月光 69





 窓の外から差し込む光は淡く、優しい。

颯斗は自分の隣で眠っているの月の光に淡く輝く肌に指を滑らせた。

「月の光ですね」

太陽の沈んだ暗い世界。自分はそこに居た。

しかし、その暗い世界を優しく照らして道を示してくれる。

の手を取り、指先に口付ける。

もう日付が変わった。

彼女は今日の飛行機で帰ると言っていた。

あと数時間しかない。

トクントクンと自分の心臓の鼓動を感じた。静寂の中にあると、意外と大きく感じる。

そして、ふと彼女の言葉を思い出した。

もぞりと動いて颯斗はの胸に耳を当てる。

「なに?」

そう言ってが颯斗の頭を抱えた。起こしてしまったらしい。

「あ、いえ」と慌てて離れようとしたが、はそのまま颯斗の頭を優しく撫でる。

その心地よさに颯斗は動けなくなった。

さんの、心臓の鼓動がききたくなったんです」

「そう?」

応える彼女の声は何処までも優しくて、颯斗は泣きそうになる。

「心臓の音って安心するよね」

「そうですね。僕、初めて知りました」

「でも、あんまり聴かれると恥ずかしい」

颯斗の頭を撫でながらが言う。

「恥ずかしいですか?」

「緊張しているのバレちゃう」

「緊張ですか?」

顔を上げようとして、は颯斗の頭を抱きしめて阻んだ。

「あ、本当ですね」

「うーん...」

の心臓の鼓動が早くなった。顔を隠すために颯斗を抱きしめたから、恥ずかしくなったのかもしれない。

それを誤魔化せなかったことには唸った。

颯斗は嬉しくて笑う。

「あ、勿体ない」

が呟く。

「何がですか?」

「絶対、今の颯斗くん凄くいい笑顔だった。見たかったな...」

颯斗はもぞりと動いて心地よいの手から離れ、彼女の顔を覗きこむ。

「これで良いですか?」

は少し身じろいだ。

さん?」

「意地悪モードの颯斗くんだ」

が言うと颯斗は笑う。

「そこも好きなんでしょう?」

イタズラっぽく言うと

「そうよ」

ツンと澄ましてが返す。

その言葉がくすぐったくて颯斗は目を細めた。

「ねえ、颯斗くん」

「はい」

「お願いがあるの」

「何ですか?」

「ぎゅってして」

「はい」

頷いて颯斗はを抱きしめる。

「凄く、安心する」

そう呟いたは規則正しい寝息を立て始める。

颯斗は苦笑し、の額に口付けを落とした。


翌朝、太陽が随分と高いところまで昇った頃に2人はベッドを後にした。

が朝食を作り、2人で食卓についた。

「寂しいな」

がポツリと呟く。

颯斗は驚いて彼女を見た。

颯斗の視線に気付いては恥ずかしそうに笑う。

「僕もです」

颯斗が応じる。

「次はいつ会えるかな」

「クリスマス休暇には、必ず日本に帰ろうと思っています」

「じゃあ、あと2ヶ月ちょっとか。だったらすぐだね」

そう言って笑ったに颯斗は困ったように笑った。

食事を済ませ、片づけを颯斗が請け負った。

はその間に姉と月子にメールをする。2人とも心配しているはずだ。

日本は夜中だから、電話をするとさすがに迷惑だと思ってのメール。帰って改めて報告とお礼を言おう。

「飛行機の時間まで、少し時間がありますね。ちょっとだけでも観光しますか?」

颯斗に言われては頷く。

「颯斗くんの生活を見たい」

そういわれて颯斗は微笑み「畏まりました」と応えた。









桜風
13.4.19


ブラウザバックでお戻りください