| 年の最後の学校イベントといえば、聖帝舞踏祭だ。 これは、聖帝学園特有の、他の金持ち学校でも似たようなイベントがあるのだろうか。 しかし、このイベントはやっぱり生徒主体だ。 教師陣も参加しなくてはならないのだが、会場設営から何から何まで生徒主体、つまり、生徒会が指揮を取るものだ。 慧が張り切るだろうと思っていたが、例年使っている講堂を改修工事すると理事長が言い出したのだ。 「はあ?!」 その話を職員室で聞いたは周囲に憚ることなく声を上げた。 「...」 不快さを全く隠そうとしないに瞬が少々驚いているが、彼女にとってはそんなのどうでも良い。 「なぁにが、『我が聖帝学園は生徒の自主性を重んじています』だ!これだったら、まだあのハゲとメガネの時代の方がマシだったわよ」 ハゲとメガネといえば、おそらく自分達がいたとき、あの悠里をある種のスケープゴートとして連れてきた校長と教頭のことなのだろう。 悠里にとってみればいい迷惑だったかもしれないが、自分達には掛け替えのない大切な時間だった。 彼女が居なかったらこうして、揃って母校に戻ってくることはなかっただろう。 B6たちはそんなことを思った。 「で、。お前は何か手を貸すつもりか?生徒会顧問だろう?」 「...しない」 の言葉に真壁が「What?!」と声を上げた。 「どういう意味だ?」 「講堂以外で聖帝舞踏祭を開いてはいけないっていう校則はないから。この程度であたしが手を貸さなきゃいけないあの子達じゃないってね」 そう言ってパチンとウィンクした。 何だかんだで彼女はちゃんと『教師』に成長している。 「期間的に短いけど『協力』があれば可能よ。余裕だわ」 あとは、慧が..生徒会執行部がそれに気付くかどうかだ。 ま、一応理事長に文句は言いに行っておこう。 クリスマスイブに聖帝舞踏祭は開かれた。 は満足げに笑う。 彼らはきちんと正解に辿り着いた。 金持ち学校で、群を抜いての金持ちがすぐ近くに居たのだ。それに気付いて、協力を仰げば彼は否といわない。 彼が慧を嫌いなのは慧と同じ理由であり、本当は認めているのだ。 だから、声を掛けられれば全力で協力してくれる。祭りが好きだからそれが流れてしまうのも彼にとっては大問題だろうし。 「『舞踏祭』で紋付袴ってのは初めて見たけどね」 が困ったように呟く。 「うるせぇ!日本男児の正装といえばこれだろう」 「それでワルツ踊れるの?」 が真顔で問うと 「おう、何なら踊ってやっても良いぜ」 と自信満々に言われた。 「ごめん、あたしが耐えらんない」 笑ってがお断りし、彼女はそのままデッキに出た。 視界に入った人物には目をついと細める。 「ごきげんよう」とご機嫌斜めな声で声を掛けた。 彼は振り返って苦笑した。 「とてもお似合いですね」 「それなりに着慣れていますからね」 返ってくる言葉というか、声音にトゲがあることに彼は肩を竦めた。 「今回の、理事長の件ですか?」 「それ以外に、あたしが怒る理由はありますか?」 「しかし、私にそんな態度を取られるのは、八つ当たりと言うものでは?」 「諫言をされましたか?」 の言葉にこれまで余裕の笑みを浮かべていた彼は一瞬痛い所を突かれた様に眉を顰める。 「昔は素晴らしい教育者だったかもしれません。あなたのような教師が傾倒してしまうほどの、高い教育理念、それを実行するだけの実力。 では、今は? 生徒の自主性の名の下に、くっだらない権限を生徒会長に付与し、彼を徒に悩ませ、彼が決断したくっだらない権限の返上に対して『残念ですね』ですか。そして、この学校の『生徒の自主性』の看板イベントを今急がなくても良い講堂の改修工事という勝手な理由で潰そうとした。 残念ですが、昔の理事長がどんなに素晴らしい方だったかを目の前であなたがこれから語られてもあたしは全く頷けません」 「しかし、何かを成すときには犠牲がつき物ということを知らないほど、あなたは子供でもないでしょう」 「そんな大義名分の下に切り捨てられてしまう子供達にあなたは何と言いますか?『君の犠牲はこれから先の子供達の未来のためだったんだ、ありがとう』ですか?あたしだったら『ふざけんな!』って怒鳴りますよ。子供達には『今』しかないんですよ?」 の言葉に彼は暫く黙っていたが 「先生は、やはりお若い。理想だけで教師が務まると夢だけは立派だ」 「残念ながらそんなでっかい夢は持ってません。 ただ、あなたが言う『何かをなすときの犠牲となっている』らしい今の子達に『我慢してもらいたい』って言うことは、今の子達と向き合っていないことになりませんか?たっかいお金払ってこの学園に通ってる子達に『悪いんだけど、君達は犠牲者になってもらうから。ああ、運が悪かったね』って言うんですか?」 のあまりのまっすぐな言葉に彼はまたしても沈黙した。 「間違っているなら、それは指摘するべきだと思います。もし、理事長があなた方を信頼しているなら、その言葉に耳を傾けるのではありませんか?あたしは、ダメでした」 講堂の改修の話を聞いたその日に直談判に行ったが、理事長室への入室自体許されなかったのだ。 「ちゃーん!」 ホールに居る悟郎が手を振っている。 振り返ったは「今行くー!」と返してまた彼を見上げた。 「あなた方の、義務だと思います」 そう言い放ち、はホールに戻っていく。 彼女の背を見送りながら彼は俯いた。後ろめたさが体に、心にまとわりついていた。 |
桜風
12.5.27
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