| 年が明ける間近になり、皆で年越しそばを食べた。 蕎麦は昨日この家にやってきた夏凛と小鳥遊で打ったと聞いたときには物凄く驚いた。 「得意得意、こういう力仕事」 なぜか夏凛は左手で自身の右手で作った拳を受け止めながらにやりと笑って言う。 背後に「あんまイチャつくな」みたいな文字が見えなくもない。 そばつゆはが作ったと言っていた。 「美味しいです」 「ふふん」と得意になった夏凛だ。 「まあ、力仕事は僕が殆どだけどね」 肩を竦めてそう言う小鳥遊に「言うな!」と夏凛が言う。 「そういや、颯斗はいつ向こうに帰るの?」 夏凛が問う。 「5日の飛行機です」 「んじゃ、4日には実家だよね。なら星月は3日に行く?颯斗も来るんでしょう?」 「僕が行っても良いんですか?」 「不義理をしたかったら、良いけど?」と返されて「ご一緒させてください」と頭を下げた。 「じゃあ、琥太にメールしとくわ」と言って晴秋は自分が食べ終えたどんぶりを台所に持って行くついでに携帯を取り出した。 「琥太にぃ、星月に帰ってるの?」 「さあ?けど、どの道琥太に連絡したら琥雪さんに連絡行くでしょう?」 ただの使いのようになっている琥太郎に対して、は心の中で合掌した。 年が明けて揃って新年の挨拶を交わす。 くいくいと颯斗は袖を引かれた。 「なんですか?」 「初詣行かない?」 「今からですか?」 颯斗が問う。 は嬉しそうにコクリと頷いた。 「僕は構いませんが...」 「決まり!お姉ちゃん、颯斗くんと初詣行ってくる。良いでしょ?」 の言葉に少し難色を示した夏凛だったが、「気をつけて行きなよ」と了解してくれた。 「はーい」と返事をしてはコートを取りに自室に戻った。 「暗いから気をつけて行きなよ」 身支度をしている颯斗に夏凛が声をかけてくる。 がいるのかな、とキョロキョロしたら「あんたに言ってんのよ」と苦々しく言われた。 「あ、はい」 驚いて頷く颯斗の頭を軽くはたいて「あたしは寝る」と言って自室へと帰っていった。 「颯斗くん」 「あ、では。行きましょうか」 コートを着込んできたが声をかけてきて颯斗は我に返る。 晴秋が言ってくれた言葉は、あながち間違いではないようだ。 手を繋いでてくてく歩く。 外灯はそんなに多くないが、今日は晴れていて、しかも月が昇っている。 「どちらに行くんですか?」 「夏祭りに行った神社覚えてる?」 に言われて頷いた。 神社の方か、と納得する。 「さん」 名前を呼べば「なに?」と返事がある距離。 凄く大切な時間だ。 自分を見上げたにキスを落とした。 「こら!」と怒られたが颯斗はクスリと笑う。 「誰も見ていませんよ」 そう言うとが空を指差した。 「月が見てる」 見上げた仄明るい月。 「月は、あなたです」 「はい?」 は首を傾げた。 「月が出ていると、暗い夜も明るいですね」 「そうだね。でも、やっぱり十五夜のお月様が一番明るいよね」 「そうですね」と颯斗が同意した。 「ねえ、颯斗くん」 「何ですか?」 が少し強く手を握った。どうしたのかな、と颯斗は彼女の顔を覗きこむ。 「さっき、ね。嬉しくて泣いてたって、どうして?」 泣いてしまった事実が少し恥ずかしい。 「晴秋さんが、教えてくれたんです。僕は独りじゃないって」 首を傾げるに再びキスをした。 もう怒るのも諦めたのか、は何も言わない。 「さんが僕の味方で居てくださる限り、夏凛さんと晴秋さん。小鳥遊さんや星月先生のお宅の皆さんも僕の味方でいてくださるらしいんです」 は、「そうなんだ」と嬉しそうに相槌を打つ。 「あ、でも。颯斗くんそれだけじゃないじゃない。一樹会長とつっこちゃんと翼くん。融くんに譲くんもそうだろうし、犬飼くんと宮地くん。東月くん。他にもたくさん颯斗くんの味方だよ?」 に指摘されてまたじんわりと胸が温かくなる。 「...僕は、幸せですね」 「そうだね。わたしも幸せだよ」 が笑った。 「さんも、ですか?」 「うん。颯斗くんが隣にいるから」 そんなことを言われて颯斗は泣きそうに笑った。 「以前、師匠に言われたんです。絶対にさんを手放してはいけないって」 「ん?」 「あなたは...僕にとって...幸運の...女神...なんです...」 啄ばむようにキスをしながらそんなことを言う。 「恥ずかしいよ」 「本当のことですよ」 にこりと微笑む颯斗が月の光に照らされて、あまりに綺麗では俯く。 「行こ」 数歩が歩みを進め、颯斗は「はい」と頷いて彼女の隣を歩き始めた。 |
桜風
13.5.17
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