School Life 15





残業を終わらせて廊下を歩いているとグイと腕を引っ張られて思わず声を上げそうになった。

しかし、声を上げる前にその人物が誰かと言うことが分かり、何とか声を呑む。

「どうしたの、慧くん」

彼はから手を離し、俯いた。

「とりあえず、帰ろうか」

の言葉にコクリと頷いて慧は彼女の後をゆっくりと続いた。


自転車通勤のため、駐輪場に向かう。

ずっと後ろをついて歩く慧に思わず小さく溜息を漏らす。

自転車を押しながらゆっくりと日の沈んだ後の道を歩く。歩調は慧に合わせる。

「どうかした?」

が促すと「僕は、間違っているのだろうか」と彼が呟く。

「なぜ?」とが問うと彼は彼女の顔を見て、また俯いた。

「まずは、」と言ったはパシンと慧の背を叩いた。

彼は目を丸くしてを見下ろす。

「背筋を伸ばしなさい」

言われて彼は背筋を伸ばす。

「で?何でそう思ったの??」

の問いに彼はぽつりぽつりと話し始める。

自分の中で少しずつ違和感がジワジワと広がってきたのだと。自分が間違っていないことをすればするほど周囲が自分に向ける感情が冷ややかなものになっていることにほんの少し気がついた。

「那智くんは?」

「那智には、相談していない」

おや?とは驚いた。

「那智は、絶対的に僕の味方だ。仮に、万が一僕が間違ったことをしていてもたぶん、那智は肯定すると思う」

「それは、本当に味方かしら?」

の言葉に慧は敵意を見せる。

「ああ、失礼。那智くんどうこうじゃなくて。普通は、間違ったことをしている人が居たら間違っていると教えてあげるべきだと思うのよね。それが好きだったり尊敬する人だったら尚更」

だからこそ、は理事長に傾倒しているくせに彼のしていることに意見を言わない天童たちを信頼できない。

「ねえ、慧くん。あなたが今のその権利を渡されるときに理事長から聞いたんでしょう?あたしが、それに反対していたって」

「ああ」

「具体的には?」

「いや、『反対した』という事実しか...」

彼は首を横に振った。

「あたしはね、こういったの。『高々18のガキんちょが自分と歳の変わらないガキんちょを指導?はっ!それが本当に出来るって思われているのでしたら、あまりにも楽観過ぎて呆れます』ってね。
あなたは高々18のガキんちょなのよ」

キッパリとそう言われて慧は言葉を失った。

「ね、慧くん。皆が敬して遠ざけているのはあなたの存在じゃなくて、あなたの持っているメチャクチャな権利よ。あなたに何か意見を言えばそれをあなたが『間違いだ』と判断したらそれで自分の自由、下手したら未来がなくなる。間違っていると思っても、何も言えなくなっているの。まったく、『生徒の自主性』って何のことかしらね」

肩を竦めてが言う。

「あなたは、18年しか生きていない。今、その場所に立ったあなたはひとつの道しか知らない。勿論、人が歩んでいる道は一人につきひとつだと思う。
けど、ね。友達や仲間が居て、話をして言葉を交わして理解を深めたら自分の知らない道を知ることが出来るのよ。それをするには、まず何が必要だと思う?」

の問いに慧は首を横に振る。

「うそ。分っているけど認めたくないだけ」

の指摘に慧は俯いた。

ほら、と心の中で呟き、は言う。

「相手を認めること」

そっと慧がを見る。

「例えば...慧くんは成宮が嫌いよね。自由奔放。規則、規律、何だそれ?だもん」

「はい」と彼は頷く。

「けど、成宮は慧くんにないものがある。勿論逆も然り。ある意味真逆だから相手を理解しようとしたら、ビックリするくらい世界は広がるかもね」

「僕は、あなたも好きじゃありませんでした」

「あら、光栄」

からかい口調のに「その軽いところが」と少し拗ねたように慧が言う。

「うん」

「でも、あなただけだった。失敗しても良いと僕に言ってくれた大人は」

「そりゃ、失敗しないに越したことはないけど。失敗の経験も何回かあったほうがいいわよ。生きていくうえで要らない経験はないんだし」

「今回のことは、僕の人生の何回かの失敗のうちの、ひとつにしようと思います」

は驚いたように目を丸くして、やがて笑顔を見せる。

ガシガシと乱暴に慧の頭を撫でる。

「頑張ったね!」

彼のようなタイプは自分の非を認めるのに随分とエネルギーが必要になる。

だから、それを受け入れるのに随分と悩んで葛藤を抱いて、そして決めたのだろう。

慧は少しだけ嫌がる素振りを見せたが大人しくに頭を撫でられた。









桜風
12.4.1


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