| 「僕、餅つきなんて初めて見ました」 「本当は大晦日にはしちゃいけないんだって。けど、今日は、ほら。お兄ちゃんと小鳥遊さんとお姉ちゃんがいるからつかない理由がないって言って」 苦笑してが言う。 と颯斗の目の前には片栗粉が敷かれた板が、準備されていた。 目の前では、半裸の晴秋が杵を持ち、夏凛が膝を突いてもち米を返している。 「凄い迫力ですね」 「そうだねー」 ニコニコとはその光景を見ていた。 「颯斗もするか?」 「え?!」 晴秋が言う。 「やってみたら?何事も経験」 「で、では...」 に促されて颯斗はチャレンジしてみることにした。 しかし、すぐにそれは終わる。 「何、そのリズム!ダメ!!」 夏凛の一言で強制修了となった。 「お役に立てなくて...」 しょんぼりして戻ってきた颯斗に「見て見て」とが携帯を見せる。 颯斗の勇姿を写真に撮っていたのだ。 「消してください」 「やだ」と言って携帯をポケットに仕舞う。 「もう。恥ずかしいじゃないですか」 「かっこよかったんだから」 満面の笑みでそんなことを言われて颯斗も満更ではない。 「ねえ、何あれ」 低い声で夏凛が呟く。 「見てみぬ振りが大人の基本でしょう」 杵の役は小鳥遊に変わっていた。 湯気の立っている搗き立ての餅を食べやすいサイズに分けて片栗粉をまぶす。 「颯斗くん、熱いから良いよ」 手伝いを申し出たが、そう言ってがてきぱきと餅を形にし、夏凛も同じように作業をする。 「おーい、んじゃこっち手伝え」 そう晴秋に声をかけられて颯斗はそちらに向かった。杵と臼の片づけを手伝う。洗うのに結構重労働だった。 おやつにつきたての餅を焼いて食べた。 「美味しいです...!」 目を丸くして颯斗が言う。 「僕、こういう日本の伝統文化にあまり触れたことがないから」 「うわ、それ恥ずかしいよー。海外で活躍するならちゃんと自国の文化知らなきゃ。意外と外ってそういうの厳しく見てるんじゃない?」 小鳥遊が言うと「かもね」と夏凛が頷く。 「恥ずかしい」と指摘されて颯斗は凄く恥ずかしくなった。 「外国人のほうが源氏物語に詳しいとかザラらしいし。逆になんで自国の文化なのに知らないんですかーって聞かれるみたいだよ」 「ま、文化に触れる触れないは育ってきた環境もあるからね。大体に、洋楽の音楽家は西洋かぶれで『わたくしたち、上流階級ザマス』って思ってる節があるのがムカつく」 憎々しげに夏凛が言う。 昔何か嫌な思いでもしたのだろうか... 颯斗は首を傾げた。 休憩が終わって、掃除とお節作りを再開して遅い時間までそれぞれの作業は続いた。 そういえば、こんな本格的な大掃除もしたことがない。学校行事で大掃除はあったが、星月学園在学中は主催側だったので、掃除をせずに見回りだった。 食事を済ませて、順番に風呂に入る。 「颯斗最初行け」 晴秋に言われて遠慮したがまずはお客さんといわれ、それなら小鳥遊が、と言うと「僕は夏凛ちゃんと入るから」と真顔で言われて絶句した。 勿論、その後夏凛のゲンコツが彼の脳天に落とされたのでアレは冗談だったということは分かったが... いいなぁと思った。自分もと、と口に出さなくてよかったと心から思った。 一番風呂を貰って次に小鳥遊に声をかける。 縁側に座って空を見上げながら杯を傾けている晴秋の隣に腰を下ろした。 「飲むか?」 「未成年です」 「だよなー...」 と夏凛はまだ料理をしている。 「お手伝いしなくて良いのでしょうか」 「お前、お節作れるの?」 「いいえ」 「んじゃ、邪魔だって追い出される。オレは体がでかいから追い出された」 笑って晴秋が言う。 「にな」 「はい?」 「お前と喧嘩をするために姉ちゃんに金を借りてまでウィーンに行ったって話を聞いたから、に言ったんだよ。そんな跳ねっ返り、嫁に貰ってくれるのいないぞーって」 「はあ...」 颯斗は曖昧に頷く。 「そしたら、は何て言ったと思う?」 「さあ。さんはなんと仰ったんですか?」 「『颯斗くんにもらってもらうからいいもーん』って。オレ、初めての電話を切りそうになったぞ。兄貴としては全く面白くないぞー。腹が立ったから琥太にこの腹立たしさを分けてやったけどな」 とんだとばっちりが彼に行ったようだ。 しかし、颯斗の胸がじわりと温かくなる。 「お前さ、家族とあんまし上手く行ってないんだって?これは、姉ちゃん情報な」 「そうですね。正直、さんが羨ましいと思ってしまいます。こんな、凄く温かい家族に囲まれて...」 「血が繋がってるから家族ってのはちょっと短絡的だと思うんだよな、オレは」 「どういうことですか?」 「家族の最初は、たぶん夫婦だろう?まず、そこは血が繋がっていない。なのに、『家族』だ。戦国時代は、兄弟での殺し合いが当たり前だった。兄弟は他人の始まり。家族ってのは最も親密なコミュニティを指すんだろうな。一般的に称される『家族』ってカテゴリーにしがみつく必要はないと思うって話」 颯斗が俯いた。 「ま、お前の場合は、実家が音楽一家で、必要以上にその柵があるから余計に難しいんだろうけどな。ただな、ひとつ良いことを教えてやる」 「良いことですか?」 颯斗が首を傾げる。 晴秋は手を伸ばして颯斗の頭をガシガシと乱暴に撫でた。 「がお前の味方である限り、オレと姉ちゃんもお前の味方だ。亮も結局それを選ぶだろう。星月の家も。覚えておけ。あんま役に立たない味方かもしれないけど、いないよりマシだろう?...『青空』が嫌になったら『』も悪くないぞ。って、それは姉ちゃんを倒せたらの話になるだろうけどな」 そう言って晴秋が杯を煽る。 「出たよー」と風呂から出た亮が声を掛けてきた。 「んー。んじゃ、オレ次..って!颯斗?!」 晴秋が慌てる。 「どうしたの?」とがやってきた。 「颯斗くん?!」 颯斗がポタポタと涙を零している。 「お兄ちゃん!」 が責めるように声を上げる。 「オレ?え、颯斗。どうした??」 「颯斗くんに意地悪したの?!」 に責められ「姉ちゃんじゃないし」と返すと脳天に物凄い衝撃がある。 「何だって?」と夏凛が晴秋の顔を覗きこむ。 「姉ちゃん、オレ馬鹿になるからいい加減ゲンコはやめて...」 頭を抑えながら晴秋が言う。 ふふふと颯斗が微かに笑う。 「おま、笑うなよ!」 「すみません。ちょっと...」 涙をそっと拭いて颯斗が笑う。 「大丈夫?お腹が痛いとかじゃない??」 心配そうにが顔を覗きこむと「ええ、大丈夫です。晴秋さんも、すみません」と見事にとばっちりを受けた彼に謝る。 「ただ、凄く嬉しかったので」 颯斗の言葉に晴秋を除く全員が首を傾げた。 「そういうことは、先に言え。んじゃ、風呂入ってくる」 ガシガシと乱暴に頭を撫でて晴秋は風呂に向かった。 「嬉しかったの?」 「はい、とても」 「良かった」と微笑んだに思わずキスをして、その後、夏凛のかなり手加減されたゲンコツを食らった颯斗は先ほどとは別の涙を目に浮かべた。 |
桜風
13.5.17
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