月光 81





 眩しいステージの上で颯斗が盾をもらっている。

トロフィーは颯斗ではない別の人の手にある。それでも、は誇らしいと思っていた。

颯斗もやりきったと言う気持ちがあるのか、晴れ晴れしい表情をしている。


隼風と話をした午後、会場に戻ると青空風音の棄権を知った。

「勝っちゃった...」

応援合戦は、の不戦勝となった。



颯斗の師匠の家で、お疲れパーティが開かれた。

<おや?ノンアルコール>

もお招きに預かり、部屋の隅に立っていたら主催に声をかけられた。今回は颯斗のお疲れ様会なので、彼はある程度ここにいる人たちと話をしなくてはいけないのだ。

<未成年ですから。それに、飲んだことがないんです>

肩を竦めて言う。

<夏凛が酒豪だろう?も酒豪じゃないの?>

<父が下戸だったんです。そっちの遺伝が強かったら、一口で倒れちゃいます>

の言葉に彼女は笑う。

<颯斗の演奏はどうだった?>

<わたし、音楽の素人です>

<世の中に音楽の玄人がどれだけいると思っているんだい?素人相手に演奏するのが私たちだよ>

そういわれて

<小難しい感想がいえないってことですけど...>

と覗うように言う。

<そういうのは、評論家に任せればいい>

彼女は笑った。

<颯斗くんの音は凄く澄んでいて、静かに沁みてくる感じがします。ただ、これまで、薄氷の上を歩いているような、そんな危うさがあったんですけど。えーと、今はそんなハラハラすることがなくて..たゆたう水の上に浮かんでいる..ちょっと不安定かもしれないけど、安心感のようなものがあって...>

そこまで言っては悩む。

<...音楽評論家さんの語彙力が羨ましいです>

真顔で颯斗の師匠を見上げた。

彼女は声を上げて笑う。会場に居た全員が驚いて彼女に注目した。

<じゃあ、前と今の。どっちが好き?>

<今のほうが好きです>

<私もだよ。颯斗は、脆さが音を透明にしていた感じがするんだけどね、それは本当に危なくてハラハラする。ちゃんと、少しずつ前に向かってるから安心していいよ>

そういわれてはホッとした。

そして、ふと疑問を口にする。

<今日の、颯斗くんの入賞は..お師匠さんの影響もあるんですか?>

<ゼロじゃない>

即答された。

<それは良い方にも悪い方にも考えられるけどね。颯斗は『青空』で私の弟子だ。この業界にはあからさまじゃなくても派閥のようなものがあって、そういうのは多少影響するよ。今回の審査員を見たら、ちょっとは颯斗に有利だったかもね>

苦笑して彼女が言う。

そんなもんだよ、と。

<もうひとつ質問してもいいですか?>

<いいよ>

<颯斗くんのお姉さんが最後までいたら、結果は変わってましたか?>

<青空風音?んー、颯斗の下の方は変わったかもね。本人はそれに気付いて尻尾を巻いて逃げたんでしょうよ>

捨てるようにそういった。

<だから、面白くないのよ。不恰好にもがいてる颯斗のほうがよっぽど見てて楽しい>

<褒め言葉ですか?>

<勿論>

微笑んだ彼女は、やっぱり楽しそうで。本当に褒め言葉として使っているのだな、とは納得した。

<さーて、そろそろ颯斗にを返さなきゃね。いい加減、視線が痛いわ...>

肩を竦めて彼女が言い

<じゃあね、。態々遠い日本から来てくれてありがとう>

の頭を撫でて移動していった。


さん」

日本語にホッとする。

「お疲れ様、颯斗くん」

「ありがとうございます。...師匠と何を話していたんですか?」

凄く気になっていたのだろう。途中、彼女は大爆笑したし。

が彼女に視線を向けるとウィンクされた。

「えー、と。女の子同士の秘密」

が人差し指を唇に当てて言う。

「女の子、ですか」

「師匠さんに言っていい?」

が言うと

「内緒でお願いします」

と颯斗は苦笑した。

「ね、颯斗くん。お正月に聴かせてもらったときとまた全然違ったね」

が言う。

「そうですか?僕も日々進歩していると言うことでしょうか」

少しおどけて颯斗が言う。

「凄く、前向きになったよね」

覗うようにが言う。

「後ろ向きになったらあちらの方にどやされるんです」

と言って『あちらの方』こと、師匠を見た。

「良いお師匠さんをお持ちで」

が言うと

「それは否定できません」

と颯斗はクスリと笑った。

さんは、いつお帰りになるのですか?」

「ごめん、あんまり時間取れなかったの。明後日の夜の便で帰る」

の言葉に颯斗がしょんぼりした。

「ごめんね」と重ねて言うに「いえ」と首を振る。

「では、明日は観光案内させてくださいね。さん、ウィーンは3回目ですが、ろくに観光できていないでしょう?」
と意識して明るい声で颯斗が提案する。

「うん、楽しみ!」

の顔がパッと明るくなった。


その日は、遅くない時間に解散となり、と颯斗は手を繋いで彼のマンションへと帰った。









桜風
13.5.31


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