| 梅雨の終わりの大雨なのだろう。窓から外の様子を見ても煙っていて見えない。 「はぁ...」 思わず吐いた溜息で窓が白く曇る。 (せっかく約束していたのに...) 恨めしげに空を見上げても雨脚は一向に弱まることなく、寧ろまた強くなったのではないかと思うほどだった。 空を睨み続けても状況が変わるわけでもなく、は窓際から離れた。 それでなくともじめじめした空気で、気分が滅入っているのに、さらに気分が滅入ってしまう。 とりあえず、とはキッチンに立った。 今日はデートの約束をしていた。 しかし、この大雨。 何かあってはいけないと先ほど電話があり、仕方なくの延期となった。 延期は全く構わないのだが、相手に問題ありと言うか... 彼は非常に忙しい人だ。だから、スケジュールをあけるのも大変で。 何より、今は一時帰国しているだけで、あと数日もすればまた留学先に帰ってしまう。 だから、忙しいスケジュールを空けて時間を取ってくれたのにこの大雨。 お湯を沸かして紅茶を淹れる。 茶葉は彼から送られてきたもの。 彼自身、紅茶が好きでとても美味しく淹れてくれる。 は彼の淹れてくれる紅茶が好きだ。 紅茶を淹れ終わって、ソファに腰掛けるとインターホンが鳴った。 (この大雨に宅配便かな...) 自分は特に買い物をしているわけではないが、たまに懸賞に応募している。 懸賞の商品というのは、忘れた頃にやってくるものだ。 この雨の中配達してくれる配達員を気の毒に思いながらはタオルを持って玄関に向かった。 少しでも雨を拭ってもらおうと思ったのだ。 「はーい」 返事をしてドアを開ける。 「あ、...え。颯斗くん?!」 「ちゃんと相手を確認して出てきてください」 颯斗が少し怒ったように言う。 「あ、うん。ごめんなさい」 謝るを颯斗が抱きしめる。 「ああ、会いたかったですよ」 「わたしも」 も颯斗に腕を回して抱きしめ返す。 そして気付いた。 「颯斗くん、体が凄く冷たい...!」 「少し冷えてしまったかもしれませんね」 穏やかにそういう颯斗の腕を引いて家の中に招き入れる。 先ほどは軽く拭ってもらおうと思ったのでハンドタオルだったが、バスタオルを持って彼の元へと戻る。 「シャワー浴びた方が良くない?」 「いいえ、大丈夫ですよ」 「じゃあ、紅茶淹れるね」 「はい」 から受け取ったバスタオルで体を拭きながら颯斗は頷いた。 「けど、颯斗くん。中止って、さっき...」 先ほどまでの溜息の原因が、デートの中止だったと言うのに、颯斗がこうしてやってきている。 (あの溜息はなかったことにしておこう) 「おや、僕はこう言いませんでしたか?『待ち合わせは中止しましょう』と」 確かに、言われた気がする。 しかし、デートの始まりは待ち合わせだ。 だから、もデート自体が中止になったのだと思っていたのだ。 淹れた紅茶を持ってきてそのことを颯斗に話すと彼は困ったように笑った。 「さん。僕があなたを我慢できると思っているんですか?」 そう言って颯斗はを引き寄せて自分の膝の上に座らせる。 「せっかくの雨です。家の中でゆっくりしましょう」 「うん」 じめじめした空気でも、颯斗がいれば気分が滅入ることはない。 満面の笑みで頷くに颯斗も笑顔を零した。 |
桜風
12.06.23
ブラウザバックでお戻りください