| 眩しいステージの上で颯斗が盾をもらっている。 トロフィーは颯斗ではない別の人の手にある。それでも、は誇らしいと思っていた。 颯斗もやりきったと言う気持ちがあるのか、晴れ晴れしい表情をしている。 隼風と話をした午後、会場に戻ると青空風音の棄権を知った。 「勝っちゃった...」 応援合戦は、の不戦勝となった。 颯斗の師匠の家で、お疲れパーティが開かれた。 <おや?ノンアルコール> もお招きに預かり、部屋の隅に立っていたら主催に声をかけられた。今回は颯斗のお疲れ様会なので、彼はある程度ここにいる人たちと話をしなくてはいけないのだ。 <未成年ですから。それに、飲んだことがないんです> 肩を竦めて言う。 <夏凛が酒豪だろう?も酒豪じゃないの?> <父が下戸だったんです。そっちの遺伝が強かったら、一口で倒れちゃいます> の言葉に彼女は笑う。 <颯斗の演奏はどうだった?> <わたし、音楽の素人です> <世の中に音楽の玄人がどれだけいると思っているんだい?素人相手に演奏するのが私たちだよ> そういわれては <小難しい感想がいえないってことですけど...> と覗うように言う。 <そういうのは、評論家に任せればいい> 彼女は笑った。 <颯斗くんの音は凄く澄んでいて、静かに沁みてくる感じがします。ただ、これまで、薄氷の上を歩いているような、そんな危うさがあったんですけど。えーと、今はそんなハラハラすることがなくて..たゆたう水の上に浮かんでいる..ちょっと不安定かもしれないけど、安心感のようなものがあって...> そこまで言っては悩む。 <...音楽評論家さんの語彙力が羨ましいです> 真顔で颯斗の師匠を見上げた。 彼女は声を上げて笑う。会場に居た全員が驚いて彼女に注目した。 <じゃあ、前と今の。どっちが好き?> <今のほうが好きです> <私もだよ。颯斗は、脆さが音を透明にしていた感じがするんだけどね、それは本当に危なくてハラハラする。ちゃんと、少しずつ前に向かってるから安心していいよ> そういわれてはホッとした。 そして、ふと疑問を口にする。 <今日の、颯斗くんの入賞は..お師匠さんの影響もあるんですか?> <ゼロじゃない> 即答された。 <それは良い方にも悪い方にも考えられるけどね。颯斗は『青空』で私の弟子だ。この業界にはあからさまじゃなくても派閥のようなものがあって、そういうのは多少影響するよ。今回の審査員を見たら、ちょっとは颯斗に有利だったかもね> 苦笑して彼女が言う。 そんなもんだよ、と。 <もうひとつ質問してもいいですか?> <いいよ> <颯斗くんのお姉さんが最後までいたら、結果は変わってましたか?> <青空風音?んー、颯斗の下の方は変わったかもね。本人はそれに気付いて尻尾を巻いて逃げたんでしょうよ> 捨てるようにそういった。 <だから、面白くないのよ。不恰好にもがいてる颯斗のほうがよっぽど見てて楽しい> <褒め言葉ですか?> <勿論> 微笑んだ彼女は、やっぱり楽しそうで。本当に褒め言葉として使っているのだな、とは納得した。 <さーて、そろそろ颯斗にを返さなきゃね。いい加減、視線が痛いわ...> 肩を竦めて彼女が言い <じゃあね、。態々遠い日本から来てくれてありがとう> との頭を撫でて移動していった。 「さん」 日本語にホッとする。 「お疲れ様、颯斗くん」 「ありがとうございます。...師匠と何を話していたんですか?」 凄く気になっていたのだろう。途中、彼女は大爆笑したし。 が彼女に視線を向けるとウィンクされた。 「えー、と。女の子同士の秘密」 が人差し指を唇に当てて言う。 「女の子、ですか」 「師匠さんに言っていい?」 が言うと 「内緒でお願いします」 と颯斗は苦笑した。 「ね、颯斗くん。お正月に聴かせてもらったときとまた全然違ったね」 が言う。 「そうですか?僕も日々進歩していると言うことでしょうか」 少しおどけて颯斗が言う。 「凄く、前向きになったよね」 覗うようにが言う。 「後ろ向きになったらあちらの方にどやされるんです」 と言って『あちらの方』こと、師匠を見た。 「良いお師匠さんをお持ちで」 とが言うと 「それは否定できません」 と颯斗はクスリと笑った。 「さんは、いつお帰りになるのですか?」 「ごめん、あんまり時間取れなかったの。明後日の夜の便で帰る」 の言葉に颯斗がしょんぼりした。 「ごめんね」と重ねて言うに「いえ」と首を振る。 「では、明日は観光案内させてくださいね。さん、ウィーンは3回目ですが、ろくに観光できていないでしょう?」 と意識して明るい声で颯斗が提案する。 「うん、楽しみ!」 の顔がパッと明るくなった。 その日は、遅くない時間に解散となり、と颯斗は手を繋いで彼のマンションへと帰った。 |
桜風
13.5.31
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