| 廊下を歩いていると少し先でが天十郎と話をしながら歩いていた。 那智はそっと足音を立てずにその距離を詰めた。 「そんな理由なのかよ?!」 天十郎が驚いている。 「そんな、って。大体ね、将来の夢を決めるのに、どれだけの人が不純だと思ってんのよ」 が呆れながら言うが「そこは、夢を持たせる何かを言えよ」と天十郎が肩をがっくり落としている。 「てか、俺様たちはあと数ヶ月で卒業して晴れて高校3年生も終わるけど、はまだ何回も経験するんだろう?飽きねぇの?」 「さあ?その先までは興味なかったしね」 肩を竦めてが言う。 どうやら、彼女が教師になったその動機について話しているようだ。 「結局、は都合何回高校3年生なんてものやってんだ?」 「あたしは3回。で、今回初めて通しで高校3年生」 嬉しそうにが言う。 「物好きも居たもんだな」 「あのね、成宮。アンタ、こうやってのうのうと高校生活を送れている自分は幸せだって思わなきゃだめよ」 「生徒に『のうのうと』って言うな」 天十郎の指摘には肩を竦めたが、それ以上興味がないようで特に何も言わない。 「んで、楽しいか?高校3年生」 「今まで途切れ途切れだったからね。何か、充実してるよ」 「なら、良かったんじゃねぇの?」 そう言った天十郎にはクスクスと笑う。 「んだよ!」 「それ、真壁にも言われた。仲良しさん」 クスクスと笑いながらが指摘し、指摘された天十郎は拗ねたように「気持ち悪ぃこと言うなってんだ!」と歩幅を大きくしてから距離をとろうとした。 「ごめん、ごめん。ありがと」 そういったに少しだけ足を止めて「ああ」と返して今度は駆け出した。 「慧くんに見つかったら怒られるよー」 の言葉に「慣れてらぁ!」と天十郎が返してその姿はあっという間に豆粒になった。 「てか、自分は注意しないんだな...」 一定の距離を取っていた那智がポツリと呟く。 しかし、意外だと思った。 彼女は高校3年を3回経験した。ということは、2年は留年していたと言うことだ。 理由は...? おそらくB6なら知っているだろうが、あまり詮索すると警戒されかねない。 「あの人なら教えてくれるかな?」 そう言って那智は保健室を目指した。 「先生」 声を掛けられて振り返ると慧が居た。 「那智から聞いたのですが」 あら、あまり碌な話ではないのね... そんなことを思いながら「なに?」と話を促した。 「高校時代、留年されているのですか?」 「うん」とすんなり頷くに慧は驚いた。 「なぜですか?」 「あれ、那智くんはそこまで言わなかったの?」 あの子の事だから調べたと思ったのに。あ、調べても面白い展開にならなかったからかな? 「原因不明の病気で。で、原因が不明な病気は、治った理由も不明。治ったかどうかもわかんないんだけどね。まあ、動けるし、今のうちかなって」 「どうして、教師になられたのですか?」 慧のまっすぐな瞳にあの理由を返すのは少し憚れるが、理由はそれなのだから仕方ない。 「も1回、通しで高校3年生をしたかったから」 の答えに慧は暫く沈黙して「は?」と聞き返してきた。 「うん、その反応は正しいよ。慧くんらしい」 うんうんとが頷く。 「まさか、そのためだけに?」 そんな適当っぽい理由で教師になった彼女に感化された自分が恥ずかしくなっていた。 つまり、彼女は教育を、子供達を育てるためにこの職業を選んだのではなく、自分が出来なかったことをしたかったから。ただ、自分の欲求を満たすために教職に着き、自分に説教をしたと言うのか?偉そうに... 「あなたを見損なった!」 あ、やっぱり? はすんなりと納得していた。 慧のあの性格ならそういうだろう。 そして、残念だなとは思った。 慧の中で『損なう』何かがある程度には、信頼してもらえていたと言うのだ... 慧はそのまま背を向けて生徒会室に向かって歩き出した。 はその背を見送って、職員室へと向かった。 |
桜風
12.5.20
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