| 理事長が口にした言葉。 那智が、ダイヤモンドサインという不良グループのリーダーをしているとの情報が耳に入ったとか。 そんな生徒をこの学園におくことは出来ない、と彼は宣言した。 「それで、理事長はどのような判断を?」 の問いに彼は「退学処分ですね」と簡潔に言った。 「誇り高き我が校の名に傷をつけるような生徒を置いておくわけには行きません」 は目を眇めた。 「しかし、そのダイヤモンドサインですか?方丈くんがそのリーダー?っていうのはどのように得た情報ですか?それは確かなものなのですか?」 の言葉に那智が顔を上げる。 なら何となくそういうのを察していると思っていた。 信じて、いるのだろうか... 「このように、写真が」 そう言って理事長は自分の手に持ったままその写真を示した。が手を伸ばしても彼女の手には渡そうとしない。 信用されていない証拠だ。 「これのどこが?」 が問う。 「この一緒にいるのはダイヤモンドサインのメンバーです。これには裏が取れています」 「『これには』ということは、方丈くんがそこのリーダーと言うことに裏は取れていないということですよね?それなのに、退学、ですか?」 わが意を得たり、とがそこを突く。 舌打ちしそうになったが、理事長はそれをグッと堪えた。 「ですが、このような疑惑が持ち上がること自体、我が校の名を汚すものです」 「つまり証拠としては決定的なものではないということですよね?ならば、『疑わしきは、被告人の利益に』が妥当だと思います」 が言う。 理事長は目を眇めた。 「つまりは、先生は方丈君の退学処分を取り消してもらいたい、と?」 「退学処分はまだ決定ではないでしょう」 「理事長の、生徒の処分権を持っている私が既に決めていることです」 は引くことなく視線はまっすぐに理事長の瞳を射抜いた。 彼は盛大な溜息をつく。 「では、譲歩してさしあげましょう」 そう言って理事長はをまっすぐに見た。 「先生、あなたは生徒会顧問です。方丈君は、生徒会副会長」 そこまで聞いて那智が声を上げそうになったがが制した。 「ええ、間違いありません」 「つまり、あなたの指導力不足と言うことになりますね」 「まあ、理事長が主張されている内容が本当であるなら、ですが?」 「勿論。ですが、現時点で事実もある。この、ダイヤモンドサインと方丈君は何らかの関係がある」 これは否定出来ないだろうなとは判断し「可能性はあります」と肯定した。しかし、全肯定はしない。 「あなたが、責任を取ってこの学園を去られると仰るのなら、考えなくもありません。まあ、あなたのようなヒヨッコが居なくなったくらいで彼の退学処分を取り消すこと自体随分と不公平ですが、あなたがあまりにも必死に方丈君を庇うものですから。私も少し、甘いでしょうか」 「わかりました。しかし、一応念書を書いていただけますか?あたしが学園を去った後に約束を反故されたら本当に無駄ですから」 の言葉に面倒くさそうに理事長は側に控えている上條にペンと紙を用意させて一筆書く。 「これで良いかな?辞表は今日中に出してくれたまえ」 「了解しました」 そう言っては理事長に食って掛かりそうな那智を引き摺って理事長室を出て行く。 ドアを閉める間際 「ああ、理事長。最後の忠告です。聖帝っ子を舐めんなよ!」 と宣言した。 「ひとつ、片付きましたね」 「ふたつだ、元親」 理事長室でそんな会話が行われているそのとき、はなるべく理事長室から離れるように那智を引き摺っていた。 「何てことをしたんだ!」 の手を振りほどいて那智が声を荒げる。 「何が?」 「こんなことで俺がアンタに感謝すると思っているのかよ」 那智の言葉にはきょとんとして「何言ってんの。自己満足に決まってるじゃない」と返した。 「...はあ?!」 「だって、そうでしょう。那智くん、全然嬉しくないし、寧ろ今、モヤッとしてるでしょう?」 まさにその通りだ。 「じゃあ、何で...」 「これで首の皮一枚繋がった。これで、那智くんは高校3年生を通して1年間送れる可能性が残った」 の言葉に那智は瞠目する。以前、盗み聞きした話を思い出した。彼女が教師になったのは高校3年生を1年間通して経験したかったからだとか。 「益々バカだろう!」 那智の言葉には苦笑した。 「あのさ、先生で高校3年生の経験なんてこの先何回もできるのよ。けど、那智くんが生徒として、聖帝学園の今の仲間と一緒に過ごす高校3年生はもうないの」 「俺は別にそんなのどうでも良い!」 「慧くんも?」 はわざと、那智の急所を狙ってそう言った。 「慧くんは、そう思えないと思うよ」 「慧は..慧は今関係ないだろう?!」 「那智くんがそう思えていないのに?」 の言葉に那智が俯く。 「何なんだよ...」 呟いた那智の声音は弱々しく、は苦笑した。 「ま、これに懲りて自分の倍近く生きてるオッサンを利用しようとか思わないのよ。あなたはおイタが過ぎた。あなたが賢いのは分るけど経験に勝るものはないんだからね」 「何で、あんたは...」 「言ったじゃない。失敗してもフォローするって」 「それは慧に...」 「慧くんのフォローをして那智くんのフォローしない理由があたしにはわかんないよ」 きょとんとが返した。何でもないことのように。実際、彼女にとって何でもないことなのだろう。 「ただ、授業を持ってた生徒達には申し訳ないなーとは思ってるけどね。ま、3年の授業がないからその分、先生方がフォローしてくださるだろうし。 ね、那智くん。悔いのないよう、ちゃんと聖帝学園を卒業しなさい。ただ、それを勝ち取るまでにはもうちょい頑張らなきゃならないよ。退学は免れても、あの様子だと停学はつく。だからそこら辺は、信じられる大人を見つけて助けてもらいな。B6、特に仙道あたりとか意外におススメよ」 パチンとウィンクしては那智に背を向ける。 「俺は、せんせいが嫌いだった。慧を変えたし。苦労すれば良いって思ってた」 「あら、珍しく正直ね」 「...ありがとう、ございました」 は手を伸ばして那智の頭を撫でる。嫌がるかと思ったが意外と大人しい。 「ムリしない程度に、頑張りなさい。あと、大人舐めんな」 そう言っては職員室に向かった。 |
桜風
12.6.17
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