| 神社でのお参りも終わり、またゆっくり歩いて帰る。 「そういえば、さん」 「なに?」 「3月の中旬に何かご予定はありますか?」 そう聞かれて頭の中にあるスケジュールを検索する。 「たぶん、ないけど。何?」 「ウィーンに来ることはできませんか?」 「ウィーン?何かあるの?」 お祭かな、と思いながら聞き返すと 「コンクールに出場する予定なんです」 と颯斗が言う。 「ホント?!」 の声が弾んだ。 「ええ、本当です。ですから、さんに来ていただけたらと思ったのですが...」 「行きたい!行くよ!!いつ?」 「詳しい日時はまた向こうに戻ってから連絡させてください」 颯斗が言うと「うん!」と元気良く返事された。 「バイトのシフトとかあるからなるべく早めに連絡もらえたら助かるんだけど...」 申し訳なさそうに言われて「大丈夫です。すぐに連絡します」と颯斗は頷いた。 「凄い、颯斗くんの演奏をホールで聞けるんだね」 「はい」 「何を弾くの?まだ決まってない??」 「何曲か候補は挙げていますけど。月光は弾こうかな、と思っています」 は首を傾げる。 「月光...ごめん、どんな曲だっけ?」 颯斗が主旋律を口ずさむ。 「あ!初めて颯斗くんの今のお師匠さんの家に行ったときに弾いた曲だ」 とが気付いた。 「はい」 「そっかー、あの曲かー」 「楽しみだなー」と呟きながらは上機嫌のようだ。その証拠に、繋いでいる颯斗の手をぶんぶんと子供のように振っている。 颯斗もこんなに喜んでもらえるとは思っていなかったので、凄く嬉しかった。 正月はやることがないと散々文句を言う夏凛を宥めて3が日最終日。 車二台で星月の家に向かった。 マンションのインターホンを押すと顔を出したのは、郁だった。 「郁ちゃん?!」 「やあ、」 「あ!あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」 こういう義理堅さはある。 郁もの言葉に応じて新年の挨拶を返した。 「へー...こちらの方が」 全員家の中に入り、落ち着いたところで一応紹介するね、と夏凛が紹介した小鳥遊に郁は興味を示した。 「確かに、勇者っぽい顔してる」 ゴツンと音がして郁が沈黙した。というか、悶絶している。 「郁ちゃーん...」 が呆れたように呟き、「うるさいよ」と返された。 「そうだ、颯斗。そこのピアノ弾きな。琥雪さん、良いですよね?」 星月家のピアノを指差して夏凛が言う。 「うちのピアノ、んちに早く預けすぎた...」 「何、どういうこと?」 「駅前の開発が進むって言うの聞いてさ。うちは場合によっては売りに出すつもりだけど、ピアノはあたしが使う予定だし。けど、売却手続きをすぐにしなきゃいけなくなったらピアノをどうするのって話しになるでしょう?だから、時間のあるうちにに預かってもらったの。学生生活は後3年はあるから、その間にあたしの身の振り方も決めるし」 夏凛が説明すると「そうなんだ?」と少しだけ郁が寂しそうな表情を浮かべた。 「郁ちゃんもうちに遊びに来たことがあったんだよね」 が言うと「何で知ってんの?」と聞かれる。 「郁ちゃんと有李ちゃんの背の高さを測った柱の傷を見つけたから。ちっちゃかったんだね、郁ちゃん」 うんうん、とが頷く。 「今のくらいなかった?」 と言われて「もっとちっちゃかった!」とがムキになる。 「ねえ、今度の実家はいつ集まるの?僕も行って良い?」 郁が問う。 「盆は..どうだろう。微妙か」 「正月優先にさせてもらうつもりだから、たぶん、オレは盆難しい」 晴秋が応える。 「じゃ、来年の年末かぁ...けど、そうか。郁も来たいのね。よし、大掃除要員、プラス1人確保!」 夏凛が言うと「えー!」と郁が不満そうな声を上げる。 ピアノの旋律が優しい空間を作る。 みんながみんな颯斗のピアノに耳を傾けているわけではない。しかし、時々寄っては、聞きたい曲をリクエストすることがあった。 弾ける曲なら颯斗は弾いたし、まだ練習をしたことがないものは申し訳なさそうに断った。 除け者にされているわけではない。無視をされているわけでもない。 自由に、好きにさせてもらえている。 自分に関心がないのではなく、干渉しないだけ。 凄く、居心地がいい... が颯斗の足元ににじり寄ってきた。 颯斗は手を止めた。 「どうかしましたか」 「あ、ごめん。邪魔した?」 「いいえ。何か聴きたい曲がありますか?」 「キラキラ星」 のリクエストを快諾した颯斗はその有名な旋律を奏で、皆への心地よい空間をプレゼントしていた。 |
桜風
13.5.24
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