School Life 12





6月に入り、バケツをせっせとひっくり返しているかのごとき大雨の日。翼は不機嫌にも駅前に向かった。

「あれ?永田は持参してないの?」

「あいつにもたまには休みをやってる」

素っ気無く返す翼に「大人になったね」とは感心した。

「それで、こんな天気の悪い日に呼び出して何の用だ?」

今朝、雨音と言うか、轟々と言う滝の音のような水音で目が覚めたはふと思いつき、翼に電話をした。

翼は迷惑そうにしつつも、こうやってが指定した場所にやってきたのだ。

「ランチに付き合ってよ」

暫くの沈黙。

「貴様、まさかとは思うが。そのためだけにこの俺を、真壁財閥次期総帥のこの俺様を呼び出したのか?!」

超絶不機嫌そうに確認する翼に「そだよ」とは頷いた。

舌打ちをした翼が自分の携帯を取り出す。

「ああ、真壁系列じゃなくて。今回はあたしの行きたいところに付き合ってよ」

そう言ってやっぱり滝のような雨の中、普通に傘をさして歩き出したの後を翼は歩き出した。


暫く無言で歩いているとが足を止める。

翼は「はあ?!」と声を上げた。

今にも潰れそうな、小汚い建物。暖簾も薄汚れている。衛生面が特に不安である。

「ここだと?!」

「あのさ、真壁。世の中どれだけの人が『庶民』なんだと思う?殆どが庶民だよ?真壁財閥は所謂セレブしか相手にしないとか言ってないで庶民も相手にしたらどうよ?そのために、次期総帥様が庶民を知ることはとってもいいことよ?
と、いうわけで初庶民。行ってみようか!」

そう言ってが暖簾をくぐり、反論することをすっかり忘れていた翼は少々おっかなびっくりに店内に足を踏み入れた。

小ぢんまりした店舗はやっぱり薄汚れている。

「こんにちは」とが声を掛けると、週刊誌か何かを読んでいた店主らしき小太りの中年が顔を上げた。

「らっしゃい!」

景気の良い声が返ってくる。

テーブルに着くと、水を持ってきた店主が翼を見て眉をひそめた。

「その服、高ぇんじゃないのか?こんな小汚い店に来るもんじゃねぇぞ」

「ああ、良いんですよ。世間知らずのぼっさまに、ちょっと庶民の味を覚えてもらいたいって思ったので。というわけで、庶民の美味しいお店代表でお願いします」

が言うと「へえ」と店主は面白そうに笑った。

「庶民代表、頑張るか」

そう言ってカウンターの中に戻っていった。


注文はが勝手にした。翼は聞かれても良く分からない。

そして、と翼の前にはラーメンが出てきた。

「これは、何だ?」

「とんこつラーメン」

そう言ってはテーブルの割り箸を翼に渡し、自分にも一膳取り出した。

「いただきます」と手を合わせてラーメンを啜る。

の様子を見よう見真似で翼もラーメンを口に運んだ。

「...美味いな」

驚いたように呟く。

「そうだね。あんまりしつこくない。おじさん、美味しいよ」

「庶民代表だからな。頑張ったぜー」

そう言って力瘤を作ってみせる。


ふうふうとラーメンを吹きながら、「そういえばさ、真壁」とが声を掛ける。

「何だ?」

「あたし、邪魔だけはしたくないんだ」

の言葉に翼はピクリと反応した。

「あたしはあんた達みたいに以心伝心じゃないからさ、絶対に蚊帳の外がいいと思うの。だから、何かするときは邪魔にならないように、どうしておけば良いかだけ教えてよ」

そう言ってズズッと麺を啜った。

「何を、知っているんだ?」

「何も。けどさ、真壁達B6が戻ってきて、聖帝学園にあの派手な先生達が居ないってやっぱりちょっと..違和感があったのよね。
聞こうと思ったけど、聞かなくても良いような気がしたから。話さなくて良いよ」

翼はまた暫く沈黙したが、「ああ」と返し、食事を続けた。









桜風
12.2.19


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