| 朝のHRが終了して1時間目が始まるまでの短い空き時間に「なー、。今日は何かもって来てないのか?オレ、腹減ったんだ...」とおなかを擦りながらクラスメイトの草薙一が声をかけてきた。 声を掛けられたは「クッキーがあるよ」と言いながら鞄から手作りらしきクッキーを取り出して一に渡す。 「お!貰って良いのか?!」 「そのつもりで声を掛けたんでしょう?」 笑いながらが返した。 「あー!ハジメ!ちゃんのクッキーを独り占めしようだなんてポペラ許さないよ!!」 そう言ってクッキー争奪戦に参加してきたのは風門寺悟郎。女子の制服を着た可愛らしい子だが、中身はバッチリ男の子だ。背は一応165センチくらいあるという。 お陰でとも15センチくらいの背の差が有り、悟郎は何度も「ちゃん、あと10センチ伸びてよ。じゃないとゴロちゃんポペラ大きく見えるでしょ!」と理不尽なことを言っている。 は2人の遣り取りをニコニコしながら眺めていた。 暫くしてチャイムが鳴り1時間目が始まる。 はクラスエックスと呼ばれるE組に所属している。 このクラスの生徒は落ち零れと評されているが、はそこまで頭が悪いワケではない。どちらかといえばいい方なのだろうというのが教師たち多くの意見だ。 では、何故このクラスエックスに所属しているのか。 それは、本人にやる気が全くないのだ。 『全く』と言うのは語弊がある。 情熱を傾けるものを決めているから、結局勉強が疎かになってしまっているのだろう。ただ、疎かにしていても大抵の教科は学年の平均点は取っている。 しかし、成績が良くないのは授業態度のお陰だ。 「さん」 教壇に立っている二階堂に注意をされて慌てて顔を上げる。 板書をしているように見えて、実はそのノートには新しいレシピを書き込んでいるのだ。思いついたら授業中でもそのノートにレシピを書いていく。 そんなノートの取り方をしているのに、平均点取れるのだから、本人が努力をしていけば脱クラスエックスになっただろうに... そう惜しむ声がなくもないが、はこのクラスが好きだ。 だから、このままがいいと思っている。 1時間目が終わると女子生徒数人がに声を掛ける。 「これ、どうかな...?」 そう言いながら差し出したのは編みかけの手袋だ。 「んー、と。ここ、目の数が違うよ」 が指摘すると「いや〜!」と悲鳴を上げながら去っていく女子。 残った女子も色々とに聞いている。 『作る』ということが好きなは女の子が興味を持ちやすい料理や編み物、裁縫などが得意分野となっており、クラスの女子によくコツを聞かれたりする。 ただ、は興味があって自分が手をだしているので、全てが独学だ。勿論本を読んでみたりとかはしているが、そこからオリジナルが入る。 だから、何処かに習いに行くときっと色々と指摘されてしまうのだろうなーと何となく思っている。 習いに行くつもりは今のところ無いが... 授業中の内職を続けながらその日の授業は終了し、は帰り支度を始めた。 ふと、振り返るとB6と呼ばれる少年たちもぞろぞろと帰り支度をしている。 あれ...今日は補習ないのかな? そう思っていると凄い勢いで、担任の南悠里が教室に入ってきた。 どうやら、補習に誘いに来たようだ。 彼女が学校に来てからクラスの雰囲気が少しずつ変わってきた。まあ、B6の雰囲気が変わってきたのだからクラスの雰囲気が変わるのは当たり前だ。 表情を緩めて教室を後にする。 は元々部活をしていなかったし、例え部活動をしていても3年だから引退しているため、放課後は暇だったりする。 進路は、専門学校に行くと決めている。 聖帝学園は全員受験というのが原則らしいからセンターは最低限の科目だけを受けることにしている。もの凄く無駄だと思うけど。 自宅に帰ってその日の夕食を作る。 はこちらに引っ越してくるまでは祖母とも一緒に住んでいたのだが、その祖母が他界したため、現在両親と自分の3人暮らしとなっている。 しかし、どうしても時々、考え事をしながら食事を作っていると4人分作ってしまうのだ。 両親は元々食が細いし、だってそこまで大食らいではない。 そのため、引っ越してきて間もなくの時期にそう言った事態に陥ったは仕方なくマンションの隣の部屋のインターホンを押した。 出てきたのは赤髪のロングヘアーの綺麗な男の子だった。 もの凄く不審そうな視線を送られていることに気づき「こんばんは」と挨拶をした。 「...押し売りか?要らんぞ」 「あー、ちょっと違うけど似てるかな?作りすぎちゃって、食べてくれるとありがたいというか...」 そう言ってタッパーを差し出した。 「えーと、1週間前に隣に引っ越してきたです。これからお世話になると思いますけど...」 そう言って覗うように赤髪の男の子を見上げた。 「ああ、そうだったのか。七瀬瞬だ。こちらこそ、よろしく。ちょっと待ってろ。入れ物を返す」 そう言って瞬は家の中に戻り、暫くしてが持ってきたタッパーを持って出てきた。 きちんと綺麗に洗ってある。 びっくりして瞬を見上げると彼は眉間に皺を寄せる。 「何だ?まだ汚れているか?」 「あ、ううん。綺麗。ありがとう」 「礼を言うのはこちらだ。ありがとう。じゃあな」 そう言って瞬はドアを閉めた。 それがと瞬の初対面だった。 そして、が聖帝学園に編入したときに瞬が居たのに驚いた。 聖帝学園は元々エスカレーター式の学校だから昔から聖帝に通っていたということになるだろう。 そして、瞬が『B6』のひとりだと聞いてまた驚いた。 人は見かけに依らないのだな、と。 「あー..また」 そう言っては天を仰ぐ。 考え事をしながら料理はするものではない。 また4人分作ってしまったのだ。 今日は両親の帰宅が遅いので、どれくらい余るかちょっと見当がつかない。もしかしたらその両親でさえ外食して帰るかもしれないのだ。 お隣にお裾分けする分をタッパーに詰めてひとりで食事を済ませた。 少し遅い時間に隣の家の鍵が開く音がした。 バタバタと慌てては玄関に向かってドアを開けた。 丁度瞬が家の中に入っていくところだった。 「七瀬君!」 名前を呼ばれて振り返ると既に寝る準部万端と言った格好のが玄関から顔を出していた。 「どうした、」 「ちょっと待ってて」 そう言ってが家の中に入っていく。 すぐにが出てきた。 スウェットの上に綿入り半纏を着ている。 「これ、また作りすぎちゃって。良かったら食べて」 自分を見上げて言う彼女に目を丸くした。 「ああ、助かる。...そういえば、今日」 そう言って瞬が口ごもった。 「何?」と首を傾げてが続きを促す。 「クッキー、草薙たちが美味いって...」 ちょっと面白くないと思った。 元々は他意があってお裾分けをくれているわけではない。 だが、それでもやっぱり彼女の作る何かを食べられるのは『お隣さん』という特典だと思っているのに... 去年までの彼女がどうだったかなんてクラスが違ったから知らないが、今年同じクラスになると、皆に菓子やら何やら配っている様子が目に入る。 どうやら『お隣さん』の特典ではなかったらしい。 「草薙君かぁ...ゴロちゃんは?」 そう言って何だか期待しているような目を向けられると益々面白くない。 だが、正直に「美味しいって草薙と奪い合いをしていたぞ」と答えた。 「ホント?!」 嬉しそうにが言う。 「...本当だ」 言いたくないことを言った。 「じゃあ、ちょっと待ってて」 そう言ってまたが自宅に入っていく。 何だろう、と大人しくの家のドアの前で待っているとまた別のものを貰った。 今日、一と悟郎が争奪戦を繰り広げていたクッキーだ。 「いや、草薙君って食べられれば文句ないって人じゃない?でも、ゴロちゃんはスイーツには五月蝿いから。ゴロちゃんが美味しいっていってくれたのなら、外れはないでしょうし」 そう言ってが笑う。 瞬は目をぱちくりとした。 「ほら、ウチのクラスって良い味見係が居るでしょう?」 つまりは、悟郎。時々別のB6の仲間もそれに加わっている。 「じゃあね。ごめんね、寒いのに足を止めさせて。おやすみ」 どういうことだ、と混乱している瞬を置いては白い息を吐きながらそう言って自宅に入っていく。 「明日!」 ドアをガッと掴んで瞬がそのドアが閉まるのを止めた。 は目を丸くしている。 「明日、洗って返す」 何でそのためにこんな彼女を驚かせるようなことをしたのだろう。 自分で自分がわからない... 「いいよ、いつでも。ほら、お隣さんだから」 笑ったを見て、『お隣さん』という特典をまた見つけた気がした。 「ああ、そうだな。お隣さんだもんな」 笑った瞬はそう言ってドアを掴んでいた手を離した。 「おやすみ」 ドアが閉まる寸前、柔らかい表情をした瞬は呟くようにそう言った。 |
24万のキリ番を踏んでくださった橘ゆいきさんからのリクエストです。
リクエスト内容としては、まとめると以下の通りでした。
| ・誰でも気軽に声を掛けやすいようなほのぼのかつ元気な性格 ・料理や裁縫など何かを作るのが趣味でやりたいことはやってみる ・身長が150センチないくらい ・瞬とお隣さん ・仲良くなったきっかけが作りすぎてしまった料理をおすそ分けをしたこと ・学校のみんなにお菓子を持っていったりして誰とでも仲がいい ・瞬がやきもちを焼く ・ほのぼの甘めな感じ |
こんな感じで細かく指定していただけました。
全部入れようと思って書いていくと長くなり、微妙にまとまりがないといいますか...
寧ろちゃんと応えられたかどうかが心配で心配で...
えーと。とにもかくにも。橘さん、リクエストありがとうございました!!
よろしければお受け取りくださいませ!!
桜風
08.11.7
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