| 9月14日。 は空港に降り立った。 これで4回目だ。 結構ハイペースだと周囲に指摘されて、確かにそうかもしれないと思った。 バイト代は全部この交通費になっている。 今回はもうサプライズは諦めた。 そして、前もって颯斗に連絡をすると、誕生日はこちらに来てくれたらそれで充分だと言われた。 実際、がウィーンに行くとなると経済的負担が大きい。 それを慮っての言葉だとは受け取り、向こうで一緒にショッピングしてそのときにプレゼントも購入することにした。 だから、颯斗の誕生日はご馳走を作ると決めてやってきた。 勿論、今年もケーキを焼く。 メニューは完璧。 そんなことを思いながら空港の中を歩く。 颯斗と待ち合わせしている場所に向かっているのだ。 「さん」 名前を呼ばれてそちらを見ると颯斗がいた。 待ち合わせ場所から随分とゲートよりだ。 「やっぱり待ちきれませんでした」 そう言ってキスをする。 「もう!」 「今日は叱られてしまいました」 おどけたように颯斗が言い、の荷物を預かる。 「行きましょうか」 「うん」 颯斗のマンションまで行き、ドアを開けて彼が促した。 「ありがとう。お邪魔します」 そう言って部屋に入り、颯斗もそれに続いた。 「とりあえず、紅茶でいいですか?」 キッチンに向かいながら颯斗が言う。 「うん、颯斗くんの紅茶、美味しくて好き」 「紅茶だけですか?」 颯斗が問い返す。 が彼を見ると少しイタズラっぽく笑っている。 「もちろん、颯斗くん自身も大好き」 そういうと蕩けるような笑みを浮かべて「ありがとうございます」と返してきた。 翌日、起きてみると颯斗の姿が見えなくては慌ててベッドから降りた。 「おはよう」 リビングに顔を出すと颯斗が「おはようございます」と挨拶を返す。 しかし、颯斗の様子が少しおかしい。 「颯斗くん、どうかした?」 顔を覗きこみながらが言う。 「さんには敵いません」 苦笑して彼が呟く。 「ですが、今は朝ごはんにしましょう」 そう言ってキスをする。 「あ、そか。ごめん、準備するね」 「いいですよ、さん。僕がします」 「でも、今日は颯斗くんの誕生日だから...」 「じゃあ、僕が朝ごはんの準備をしたいので、させてください」 そういわれては「お願いします」と頭を下げた。 「さんは、その間身支度を整えてください」 「ん?」 「髪の毛、跳ねてますよ」 「え?!」 は頭を抑えながら寝室に逃げ帰った。 クスクスと颯斗が笑う。 いつでも出かけられるように身支度を整えては朝食の席に付いた。 2人で食卓を囲む。 颯斗は近くのベーカリーで購入したパン以外にサラダとスクランブルエッグを用意してくれた。 「凄い、美味しそう」 が言うと「お口に合うといいのですが」と颯斗が言う。 食事を済ませて2人で片づけをする。 その間もは颯斗の様子が気になって仕方ない。 いつ話してくれるのかな、と様子をみていた。 「さん」 片づけが終わり、少し休憩をしていると改まった口調で颯斗に名を呼ばれる。 「はい」 は居住まいを正した。 「僕には、とてもほしいものがあります」 普段、そういったことを口にしない颯斗が『欲しい』というものがあるという。 「なに?」 前のめりでが問う。 これは是非とも用意しなくては。 自分に対して言うことだから、そんな無茶を言うことはないはずだ。物凄い高い..豪華客船が欲しいとか。宇宙に行きたいとか。そういう類の話にはならないだろう。 の持っているもので、あげられるもの。 「あなたの最も大切なものを僕はほしいと..思っています」 にとって最も大事なもの... 「それは、難しいなぁ」 の言葉に颯斗はそっと睫を伏せた。 「颯斗くんにどうやったら颯斗くんをあげられるのかな?ちょっと待って。考えてみる」 物凄いトンチが必要だ。 俯いてうんうん唸りながら考える。 はっ!もしかして別れたいということだろうか... が驚いて顔を上げると颯斗は呆然とを見ていた。 「あの、颯斗くん。もしかして、別れたいとかいう話...」 「違います!」 鋭い口調で否定されてはビックリする。 「じゃあ、どうしたら良いんだろう...」 また考え始めたに颯斗はいつの間にか涙を零していた。 彼女は最も大切なものを迷いなく自分だといってくれた。これ以上の幸福があるだろうか... 「さん」 「はい!って、颯斗くんどうしたの??」 慌てるを制して颯斗は1回深呼吸をする。 「僕がほしいのは、あなたの未来です」 「わたしの未来?」 「まだ僕はあなたを迎えに行くことができません。だけど、約束をください。僕が、いつかあなたを迎えに行くことを許してください」 「え...」 が固まる。 「あなたは、暗く閉ざされた僕の世界を淡く優しく照らしてくれる月でした。僕は時々迷いそうになりながらも、あなたの光に導かれて、前に進むことができるようになった。 これからも、あなたという月の光に包まれて前に進みたい」 「わたし、そんなに凄い人じゃないよ。颯斗くんが頑張ってるだけだよ」 が言うが颯斗は首を振る。 「いいえ。僕にとって、あなたはなくてはならない存在なんです。許して、くださいますか?」 コクリと頷くに颯斗は破顔した。 「ありがとうございます」 震える腕を伸ばして颯斗は彼女を抱きしめる。 「約束ですよ」 「はい」 そう言って2人は誓いのキスを交わした。 |
桜風
13.6.7
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