月光 71





 「よう

結局、午前の授業には間に合うことが出来なかった。

空港からそのまま学校に行くと丁度昼時間で食堂に向かったは、途中犬飼と会った。

「あ、犬飼くん」

「喧嘩は上手く行ったかー」

からかい口調でそういわれては肩を竦める。

「初めてなので、何分...」

「態々ウィーンに行ってすることかって思うけどなー」

「喧嘩の相手がウィーンにいるんだから仕方ないじゃない」

の言葉に「まあ、そうなるか」と犬飼が呟く。

2人は揃って定食を注文し、席を探した。

適当に空いている所を見つけて腰を下ろす。

「んで、青空は元気だったか?」

「うん、元気だった」

「仲直りはしたんだろう?」

「お陰さまで」

「そりゃ、良かったなー」

ちゃん!」

昼時間には学校につくと思うから食堂で会わないかと先ほど月子にメールをしておいた。

そのため、月子は、がウィーンまで喧嘩をしに行ったことを知っていた友人達に声をかけて食堂にやってきたのだ。

「俺はお弁当。月子は?」

「買ってくる」

「む、俺も行く」

東月が腰を下ろして月子と宮地が食券を買いに行った。

「青空君は元気だった?」

「うん、元気だったよ」

「それは良かった」


月子と宮地が戻ってきて2人も颯斗が元気だったかと聞く。

は可笑しくなったが、それと同時に颯斗が彼らに愛されている証拠だと思うと嬉しくなった。

「それで、ことの経緯って言うのかな?教えてくれる??」

目の前で激怒されただけで全く状況が分からなかった。

事後報告となるがは彼女たちに話をした。

「そりゃ、あったまくるなー」

一足早く食べ終わった犬飼が呟いた。

「でしょ?!」

「けど、それだけでウィーンに行こうと思うお前もすげーよ」

と言われての勢いは萎えた。

「これ、お土産。颯斗くんの家の近くのカフェで買ったの。颯斗くんも時々買ってるんだって」

そう言ってそれぞれにみやげ物を渡す。

「美味しそう!」

月子が声を上げた。

皆に改めて礼を言うと丁度昼休憩が終わる時刻になった。

「じゃあ、またね」

そう言っては昼からの授業のある教室へと向かっていった。


家に帰ると疲れが今更ながらにどっと出てきた。

色々適当で良いや、と思っていると颯斗から電話がある。

「もしもし」と弾んだ声で応じると『今大丈夫ですか?』と控えめな声で言われた。

「うん、大丈夫。電話ありがとう」

が言うと

『僕がさんの声を聴きたいと思って電話をしているんですよ』

と返された。

『学校には、間に合いましたか?』

「午前の授業にはギリギリ間に合わなかったよ」

苦笑して返すに『すみません』と颯斗が謝る。

「いいよ。わたしが選んだこと。颯斗くんに会いに行ってよかったもん」

の言葉に颯斗はまた彼女が恋しくなる。

それを振り払うように『そういえば』と話題を変えた。

彼の話には大いに驚いた。

「ねえ、颯斗くん。凄く基本的なことなんだけど...」

『はい、何ですか?』

「あの人、そんなに凄い人だったの?大きな家に住んでたから凄いんだろうなーって思ってたけど」

の言葉に颯斗は苦笑した。

彼女にとってはあの人はその程度の人物だった。が、音楽に詳しくない人で良かった。

彼女まで詳しかったらあの人に会ったときにガチガチになっていたかもしれないのだ。

それを考えると、凄く助けになっている。

『有名人です。だから、僕は夏凛さんの人脈に驚いています』

「そっかー、お姉ちゃんは自分で言ってたもんな。人脈の広さ、凄いんだからって」

『それで、さっきの話に戻るのですが。学校の長期休暇も殆どそちらに戻れそうにないんです』

沈んだ声で颯斗が言う。

もそれは大変残念だと思った。

だが、

「それは、颯斗くんにとってプラスだよね」

と言う。

『ええ。それは否定できません』

「じゃあ、それは逃しちゃダメなチャンスだよ」

に言われてホッとした。いや、これで全力でホッとしては彼女に甘えるだけだ。

そう思って意識を切り替えて

『ですが、クリスマス休暇と、さんと僕の誕生日の前後数日は必ず休みをくださるそうです』

と、あの人に許してもらえた休暇を口にする。

「ホント?!」

思ったとおりの声が弾んだ。

『ええ。あと、日本のツアーには原則連れて行ってくださるそうです。学校がないときは、と限定されますが』

「会えると良いね」

『はい』


暫く話をしているとの声が小さくなっていく。

さん、眠いのですか?』

「うん、ちょっと...」

『では、名残惜しいですが今日はこれで電話を切りましょうね』

「うん、ごめん」

『いいえ。さんは帰国したばかりですから。僕のほうこそ配慮に欠けていました。ごめんなさい』

「ううん、嬉しかったよ。また、ね」

『はい、おやすみなさい』

通話を切ってはそのままベッドに潜り込んで数秒のうちに眠りの淵へと落ちていった。









桜風
13.4.26


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