| 学校をさぼった草薙はふと足を止めた。ベンチに座る彼女の姿を見つけたのだ。 同年代だと思っていた。 だから、この時間は学校だろう。 もしかしたら、世に言う創立記念日というやつなのかもしれない。 足を向けて、そして立ち止まる。 (名前、なんだっけ?) あれだけ復習したのに、すっかり忘れてしまった。 聞いたのは10日くらい前。 ガリガリと頭を掻き、そして彼女に向かって足を向けた。 「よう」 無難な声かけ。あとは、さりげなく名前を聞き出すだけ... そう思っていたのに、振り返った彼女は怯えたように見上げてきた。 そして、草薙だと分かるとほっと息を吐く。 「同年代だと思ってたけど、もしかして年上?」 草薙が問う。 大学生なら、もうちょっと時間の融通が利くのかもしれないと思いなおしたのだ。 「草薙さん、いくつ..で、すか?」 「俺は、18歳。高3。そっちは?」 草薙が言うと彼女は少し黙りこみ、「、です。今年で18」という。 (バレてる) 内心冷や汗をかきながら草薙は名前の方に触れず「何だ、同じ年か」と言った。 「フルネーム、覚えようと..するから?」 「...どうだろう。本当に苦手なんだよ。にゃんこの名前なら即行覚えられるのに」 バツが悪そうに草薙が返した。 「あー、と。さんは、こんな時間から外に居て大丈夫なのか?」 話題を変えようと草薙が言うと、今度は彼女がバツの悪そうな表情を浮かべた。 「く、草薙..さんは?」 彼女の反応に、鈍い草薙もなんとなく察する。 取り敢えずそれは触れてほしくない話ということだ。 自分も、多分サッカーの事を聞かれたらそう言う反応をするだろう。 いや、違うな。自分は激昂するだろう。 過去を思い出して少し気が立つ。 目の前に立っていたが一歩後ずさった。 「あ、悪い。えーと、学校サボってるだけ」 そう言いながら彼女の隣に座ってみる。それなりに距離を置いて。 「怒られ..ない?」 「怒られるって言うか..まあ、そうだな。怒られるかもな。今年赴任してきた人が担任になったんだけどな」 そう言って草薙は学校の話をする。 ほんのちょっと。ほんの少しだが、学校が楽しくなってきた気がした。 元々、友人たちとワイワイする場所としての認識なので、楽しいのだが、煩わしさも大きく、だから時々サボる。 学校という場所には嫌な思い出もあるから。 澱のように沈んでいる昏い感情を抑えて表面上の学校の話をした草薙の頭には立ち上がってぽんと手を置いた。 立ち上がらなければ彼の頭に手が届かない。 草薙はきょとんと彼女を見上げた。 すると、彼女は青い顔をしていた。 「えーと。さん?」 「はい...」 「顔色、悪いけど。大丈夫か?」 「わ、私...勝手に、さ、触って...」 青くなった理由がそれらしい。 草薙は苦笑して「別に、気にしないけど」と返す。 「だ、大丈夫?」 「うん」 びっくりしたが、嫌な感じはしない。不思議だった。 流石の草薙でも、いきなり他人に触られて何も思わないということはない。 「で、何で俺の頭ぽんぽんしたの?」 「ぽ、ぽんぽん?!」 「じゃあ、ぽん、かな?」 「あ、えと。寂しそうな、顔..したの」 「俺が?」 思わず問い返す。 彼女は頷いた。 「そうか、そっか」 草薙はそう呟き、 「さんって」と彼女を見上げた。 「な、なに?!」 心底怯えた表情をする彼女に多少傷つきながらも、 「にゃんこみたいだな」 と言う。 「にゃん、こ?」 「にゃんこっていうか、動物?そりゃ、俺ら人間も動物の仲間だけどさ。こう..野性的というか?」 「それは、草薙さん」 「俺も、まあ..本能的なところあるから否定できないけど」 草薙の言葉に彼女はクスリと笑う。 思わず草薙は彼女の前髪を右手で軽く上げてみた。 現れた素顔は、同じ年と聞いていたから少し幼く見えるが、可愛らしい。 「や!」 しかし、彼女に手を叩き落とされた。 「あ、わるい」 「ご、ごめんなさい」 俯いた彼女は、途端に見えない壁のようなものを作った。 会話を拒絶している空気をまとったのだ。 「じゃ、あ。私行きますので」 そう言って駆けていく。 さほど足は速くないらしく、ゆっくりと遠ざかっていく背中を見て草薙はため息を吐いた。 何だか、酷い罪悪感を覚えた。 |
桜風
15.1.29
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