月光 76





 「荷物持って先に入ってろ。車入れてくる」

そういわれて颯斗は自分の持ってきた荷物と、先ほどスーパーで購入した食材を持って玄関のドアを開けた。

「ごめんください」

そう声をかけると「はーい」と返事があり、パタパタと玄関にやってきた


「こんにちは」

「いらっしゃい、颯斗くん。あれ、お兄ちゃんは?」

「車を入れてくると仰っていました」

「そっか。上がって」

エプロン姿のが玄関で出迎えてくれる。

何だか胸が熱くなった。本当の『家族』みたいな錯覚に陥る。

「あたしもいるけどー?」

颯斗の思ったことが分かったようになぜか包丁を持ったままの夏凛が出てきて言う。


「お久しぶりです、夏凛さん。師匠がよろしくとのことでした」

それを聞いた夏凛は苦い顔をした。

「わかった」と言い、「さ、とっとと働いて」と颯斗に言い放って戻っていく。

「少し休憩してね」

そういいながらは颯斗が持っていた食材の入った袋に手を伸ばす。

さん」

「ん?」

顔を上げたにキスをした。

「お久しぶりですね」

「1週間も経ってないよ」

困ったように笑うは少し赤くなっていた。

ー」

「はーい!」

「ゆっくりしてね、って言いたいんだけど。たぶん、ごめん。ちょっと無理かも」

苦笑してはそういい、今度こそ食材を持って台所に向かった。


颯斗はとりあえず居間に向かった。

居間には知らない人がいたが、このメンツなら、きっとこの人が以前晴秋が言っていた勇者なのだろうと思った。

「初めまして、こんにちは」と颯斗が声をかけると彼は興味津々に颯斗を見る。

「あの...」

不躾とも言えるその視線に困惑しながら颯斗が身じろぐと

「ああ、ごめん。勇者です」

と自己紹介されて笑った。

「小鳥遊!」

夏凛が窘めるように彼の名を呼ぶ。

「小鳥遊亮です。そして、勇者です」

笑って彼は自己紹介をし、颯斗に右手を差し出した。

「初めまして、青空颯斗です」

と颯斗もその手を取る。

「うんうん。君があの夏凛ちゃんからちゃんを掻っ攫った別の意味での勇者だね」

「小鳥遊!」とまた鋭い声が届き、彼は肩を竦めた。

「はい、颯斗くん。お茶。小鳥遊さんもどうぞ」

が台所で淹れてきた茶を出してくる。

「いただきます」とそれを手に取り、颯斗は一口飲む前に卓袱台に置いた。

「あ、熱かった?吹いて冷まそうか?」とが覗うように言うが「いいえ」と颯斗は首を横に振る。

ちなみに『吹いて冷まそうか?』で小鳥遊は盛大に咽た。

何だ、この天然っぽい遣り取りは...

「やりきれんだろう」

苦笑しながら晴秋が戻ってきた。

「あ、お兄ちゃんもちょっと待ってね」

そう言ってがまた台所に去って行く。

「いやぁ、アレって天然?それとも見せ付けてくれてるの?」

「天然だなぁ...」

小鳥遊と晴秋が言葉を交わす。

「あの、晴秋さん」

颯斗が自分の持ってきたバッグから箱を取り出した。

「ん?」

「お土産です」

そう言って渡したものは、彼らの大好物だ。

「姉ちゃん、颯斗がワインくれた。土産だって」

「ホント?!」と弾んだ声で夏凛がやってくる。

「うわお。これ、結構したでしょ?」

銘柄を見てすぐに分かるんだ...

颯斗は感心したが「それは、師匠からです」という。夏凛はまた苦い顔をした。

「ちょっと外す」

そう言ってその場を去っていった。さっさと礼を言おうと思ったのかもしれない。

「んで、こっちが颯斗が選んでみたやつか」

「一応、調べてみたんですけど。師匠のが赤だったので、僕は白かな、と」

「青空君は、まだ二十歳超えてないよね?」

「ええ、残念ながら」

「じゃあ、酒盛りは来年かー...」

「初心者が亮に付き合ったら倒れるからダメだ」

「晴秋だって変わんないでしょ」

2人は気の置けない間柄のようで会話のテンポが良い。

「お2人はどういう...」

颯斗が問うと

「同期。けど、亮んが年上」

と晴秋が言う。

「お兄ちゃん、どうぞ」とがお茶を持ってきた。

「あれ、お姉ちゃんは?」

きょろきょろと周囲を見渡す。

「電話」と晴秋が返した。

「そか」と頷いて台所に戻っていった。

「んじゃ、コレを飲んだら大掃除な。それくらいの覚悟はしてたよな?」

颯斗に向かって晴秋が言うと彼は苦笑して頷く。

ひとまずお茶を飲んでホッとすることにした。









桜風
13.5.10


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