| 窓の外をぼーっと眺める。 登校はするが、授業は碌にうけない。席についていても話を聞いていないという意味で。 あの後、彼女の事について案内してくれた猫に聞いてみたが詳しくは知らないと言った。 そして、非難された。彼女をいじめるな、と。 別にいじめるつもりなんてみじんもなかった。だから、冤罪だと思うが、抗議しても汲んでくれそうにないので素直に謝った。 確かに、罪悪感はある。 本日の授業がすべて終了したところで、担任が声をかけてきた。 補習をするというのだ。 草薙の成績は目を覆いたくなるようなもので、記憶力の悪さについては、自覚ある。 記憶力が悪いということは、暗記科目と言われる社会理科はまず苦手だ。 「今日はパス」 担任にそう言って草薙はその場を去って行こうとしたが、教科担当の鳳までやってきて、結局掴まり大人しく補習を受けることになった。 補習が終わるころには、陽も沈みかけていた。慣れない勉強で疲労困憊の草薙に同じく教えることに疲労困憊した担任は、それでも笑顔で「また明日ね」と笑って手を振った。 変な人が担任になったものだ。 友人の仙道も コンビニで適当に買い物をして自宅に向かう。 いつの間にか子供たちが楽しげに遊ぶ場所は無意識に避けるようになった。大抵、野球かサッカーで遊んでいるだから。 今は、ボールも見たくない。 だから、行動範囲もおのずとパターン化してしまい、大抵いわゆる不良のたまり場だった。 刺激を求めている草薙は喧嘩の中に刺激を見出していたが、それは一瞬の事で、最後には虚しさしか残らない。 その虚しさを誤魔化すようにまた喧嘩をする。 すでに日も沈んでいるし、とここ最近通らなかった道を通ってみることにした。 今日は喧嘩の気分でもない。 河川敷を歩いていると人影が見えた。 もう暗いのに、そこに座り込んでいる人影。 街灯の明かりが少しだけ届いており、それが誰かがわかった。 先日、彼女に不快な思いをさせてその後会わなかった。 彼女に会ったことのある猫の集会所に行ってもみたが、彼女は最近訪れていないと聞いた。 そして、やはり非難され、草薙は辟易したのだ。 しかし、猫たちの主張には草薙も少なからず同意できるため、彼女に会ったら改めて謝罪しようと思っていたのだ。 (あー、えと。アレだ...何て名前だったけ?) 記憶力は良くない方..というか悪い。 ただ、彼女の事を覚えていたのは、猫と一緒だったということで覚えやすかったのだ。 街中で声を掛けられて話をしただけでは絶対に覚えていない。自信がある。 実際、クラスメイト、まだ覚えられていない。 まあ、話してるうちに思い出すかなと思いながら足を向けた。 「イケメンさんだね」 そんな呟きが聞こえた。 にゃんこか?! そう思いながら静かに彼女に近づくと「カァーーー!」と威嚇された。 ビクリと一歩後ずさった草薙を彼女が振り返る。 「きゃっ」 「あ、えーと」 驚いて尻餅をついた彼女に手を差し伸べてみた。 「だ、大丈夫」 「そう」 差し出した手を虚しく引っ込めて草薙は彼女越しにイケメンと言われてたものを見た。 烏だ。日が暮れているのに、烏がいることに驚いたが、烏が大人しくスケッチをさせていることにも驚いた。 「カラスも描くんだ」 「動物、好きだから」 俯いてが言う。 「俺も俺も」 少し弾んだ声で草薙が返す。 「そうなの?」 「おう。でも、にゃんこが格別なんだけどな」 そう言ってにっと笑う。 草薙を見上げていた彼女は俯いてクスリと笑った。 子供みたいに笑う草薙がなんだかおかしい。こんなに体が大きいのに。 「今は、こいつ?」 そう言って烏を指差すと邪魔だと言わんばかりに烏は翼を広げて威嚇する。 「うん。もうちょっとで、完成」 草薙にそう言って烏を振り返ったは「ごめんね、遅くなって」と烏に声をかけた。 「カア」と烏は鳴く。“気にしない”と彼は言っている。 「ありがとう」とは烏に向かって言う。 「何言ってるのかわかんの?」 草薙は思わず聞いてしまった。 「え、ううん。なんと..なく?敵意がある、とか、ない..とか、そういう...」 語尾が恥ずかしそうに小さくなる。 「そっかー。俺もわかるんだぜ」 草薙がにっと笑って言う。 彼女は驚いたように草薙を見た。 「ホントホント。俺は、はっきりわかる」 「す、ごい」 ずいと草薙に顔を寄せて彼女は言う。至近距離で見た彼女の顔立ちは整っているように見えた。 「えーと、君はさ...」 彼女が首を傾げた。 「んーと。ごめん!」 ぱちんと手を合わせて草薙が謝罪した。 ぱちんと目の前で突然手をあわせられて彼女は目を丸くする。 「俺、記憶力がなくて。人の顔と名前も覚えるの苦手なんだよ。君の場合は、にゃんこと一緒にいただろう?だから、それで顔は覚えられてたんだけどな。名前が...もっかい聞いていいか?」 申し訳なさそうに言う草薙に「」と彼女は返した。今度は聞き取れた。 そうそう、前回は聞き取れなくて聞き返したらスケッチブックに書いてくれたんだった。 そんなことを思いだしながら「さん。さん...」と何度か口の中で呟き、草薙は復習した。 「よし、覚えた!」 「忘れても、いい..よ」 「いーや。さんの名前忘れたらにゃんこたちがうるさいだろうしな」 「そ、かな?」 「カアー」 のんびり会話をしていると烏が鳴く。 「あ、ごめん。もうちょっと待ってて」 そう言って彼女は烏に向き直り、抱えていたスケッチブックに鉛筆を滑らせた。 |
桜風
15.1.15
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