| 紙の上を鉛筆が走る音がする。 「にゃあ」と可愛らしい猫に先導されながら草薙は足を向けて、やがて少し開けたところにでた。 裏道で、人通りの少ないそこに、猫の集会所があった。 そして、そこにとどまることを許された人間がしゃがみこんでいる。 「にゃあ」 誇らしげに鳴いた足元の猫をひと撫でして草薙はそちらに足を向けた。 ザッと砂を踏む音が聞こえて顔を上げたその人は目を丸くした。 「あ、え」と慌てたように立ち上がり、手に持っていたスケッチブックがバサリと落ちた。 「にゃ!」 草薙の足もとにいる猫が非難するように彼に向かって鳴く。 「悪かったって」 そう言ってバツが悪そうに頭を掻いた草薙はスケッチブックを拾って、「驚かせたみたいだな、わるい」と言ってスケッチブックを渡す。 「あ、うん」 全体的にぼさぼさで、長めのその前髪で顔は良く見えないが、声からして女の子のような気がする。 「俺は草薙一。あんたは?」 「 」 「ん?悪い。聞こえなかった。もっかいいいかな?」 ぼそぼそと呟くように彼女が答えたが、聞き取れなかった草薙が言う。 彼女はスケッチブックのページをめくって「」と書いた。 名前も女の子のようだ。 「さんか」 「何で、こんなところに?」 今度は聞取れた。 彼女も頑張って声を張ったのかもしれない。あまり張ってる声には聞こえなかったが。 「あー、こいつがぜひともここに来いって」 そう言って足元のかわいらしい猫を見下ろして草薙が言う。 「この..子?」 「おう。モデルをしたんだって自慢してきて。モデルって、絵を描いてもらったって事かー」 合点がいった。 猫のファッションショーのようなものがあるのだったら見たいと思ったが、流石にファッションはなかったらしい。 「あ、この子かな?」 自分のスケッチブックを捲って彼女が呟く。 「見せてもらってもいいか?」 そう言われて彼女は頷いた。 「わー。可愛いなー。可愛く描いてもらってるじゃないか!本物よりも二割増しじゃないのか?」 デレデレとしながらも足元の猫をからかうことを忘れない。 「にゃにゃ!!」 憤慨したように猫が鳴く。 「冗談だって!」 はははっと笑った草薙の足もとの猫はツンとそっぽを向いての足もとに向かって行った。 「ここらで一番のはいからさんなのにね」 彼女はそう言って膝を折り、猫の頭を撫でる。 「なあ、他のも見ていいか?」 「え、あ...」 言い淀んだ彼女はコクリと頷いた。 本人の了解が得られたため、草薙はスケッチブックを最初から捲っていく。 「おー、すげー」 そこには、ここらの猫のスケッチが詰まっていた。 草薙の知っている子もいれば、知らない子もいる。 「これ、ずっとここで?」 「たまに、違うけど。だいたい、ここ...」 「へー...」 猫の集会所と思われる場所はほかにも知っている。 勿論、ここも知っていたが、人がいることは見たことがないし、何より、人がいると猫は集まってこない。 動物と深く気持ちを通じさせることができる自分はともかく、他の人間がこの場所にとどまることを許されていることに驚いた。 「さんって、毎日ここにいるのか?」 「だいたいは」 スケッチの中には、濡れた猫もいた。 雨の日も来ているのだ。そして、雨の日、濡れるのに猫は彼女の前に姿を現す。 信頼関係ができているのだろうか。 「なあ、このスケッチブック借りていいか?」 イラストを描く友人がいる。きっと彼も見たら感心するだろう。刺激を受けるかもしれない。 「え?!」 「俺のツレにイラスト描くやつがいてさ。見せたら喜ぶかな、って」 「だ、ダメ!!」 彼女はそう叫んで草薙の持っているスケッチブックを奪い、地面に膝をついてそれを抱え込むようにする。 その背中が一切を拒絶するようで、草薙は動揺した。 「あ、えーと...」 拙いことを言ってしまったのかなと頭を掻く草薙に、その場にいた猫たちから一斉に非難の声が上がった。 「あー、さん。本当にごめんな。また今度、見せてくれよ」 そう言い置いて草薙はその場から逃げるように去っていく。 ふと振り返ると猫たちは彼女を慰めるように側に集まっていた。 |
桜風
15.1.8
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