颯斗くん?」 不思議に思って振り返る。 「答え合わせ、ですか」 「うん」 変なこと言ったかな、と思いながら躊躇いがちに頷いた。 「...僕は、ちゃんとあなたを愛せていますか?」 震える声で言われた。颯斗は俯いている。 は驚き、言葉を失う。 「僕は、家族に愛された記憶がありません。だから、愛すると言うことがどういうことなのか、わからないんです。ちゃんと、返せていますか?あなたを愛せていますか??」 「颯斗くん」 優しい声音に誘われて顔を上げた。 颯斗の瞳が捉えたのは、愛しいと思う人の満面の笑顔。 「今のわたし、悲しそう?」 「いいえ」 「今のわたし、辛そう??」 「いいえ」 「それが答えだよ。わたしは颯斗くんが好き。凄く好き。大好き。凄くしっかりしていると思ったら、意外と脆かったり。優しいのに、時々意地悪だったり。かっこいいのに、泣き虫だったり。ただ、時々思い込みが激しくて、しかもマイナス思考なのは困ったところだな。けど、それも好き。颯斗くんといたら、凄く優しい気持ちになれるの」 颯斗は腕を伸ばして目の前の愛しい人を力いっぱい抱きしめた。 「僕は、ずっと怖かった。間違っていないか。間違っていたら、正解が分からない僕はもう..何も出来ない」 「不安だったら、答え合わせしよう。間違いだったら、一緒に考えよう。一緒に答えを出そう」 の言葉に颯斗はコクリと頷く。 暫くを抱きしめていた颯斗は、少し腕の力を緩めてに口付ける。 それはすぐに甘く深いものへと変わり、もそれに応えた。 「さん」 「ちょ、待って...!」 彼女に体重をかけると停められた。 恨めしそうにを見る颯斗に彼女は困ったように笑う。 「ここは何処?」 「僕の部屋です」 「ではなく」 そういったが「ベッドで」と言う。 言われてみれば... 「畏まりました、わが姫」 芝居かかって颯斗が言う。 そうして軽々とを、言葉の通りお姫様抱っこで持ち上げた。 ふふふ、とが笑う。 「何ですか?」 「やっぱり、颯斗くんも男の子だなって」 『男の子』という表現に少し引っかかったが、「どういうことですか?」と問いを重ねる。 「わたし、軽くないはずなのに、ひょいって」 「愛しい人を運ぶのに、よたつくことなんて出来ませんよ。かっこ悪いじゃないですか」 そう言って微笑んだ颯斗の表情は柔らかいだけではなく、力強さも感じられる。 初めて見る表情かもしれない。 見惚れていたに颯斗は苦笑して口づけを落とし、ベッドルームへと向かった。 |
桜風
13.4.13
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