| 何となく、さぼり続ける気にならず、昼食にありつこうと思って学校に向かった。 バカサイユで昼食を摂りながら、先ほどのの反応を話してみると揶揄する者、呆れる者それぞれの反応を見せた。 「照れたんじゃないの?」 友人の一人、風門寺悟郎が言う。 「照れた..のかな?」 何だか違う気もするが。 「クケー!」 ぴょんと肩に載ってきた白いトカゲ、トゲーが草薙に一生懸命語りかけている。 周囲には「クケッ!クケッケ!!クケクケー!」としか聞こえていないが、トゲーの言葉に草薙はふんふんと頷いている。 トカゲが鳴くことに誰も驚かないのは、これが常の事で、更には常識に疎い者たちの集まりであるB6とだからだ。 「なあ、瑞希」 トゲーの飼い主というか、親友である斑目瑞希に草薙が声をかけた。 彼は大抵寝ている。無気力なのが彼のトレードマークなのだ。 「...なに?」 「トゲーの言葉なんだけど」 「僕も..人に触れられるの...嫌い。一も、嫌なこと、ある...でしょ」 そう指摘されて口を噤む。 何かを指摘されて嫌な思いをするわけではなく、触れられるだけでも嫌なことがある。 斑目はそう言って、力尽きたように眠る。いびきをかきながら。 「何だよ、ナギ。惚れちゃったか?」 キシシと笑いながらからかうように仙道清春が言い、「そんなんじゃないけど」と草薙が返す。 そう。そんなのではない。 ああ、そうだ。近所で見た野良猫で、懐かない子を見たら構いたくなるのと同じかもしれない。 午後の授業は出席し、補習は逃げ切った。 ぷらぷらと街中を歩いていると「にゃー!」と知り合いの猫が走ってきた。 草薙の足もとでにゃーにゃー鳴くその子の言葉に彼は顔色を変えて走り出す。 向かったのは、と初めて会った猫の集会所だった。 開けたところに出てとっさに周囲を確認する。 「おい!」 隅っこで男たちが足元の何かを見下ろしてニヤニヤとしていた。 草薙の声に反応して振り返った男は一瞬だけ顔をこわばらせた。 声をかけてきた男が草薙一だと知っているのだ。 そして、その草薙一の強さも。 最近ここらでは一番強いのではないかと言われている男だ。 複数人でかかって負けたチームもあると聞く。 「お、おい」 隣に立つ男に彼は声をかけた。 「あ?」と面倒くさそうに振り返った男も草薙一の存在に固まる。 だが、こちらの人数を考えると、むしろ優勢だと判断したのだろう。 彼らは全員そろってその場を離れ、草薙の前に立つ。 隙間から見えたのは丸くなった人の背中。そしてその脇からはひょろりと猫のしっぽが覗いている。 きっと、猫を庇っているのだろう。 「よーし、お前ら。俺は今凄く機嫌が悪くなった」 そう言った草薙は凶暴に笑った。 人間の体を殴打する音がその場に響き、やがて複数の足音と罵声が遠ざかり、その場が静かになる。 ゆっくりと体を起こしたは「たぶん、もうだいじょうぶだよ」と抱えていた猫に声をかけた。 猫は一度彼女にすり寄り、そしてその場から離れていく。 (おいおい、お母さんにゃんこだったのかよ) もっと痛めつけておけばよかったと思いながら草薙は砂だらけになっている彼女に足を向けた。 「ちゃん、大丈夫?」 「ちゃん?!」 驚きの声を上げたに苦笑し「さん」と言い直す。 「く、草薙さん怪我してます!!」 (こんな声も出るんだ...) 苦笑して草薙は「慣れてるから」と返す。 「絆創膏、持ってます」 そう言って彼女はリュックの中をごそごそと漁る。 が、手を止めてリュックをひっくり返して中身をぶちまけた。 「え、ちょっと」 草薙が困惑していると彼女はその中にあったポーチを見つけて手に取り、その中から絆創膏を取り出した。 「ありました!」 「あ、うん」 彼女の手にあるのは、肉球がプリントされている非常に可愛らしいもので、喧嘩をして作った怪我には似つかわしくない。 しかし、これで断れば彼女は委縮するような気がした。 「消毒..やっぱり、コンビニに...」 「いいよ」 苦笑して草薙がいう。 否定されたのかと思ったは俯いた。 「それ、頂戴。あとでつけるから」 「で、で、も。迷惑...」 「俺、にゃんこ好きだし」 そう言ってにっと笑った草薙が差し出している掌には誇らしげに手にした絆創膏を置いた。 「サンキュ」 そう言った草薙がの頬に手を伸ばすと彼女はビクリと固まった。 「砂がついてる」と言ってそれを拭ってやる。 「さんって、触られるの、嫌い?」 草薙が問う。 彼女は話し始めた。 彼女は昔は快活な性格だったらしい。 最初は軽いからかいのようなものだった。 からかわれていた彼女も周りの冗談と理解していた。 だが、それは小さくも、しかし確実に静かに積もっていき、やがて、自信がなくなった。 周りが怖くて、周りの目が怖くて、そして接触を拒否した。 「学校、行ってないから」 親に申し訳ないと思いつつ、学校という場が苦手になってしまい、高校受験ができなかったのだ。 「あ、で..も!え、と...」 「ゆっくりでいいぜ」 苦笑して草薙が言った。 そういう経緯があって、彼女は人とコミュニケーションを取るための言葉を失くした。 だから、コミュニケーションを取ろうとしている今、一杯一杯で、言葉が中々出てこない。 口数が少なかったり、どもったりしていたのは、こちらの様子を見ながら話していて、言葉を選んでいたのだろう。 「高卒認定試験って知ってる?」 「あー...大学受験できる資格を取るための試験とか..だっけ?」 その言葉に彼女は頷いた。 「それ、頑張る..予定」 「へー、すごいじゃん」 草薙の言葉に彼女は俯いて笑う。 「俺、勉強嫌いでさらに苦手だけどさ。今、担任が補習してくれるって言ってるんだ。俺、そういうの要らないって思ってたけど。 さんに教えられるようになったら教えてやるよ」 草薙の言葉に彼女は驚いたように顔を上げた。 「あと、これ邪魔。普段から出すの嫌だったら...」 の前髪を右側に流しながら草薙は言い、「あった」ポケットを探ってヘアピンを取り出す。 「これ、挿してなって。顔見て話したいし」 「ど、どうした..の?」 「今日、ちょっと髪が邪魔だって言ったら、ツレ..友達がくれたんだ。最初ここで会ったときに言ったの覚えてるか?絵を描くのが好きな奴が友達にいるんだよ」 「これ、借りても...」 「あげるよ」 「で、も..友達に、もらったもの...」 「あいつは気にしないって。むしろ、可愛い女の子にあげたって言ったら、『ヘアピンもきっとその方がポペラ嬉しいはずだしいいよ』って笑いそうだし」 (ポペラ?) は首を傾げたが、それよりも草薙の放った言葉が今更ながら頭に入り、そして顔を赤くする。 「ははっ、真っ赤だ」 「草薙さんの、せい..です」 頭を抱えて顔を隠す彼女に苦笑し、 「じゃあ、連絡先交換しないか?」 と提案する。 「私、携帯電話持ってない」 「え、マジで?」 「うん...」 「んじゃ、何かあったら、ここにいるにゃんこに伝言してくれ。こいつらが俺の学校に伝えに来てくれるはずだから」 草薙の言葉に彼女は傍に寄ってきた猫を見た。 すると、その子は「にゃあ」と自信ありげに鳴く。 「お願い、できる..の?」 「にゃおん」 「任せなさいってさ」 「でも、逆ができないね。私、この子、た、ちの言葉はわからない」 「あー...」 言われてみればそうだな、と思ったが 「ついてこいとかそういう雰囲気はわかるんだよな?」 「うん」 「んじゃ、それで充分だよ。それに、基本的に俺がさんを探して見つけることにしたら問題ない」 「探して、見つけて..くれるの?」 「おう!このにゃんこたちに協力してもらえれば余裕だ」 自信満々に笑って言う草薙につられても笑う。 「あ。ほら、可愛い」 「く、草薙さん!」 顔を赤くするに草薙はまた声をあげて笑った。 |
桜風
15.2.5
ブラウザバックでお戻りください